健康診断結果が届いたらどうする?会社の義務と法令ををわかりやすく解説

「健康診断は受けるだけじゃダメなの?」
「会社に健康診断の結果が届いたら、何をすればいいの?」
と思うことはありませんか。
健康診断結果が届いたあと保管するだけでなく、事後措置としてやるべきことがいくつかあります。
そこで今回は
「会社に健康診断の結果が届いたあと何をすればいいの?」
といった疑問についてお答えします。
健康診断受診後に発生する会社の義務
職場の健康診断を実施すると、1ヶ月後くらいに健康診断結果が返ってきます。会社に健康診断が届いたあとやるべきことは、次の6つです。
- 健康診断結果の通知
- 医師による就業判定
- 労働基準監督署への報告
- 有所見者への保健指導(努力義務)
- 健康診断結果の5年間の保存
1つずつ詳しく解説していきます。
【ステップ1】健康診断結果の通知
健康診断結果が会社に届いたら、従業員(受診した本人)に結果を通知する必要があります。なぜなら、労働安全衛生法第66条で以下のように定められているからです。
第六十六条の六 事業者は、第六十六条第一項から第四項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない。
労働安全衛生法 第7章 健康の保持増進のための措置(第64条-第71条)|安全衛生情報センター
健診クリニックによっては、本人用の健診結果と会社保管用の健診結果を2部発行してもらえることもあるので、その場合は通知の業務を楽にすることができます。
また労働安全衛生規則 第51条の4により、「遅滞なく結果を通知すること」とされています。そのため、可能な限り早く結果を通知することが重要です。
過去に健診結果の通知遅れにより、「雇用者に慰謝料330万を支払った事例」もあります。このときは、以下のように「1か月以内に通知すべきだった」と裁判所が判断していたようです。
法人側は労働契約に基づき、女性に対し健康診断を行ったのであるから、結果は適切な時期に知らせる義務を負っていたというべきである。法人側は遅くとも健診の1か月後である3月18日までに女性に健診結果を通知する義務があったというべきで、同時点が過ぎたことから債務不履行責任を生じたというべきである。
健診通知の遅れ、雇用者に慰謝料330万|医療維新 – m3.comの医療コラム
上記はあくまでも例であり、仮に1か月以内に通知していても問題にならないとは限りません。そのため、可能な限り早く通知するのが望ましいでしょう。
【ステップ2】医師による就業判定
健康診断の事後措置として最も重要なのが就業判定です。労働安全衛生法第66条の4に基づき、異常のある労働者について医師の意見を聴かなければなりません。
会社で選任している産業医に従業員の健康診断結果を見てもらい、就業上の問題がないかを確認してもらうことが多いです。
- 健康診断の結果(過去の結果を含む)
- 月の労働時間
- ストレスチェックの結果
- 業務内容・職位
などを踏まえて「就業上問題がないか」を判断していきます。
人事労務担当としては、次のような流れで進めます。
- 健康診断結果の診断、有所見者の確認
- 産業医への健康診断結果の共有
- 必要に応じて産業医面談を実施
- 安全衛生委員会などで共有
第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
労働安全衛生法
【ステップ3】労働基準監督署への報告
50人を超える事業場は、定期健康診断結果報告書を労働基準監督署に提出する義務があります。
定期健康診断結果報告書とは、
- 健康診断を受診した人の数
- 従業員数
- 有所見者(異常が見つかった人)
などをまとめた報告書のこと。
Excelや健康管理システムを使って各項目の有所見者数を事業場ごとに集計して記入する必要があります。
労働安全衛生法52条により以下のように定められています。
第五十二条 常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、第四十四条、第四十五条又は第四十八条の健康診断(定期のものに限る。)を行なつたときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書様式第六号(表面)(裏面)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
労働安全衛生規則
【ステップ4】有所見者への保健指導(努力義務)
労働安全衛生法第66条の7にて、健康診断の結果に異常があった方には保健指導をすることが努力義務となっています。例えば、健康教育をしたり、健康相談などです。
保健指導には、健保が提供している「特定保健指導」というものがあります。40歳以上75歳未満の方向けに、メタボ予防を目的とした国の制度です。
まずは健保の特定保健指導の手続きや対象者を確認し、余裕があればそれ以外の方への保健指導も検討していきましょう。
第六十六条の七 事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
