健康管理の最新常識
2022年7月7日 更新 / 2021年11月11日 公開

独立産業保健師に聞く
「自分らしい価値」を出すには?

独立産業保健師に聞く 「自分らしい価値」を出すには?

iCARE代表取締役CEO 山田洋太が、独立産業保健師として活躍する後藤みずえ氏と
「産業看護職の価値とキャリア」をテーマに対談を行いました。

産業看護職に従事された方ならば一度は
「自分にしかできない仕事は何か?」
「他社でも自分の経験やスキルは通用するのか?」
「独立して働くには?」と考えたことがあるのではないでしょうか。
独立後、幅広いフィールドで産業保健師として活躍する後藤みずえ氏から知見を伺いました。

点と点を結んで線にする

山田
山田
本日はよろしくお願いします!まずは後藤さんの経歴をお聞かせください。
後藤さん
後藤さん
2017年に産業保健師として独立し、現在は4社と業務委託契約を結んでます。産業保健師以外の活動では行政系のメンタル相談、健康経営のエキスパートアドバイザーも行ってます。プライベートではライフワークとして週1回のスナック営業、他にはマインドフルネスやアウェアネスのワークの運営を手伝っています。
山田
山田
ありがとうございます。独立される前は?
後藤さん
後藤さん
保健師専攻課のある看護短大を卒業した後、専門課程に進学。臨床として大学病院で4年間勤務しました。退職後は留学と言う名の休憩を(笑)。帰国後はフリーターとして働きながら、ちょこちょこ海外に行く生活を2年ほど続けた後に産業保健師になりたかった事を思い出して労働衛生機関に就職しました。勤務中には修士課程も。
山田
山田
産業保健師になりたかった事を思い出すものなのでしょうか(笑)。
後藤さん
後藤さん
フリーターの生活が居心地がよかったので…(笑)。11年労働衛生機関に勤めた後に独立して現在に至ります。
山田
山田
後藤さんの業務範囲は幅広いですよね。一ヶ月あたり、それぞれが占める割合は?
後藤さん
後藤さん
時間で言うと8割は産業保健師としてです。自身で企画を立案したり、資料を作成したり様々な事に時間を取られます。エネルギー的にはライフワークです。
山田
山田
産業保健師として4社と業務委託契約を結ばれているとのことですが、それぞれの規模を教えてください。
後藤さん
後藤さん
会社規模が1番大きいのが事業所帯として2,000人以上で、私が契約しているのは2〜300人の事務所です。80〜100人の中小規模の事業所が2つ。最後の1つは全てが小規模の分散事業所の本社と契約してます。
山田
山田
独立されるまでは労働衛生機関で働かれてましたよね。在籍中はギャップ、課題のようなはものは感じられましたか?
後藤さん
後藤さん
時間軸の遅さですね。目の前に課題があるのに直ぐに解決しなかったり、ちょっと様子を見るとか。他には私自身の問題ではありますが週5 定刻通りに出社するのが嫌でした。「なんで皆、ラッシュアワーに電車乗るんだろう…」とか。社会不適合ですよね(苦笑)。
山田
山田
これまでのお話を聞いていてキャリア形成が非常にユニークですよね!人生の様々な偶然から意図的にキャリア形成を行うプランド・ハプンスタンスセオリーに近いものを感じます。バラバラの経験であったとしても、将来的には点と点が結ばれて線になっていくような。
後藤さん
後藤さん
確かに他所で私のキャリア形成のお話をした時、D・クランボルツ教授が発表したプランド・ハプンスタンスセオリーについても言及しました。点と点を結ぶ事については故スティーブ・ジョブズ氏も2005年の米国スタンフォード大学卒業式のスピーチでも話してましたよね。
山田
山田
キャリア形成の過程で様々な点を作ってきましたよね。新しい点に移行する際の基準は?
後藤さん
後藤さん
これ面白そうとか。好奇心です。
山田
山田
行政系のメンタル相談など、フリーランス産業保健師以外としての活動は次のステップを示唆するものになりますか?
後藤さん
後藤さん
そうですね。もしも取り組んでみて違うと感じたり、上手く行かなかったら違うことをすればいいですしね。点を結んでいく過程を通じて自分は雇われる方ではないと把握しました。
山田
山田
なるほど。後藤さんが自分らしく生きる上で葛藤はありましたか?組織から独立する上で感じたリスクなどもお聞かせください。
後藤さん
後藤さん
私はリスクをあまり取ったつもりはないんですよね…(笑)。「退路を断って…!」と言ったものはないです。ただリスク回避は人間に本来、備わっている機能だと思います。安心で居心地がいいと今の組織に感じているならばそのままで良いと思います。

