【前半】現役産業医が考える優秀な産業看護職とは?

株式会社iCAREの代表取締役CEO兼 現役産業医としても活動中の山田洋太が『現役産業医が考える優秀な産業看護職とは?』をテーマに対談を行いました。前半は「優秀な産業看護職の定義」、「産業看護職としてのスキルのバランス」をテーマに語ります。

さんぽむら
本日はよろしくお願いします。聞き手は私、さんぽむらの堀部です。現在、産業看護職の皆様のキャリアアップに効果的なコミュニティ作りを行っています。

山田さん
よろしくお願いします。私は2012年頃から産業保健を自身の専門分野として定めました。iCAREの代表取締役CEOとして200社を超えるお客様の産業保健体制構築に協力させていただきました。またiCAREに在籍している産業看護職の教育/研修にもずっと関わっています。

さんぽむら
みんな、教育期間が終わって一人前になりましたよね。

山田さん
本当ですよね。今回の対談を通じて忘れかけていた「ここ大事なのに…!」を振り返っていければといいと思います。そして私が考える優秀な産業看護職の定義を皆さんに共有できればと思います。

さんぽむら
それではこれまでに何人もの産業看護職の方々と関わってきた経験から見えた取り入れるべき取組みや、「ここはもう少し行けるのに…」と感じて改善点をお話いただければと思います!

山田さん
「違う!何を言ってるんだよ!」ってSNSで炎上したら怖いなぁ…。

さんぽむら
そこは皆様から意見をいただいて改善していければと思います(笑)
優秀な産業看護職=企業価値を高める存在

さんぽむら
改めて山田洋太が思い描く優秀な産業看護職の定義を教えてください。

山田さん
私は「優秀な産業看護職=企業価値を高める存在」だと考えています。しっかりとした研究論文を書いて世間に成果を示される方も確かに優秀でしょう。ただ私の中では企業価値を高められる産業看護職こそが最も価値があります。

さんぽむら
「企業価値を高める」って壮大で漠然としていませんか…?

山田さん
そうですね(笑)。

さんぽむら
何か具体例をお願いします!

山田さん
例えば会社の従業員の健康問題を事前に予防/解決できる仕組みを作ることができれば、リスクが減り相対的に企業価値が高まりますよね?

さんぽむら
確かに…!!

山田さん
産業看護職は企業のパートナーとして、例に挙げたような取組みを積極的に行っていって欲しいですよね。

さんぽむら
なるほど。そのような企業価値の高め方は一般的な教育機関でも教えていますか?

山田さん
少なくとも産業医科大学では教えてないと思います。恐らく私の価値観はまだマイナーですね(笑)。

さんぽむら
これから浸透させていきたいですか?

山田さん
はい!これはちょっと譲れないですね(笑)。
企業価値を高めることができる産業看護職って人事/総務や産業医とも対等に物事を進められるし、自立も独立もできますからね。もしかしたら独立して既に活躍されている方の中には私と同じ価値観の方もいるかもしれません。
企業価値を高めることができる産業看護職って人事/総務や産業医とも対等に物事を進められるし、自立も独立もできますからね。もしかしたら独立して既に活躍されている方の中には私と同じ価値観の方もいるかもしれません。
産業保健スキルと業務遂行スキルを両立させる

さんぽむら
では企業価値を高めるために、まず何から始めたらよいでしょうか?

山田さん
まずは自分が目指すべき場所の確認ですね。下図をご覧ください。
【たて軸】産業看護職としてのスキル
【よこ軸】業務を遂行するためのビジネススキル
【たて軸】産業看護職としてのスキル
【よこ軸】業務を遂行するためのビジネススキル


山田さん
この2軸で見ていくとビギナーの方は「困った」のエリアに入ります。

さんぽむら
右も左も分からない状態ですよね。入社したばかりの新人は皆さん、この状態ですよね。

山田さん
横軸の業務遂行スキルは本対談で私が強く伝えたい要素の領域ですね。産業看護職が企業価値を高めるためには様々な職種な方々と連携し、物事を前に進めていかなければならないので重要です。

さんぽむら
縦軸についてもお願いします。

山田さん
縦軸は産業看護職としての知識などに該当する部分ですね。こちらは大学での勉強、臨床などで良い所まで高めることができます。でも教育機関ってビジネスのための業務遂行スキルには注目しませんよね。大事なのに。。。

さんぽむら
言われてみるとそうかもしれません。

山田さん
そしてこの縦軸のみを追求していった状態を「産業保健オタク」と名付けました。
産業看護職として十分な知識があっても、それを存分に活かすための業務遂行するスキルが十分じゃないからトラブルに直面することがある。
産業看護職として十分な知識があっても、それを存分に活かすための業務遂行するスキルが十分じゃないからトラブルに直面することがある。

さんぽむら
横軸のみを追求した「仕事マシーン」は?

山田さん
こちらはビジネススキルは高くても、産業看護職としての知識が足りない状態です。こちらも知識不足だから業務中にトラブルに直面します。

さんぽむら
どちらか1つだけではダメなんですね…。

山田さん
縦軸と横軸が組み合わさった右上の「優秀」というゾーンにぜひ入ってほしいです。
ベージックな業務遂行能力の所持はもちろん、PDCAサイクルを回す設計をして、様々な人と交渉しながら進捗を追って行けるところまでぜひやっていただきたい。
ベージックな業務遂行能力の所持はもちろん、PDCAサイクルを回す設計をして、様々な人と交渉しながら進捗を追って行けるところまでぜひやっていただきたい。

さんぽむら
皆さん、なぜ、「優秀」のゾーンを目指さないのでしょうか?

山田さん
「産業保健オタク」を目指しちゃうからでしょうね。
産業看護職の参考書に目を通すと「産業保健オタク」を目指した描き方が多いように感じます。でも本当に意識が高い方々はやっぱり横軸のビジネススキルもちゃんと持っています。
産業看護職の参考書に目を通すと「産業保健オタク」を目指した描き方が多いように感じます。でも本当に意識が高い方々はやっぱり横軸のビジネススキルもちゃんと持っています。
産業看護職としてより価値を高めるために

山田さん
続いては産業看護職の習熟度に応じた改善点を考えていきましょう。習熟度を3つに区切ります。
①ビギナーの産業看護職
・何が問題か分からない
・どう進めればいいのか分からない
②中堅の産業看護職
・知識・技術はあるけど仕事が進まない
・PC知識、交渉といった業務遂行スキルの習得を怠りがち
③異端児の産業看護職
・従業員へ対応もやや冷たく感じられることも
まず1番の「ビギナーの産業看護職」に関しては、そもそも何が問題になっているかが分からないし、進め方も分からないですよね。
①ビギナーの産業看護職
・何が問題か分からない
・どう進めればいいのか分からない
②中堅の産業看護職
・知識・技術はあるけど仕事が進まない
・PC知識、交渉といった業務遂行スキルの習得を怠りがち
③異端児の産業看護職
・従業員へ対応もやや冷たく感じられることも
まず1番の「ビギナーの産業看護職」に関しては、そもそも何が問題になっているかが分からないし、進め方も分からないですよね。

さんぽむら
本当にそうですね。最初の半年とかは右も左も分からないですよね。

山田さん
これはどこの業界でもしょうがないです。今まで病院で勤務していた看護師/保健師の方が産業看護職の世界に転職してくる時は、「それまでの経験を捨ててきて欲しい」といつも伝えています。前職の臨床経験が邪魔する場面もあります。真っさらな気持ちで飛び込んできて欲しいですね。
2番の「中堅の産業看護職」の方は知識と技術があるんだけれども、批評家的な感じになっちゃったりで仕事が進まないこともありますね。非常にもったいない…!
2番の「中堅の産業看護職」の方は知識と技術があるんだけれども、批評家的な感じになっちゃったりで仕事が進まないこともありますね。非常にもったいない…!

さんぽむら
「私は◯◯って言ったのに、仕事が進まないのは□□のせい!(怒)」になってしまう感じでしょうか?

山田さん
その気持ちは凄く理解できるんですけど、仕事を前に進めるための業務遂行スキルを高めてほしいですね。交渉術を持っていれば状況を変えられるし、より自身の価値を高められますね。
3番の「異端児の産業看護職」の人は看護系の資格を持っているけど、人事/総合職側で就職してるような。そういう方が業務の一環として、産業看護の分野の業務も担当するイメージです。
3番の「異端児の産業看護職」の人は看護系の資格を持っているけど、人事/総合職側で就職してるような。そういう方が業務の一環として、産業看護の分野の業務も担当するイメージです。

さんぽむら
なかなかレアな経歴ですね。まさに異端児だ…!

山田さん
業務を前に進める能力は凄く高いんだけど、従業員の対応が冷たく感じられてしまうこともあります。

さんぽむら
サバサバしすぎてるんでしょうか?

山田さん
人事/総務の役割としてはサバサバしていても良いんでしょうけどね。ただ産業看護職としては個人/組織をエンパワーメントする必要があるので要改善ですね。
脱オタクで優秀な産業看護職に

山田さん
本対談では「中堅の産業看護職」についてもうもう少し踏み込ませてください。

さんぽむら
かしこまりました。彼らは知識と技術があるのにもったいないですよね。産業看護職の方々は一回り経験してきたら、一度は批評的になるのでしょうか?

山田さん
そうですね。「会社が悪い…!会社が動いてくれない…!」という気持ちに陥ってしまっては能動的に業務遂行スキルを高めていくって発想にたどり着かないでしょうね。

さんぽむら
往々にありそうなことですね。

山田さん
やっぱり業務遂行スキルを高めて、社内で影響力や存在感を発揮しないと自分のやりたい事はできません。もっと自分が何をできるかアピールしていかないと。

さんぽむら
アピールって結構、大事ですよね。クライアントによっては産業看護職に何をお願いできるか分からなくて悩んでいると思います。

山田さん
確かに多くの企業から「産業看護職に何を任せたらいいか分からない…」って声は届けられていますよね。
税理士や会計士のは役割が法律で定められているからクライアントも役割を把握しやすいのでしょうけど。
税理士や会計士のは役割が法律で定められているからクライアントも役割を把握しやすいのでしょうけど。

さんぽむら
産業看護職側から「私はこういう事ができる!」ってアピールできたらお互いがハッピーになると思います。

山田さん
うん、産業看護職って法律って後ろ盾がないけど無限大な自由があるんですよ!
定義がないからこそ自身の成長で企業に提供できる価値をどんどん増やしていくことができる!周囲を出し抜けますよ(笑)。
定義がないからこそ自身の成長で企業に提供できる価値をどんどん増やしていくことができる!周囲を出し抜けますよ(笑)。

さんぽむら
自身の役割を開拓できる余剰があるんですね。

山田さん
だからこそ自分が出来る事を口頭で伝えられないといけないし、更には実績を価値に変換していかないといけないんですよ。

さんぽむら
長くなってきたのでこのあたりで後半に移りましょう。引き続きよろしくお願いします。

山田さん
後半は「学ぶべき業務遂行スキル」「産業看護職の今後の展望」をテーマにお話できればと思います。