ただ組織に居ることが自分の本当にやりたい事の妨げになっているのならば一度は外れてもいいかと思います。それもいきなり外れるのではなく組織の外に出た時に生きる経験を積みながら。
山田
山田
自分と向き合う時間を大事にされてます?
後藤さん
後藤さん
加齢と共に向き合うようになるんじゃないでしょうか(笑)。振り返れば20代の時はガムシャラでしたし、思慮が至らないところもありました。30代後半頃には自分の内側から湧いてくる疑問と向き合うための時間が増えましたね。「このままでいいのかな?」と。

この仕事を続けているとある程度は器用になりますが限界を感じることがあります。その人自身の器が限界を決めると悟ったり。「まずは自分自身が成長しないと提供する支援のクオリティーは上がらないんだ」という結論を出したり。
山田
山田
なるほど。素晴らしいですね。ぶっちゃけ、後藤さんは独立されてよかったですか?
後藤さん
後藤さん
凄くよかったです!満足度が高いです。フリーランスになると全ての責任は自分が被ることになります。保証も無いです。だけど無数の選択肢と、圧倒的な自由がある。仕事に励んでもいいし、ライフワークを楽しんでもいいし、ボランティアに従事してもいい。

考え方も変わり、「研修を受ける=自己投資」になるんですよね。これらが自分にとっては最高のプレゼントでした。
山田
山田
独立時に感じた課題はありましたか?個人事業主になるわけですし。
後藤さん
後藤さん
全て自分で決断しなくてはならなくいのが大変でした。誰かに決めてもらうことはできません。それこそ自分が提供するサービスに値段をつけたことが無かったので腹をくくるしかなかったです。労働衛生機関在籍時に、企業と契約を結ぶ現場を見ていて良かったです。
山田
山田
興味深いですね。
後藤さん
後藤さん
労働衛生機関在籍時に「どうして企業は産業保健師にお金を払うのだろう?」って疑問を持ちました。そこで「契約した企業は費用対効果は出ているの?」って当時の上司に質問しました。
山田
山田
尖ってますね(笑)。
後藤さん
後藤さん
当時の上司は面白がってくれて実際の商談に連れて行ってくれました。
山田
山田
組織にいる間に積極的に学習されたのですね。
後藤さん
後藤さん
商談は表に見えないことですからね。サービスがはじまる前の交渉の場を学習する良い機会でした。ラッキーでしたね。
山田
山田
最終的には企業が産業看護職にお金を払う理由はわかりましたか?
後藤さん
後藤さん
言葉で表すのは難しいです…(笑)。突き詰めると企業が産業保健師にお金を支払うのは「役立つから」だと思います。自分だけができるサービスを提供する必要があると考えるようにもなりました。

IT化で活躍の場を広げる

山田
山田
続いては産業看護職の業界が抱える課題や、価値についてお話いただきたいのですが。
後藤さん
後藤さん
課題、知らいないです…。私、業界背負ってないですし(笑)。
山田
山田
もっと産業看護職の方々が価値を出せる提案があれば!
後藤さん
後藤さん
従事されている産業保健師の皆様はスキルあると思うんです。ただそのスキルを1つの企業でしか力を発揮できないのはもったいないです。もっと様々な場で発揮できればと思います。これはあくまで組織に所属して活動するのが前提の、日本の産業保健の体制だからかもしれませんが。
山田
山田
もっと産業保健師が活躍できる場所が広がって欲しいですか?
後藤さん
後藤さん
そうですね。iCAREさんのヘルスTECHを活用してこれまで一人で週5でやっていることを1日居れば成り立つ仕組みを構築して、担当できる事業所を増やす事ができれば産業保健の恩恵にあずかれる組織や人が増えると思います。

これからはテクノロジーで置き換えられることは置き換えて、人間にしかできないことを開拓した方が良いと思います。
山田
山田
なるほど。私はIT化の流れは産業医の方に先行してやって来ているように感じています。昔は所属したり、専属したりすることがメインでした。しかし現在は一人の産業医が複数の事業所を担当する事例が増え来てますからね。この流れは産業看護職にも来る可能性が高いと思います。この流れが進めば会社間の比較であったり事業所毎を比較できたり、「A社でうまくいったことが、B社で上手くいかなかった」って知見を溜めながらPDCAを回せることができます。
後藤さん
後藤さん
そうですよね。様々な企業と関わることでスキルもあがるし、ニーズに応じたサービスが提供できると思っています。

価値は提供したサービスに発生する

後藤さん
後藤さん
1つよろしいでしょうか?
山田
山田
何でしょうか?
後藤さん
後藤さん
私、先ほど洋太さんが発言された価値って言葉に引っかかってたんですよ。産業看護職に置いて、私は知識や技術を身に着けて「私は価値がある!」ってアピールするのはあまり好きではないです。実際に提供したサービスに価値が発生することにフォーカスして欲しいです。いくら素晴らしい知識を技術を持っていたとしても「A社には正解でも、同じことをB社に提供しても無価値」といった可能性もあります。
山田
山田
企業毎に正解は異なりますよね。このさじ加減を見極めるのって人間じゃなければできませんよね。この領域が専門職に従事し続けた人間が提供できる価値ですよね。(あっ!価値って言ってしまった!!怒られちゃう!)
後藤さん
後藤さん
大丈夫ですよ (笑)。独立後に組織に所属していた時とまったく同じサービスを提供しても通用するかと言うとNOでしたからね。

新しい働き方はもう始まっている

山田
山田
今日はありがとうございます。最後に後藤さんは皆に独立することを勧めますか?
後藤さん
後藤さん
NOです(笑)。どうやって生きていくか、ライフプラン次第だと思います。組織でマネジメントをしたい方や、部下を育成することに喜びを感じられる方もいますしね。
山田
山田
なるほど。
後藤さん
後藤さん
私は独立して働いてますが、組織に戻りたいと思ったら戻ってもいいと考えています。独立が素晴らしいわけではなく、幸せになるための手段の一つです。1つの方向性としてこれからは1個キャリアの保証があって、余白の時間で好きなことに取組むのもいいかなと思います。

逆に洋太さんに産業保健師についての今後の展望を聞きたいのですが(笑)。産業保健分野では王道が崩れてきてるように感じるのですがどう思われます?従来の組織が崩れてきてるし、テクノロジーが発達してきてる。産業看護職がこれまでと違うアプローチをはじめてると感じています。
山田
山田
そうですね。今の日本でも働き方は変わりつつありますね。フレックスタイムになったり、裁量制になったり、副業・兼業になったり。従事される方の属性も海外からの方、お年寄り、障害者雇用なども。これらが複雑に絡み合っています。米国を見れば「なぜ私たちは組織に所属するか?」といったところまで行き着いています。

このような状況下で産業看護職は時代のニーズに応えたものを提供する必要があります。これまでのパターナリズムは通じません。もっと従業員と企業との関係性を考えた産業保健の時代が近づいていように考えています。
後藤さん
後藤さん
これからどうなるんでしょうね。私はまだ具体的に絵が見えているわけではないですが(笑)。

視聴者から寄せられた質問

山田
山田
今回の対談を視聴された方から後藤さん宛に届いた質問にお答えいただければと思います。

Q.労働衛生機関に在職中に実際の商談に同席する機会があったとのことですが、その際の経験は現在の契約交渉に役立っていますか?

後藤さん
後藤さん
人事総務部の方々の生の声が聞けたという意味では役に立っています。企業のニーズですとか、保健師を導入されたい理由ですとか、本音に触れる良い機会でした。
山田
山田
フラットな状態で企業のニーズを聞けたんですね。
後藤さん
後藤さん
その際に分かったことが、思いのほか(企業は)専門家に期待してない(笑)。
山田
山田
よ〜〜く分かります。僕も5年前に営業した時に「正直なこと言っていいですかって。もう専門家に期待してないんです」って単刀直入にいわれて撤退したことあります(笑)。専門家って期待されてないっていうところからスタートした方がいいですよね。
後藤さん
後藤さん
本音に触れることができた経験が今、働く上で本当に役にたっています。

Q:独立した後にお仕事の相談をしたいときとか、ちょっと愚痴りたい時はどのように対応していますか?

後藤さん
後藤さん
すごい良い質問ですね。皆様が本当に必要な時は産業医に相談したり、同業者の先輩に聞いてもらうこともいいですよね。ナースステーションや休憩室で同僚と喋るのもストレス発散の方法として素晴らしいと思います。ただ私の場合は人に相談したり、愚痴ることはあまりないです…(笑)

私の場合、喋り終わったら問題解決するように動きます。「なにに自分がモヤモヤしているのか?」という原因を分析します。過去の自分自身の事例と照らし合わせながら、事例検討していきます。既に経験したことがあるものならば回答は得られるので解決できます。この事例検討しながら解決するスキルは、産業保健師として職務をこなす上で必要なスキルですね。
山田
山田
僕が心療内科だった時に学んだソリューション・フォーカスト・アプローチに似ていますね。問題や原因にフォーカスするのではなく、本人がすでに持ち合わせている能力や資質といったリソースに焦点を当て、改善を図る考え方です。

本日はありがとうございました。またお話を聞かせてください!

執筆・監修

  • 後藤みずえ
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