2 労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。
労働安全衛生法
【ステップ5】健康診断結果の5年間の保存
健康診断結果は、一定期間会社で保管しておく必要があります。
一般健康診断の保存期間は労働安全衛生規則第51条に基づき5年です。
特殊健康診断の場合は、以下のように7年、30年などのケースもあり、厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」という資料にまとまっています。
健康診断の名称 | 記録の保存年数 |
---|---|
じん肺健康診断 | 7年 |
鉛健康診断 | 5年 |
四アルキル鉛健康診断 | 5年 |
有機溶剤等健康診断 | 5年 |
特定化学物質健康診断 | 5年(物資によっては30年) |
高気圧業務健康診断 | 5年 |
電離放射線健康診断 | 30年 |
緊急時電離放射線健康診断 | 30年 |
除染等電離放射線健康診断 | 30年 |
石綿健康診断 | 40年 |
過去の健康診断の結果を探すために倉庫を探していては時間がかかってしまいますし、5年分の健康診断結果の保存場所も必要になってしまいます。
第五十一条 事業者は、第四十三条、第四十四条若しくは第四十五条から第四十八条までの健康診断若しくは法第六十六条第四項の規定による指示を受けて行つた健康診断(同条第五項ただし書の場合において当該労働者が受けた健康診断を含む。次条において「第四十三条等の健康診断」という。)又は法第六十六条の二の自ら受けた健康診断の結果に基づき、健康診断個人票(様式第五号)を作成して、これを五年間保存しなければならない。
労働安全衛生規則
スムーズに健康診断結果を管理するために、健康診断の結果をデータ化したり、健診管理システムを導入してペーパーレス化することがおすすめです。
健康診断結果の取り扱いで注意する5つのポイント
健康診断の結果に関して、注意すべきポイントやよくある質問として以下の5つを解説していきます。
- 健診結果を閲覧してもいいのは誰か?
- オプション検査や人間ドックなど法定外項目を把握するか?
- 受診を拒む従業員に健診結果の提出を命じられるか?
- 健診結果のコピーと原本のどちらを会社で保管すべき?
- 再検査が必要となった場合、会社で費用を負担すべき?
【質問1】健診結果を閲覧してもいいのは誰か?
健康診断結果は個人情報の中でも特に重要な要配慮個人情報で、誰でも結果を閲覧できるわけではありません。
- 産業保健スタッフ(産業医・保健師など)
- 人事労務担当
など閲覧できる人を限定し、安全衛生委員会で労使間の合意の上、就業規則等で定めておきましょう。
詳しくは「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」を参照ください。
【質問2】オプション検査や人間ドックなど法定外項目を把握するか?
法律で定められた健康診断の法定項目は、会社で保管する義務があります。しかし法定外項目については、会社が保管する必要はありません。
法定外項目について会社が把握する場合は、その分の安全配慮義務も発生してしまうため、会社として「法定外項目を把握するべきかどうか」検討が必要です。
産業医と相談の上、会社としての方針を決めて、従業員や健診クリニックから結果を回収する際に伝えましょう。
【質問3】受診を拒む従業員に健診結果の提出を命じられるか?
健康診断は従業員にも受診の義務があります。
健康診断結果の提出を拒む従業員には、会社として受診や健診結果の提出を命じることができます。
【質問4】健康診断の結果は、コピーと原本どちらを会社で保管すべき?
結論から言うと、コピーでも問題ありません。
さらに言うと、コピーして紙で残すのではなく、「電子データ」として記録を残すことも可能です。
具体的にいうと、厚生労働省の「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令について」にて、電子データでの記録についてまとめられています。
【質問5】再検査が必要となった場合、会社で費用を負担すべき?
再検査が必要になった場合の費用は、原則、個人負担です。産業医の指示で再検査が必要になった場合は、会社負担となるケースもあります。
再検査の例を含めて、健康診断費用の負担は状況によって対応が分かれるため注意が必要です。
よくある健康診断結果の管理方法の課題
一般的な健康診断結果の管理方法は、健診センターから届いた紙をそのまま倉庫に保管するというもの。中には、スキャンしたPDFデータで管理しているケースもあります。
このように紙やPDFなどで健康診断結果を管理していると2つの問題があります。
- セキュリティの問題
- 「人的コスト」の問題
紙媒体の健康診断結果を間違えて紛失したり、プリンターの中に置き忘れて情報漏洩したり、閲覧してはいけない人の健康診断をメールで誤送信するリスクがあります。健康診断結果は配慮が必要な個人情報に該当するため慎重に取り扱わなければなりません。
産業医面談のたびに過去の健康診断結果を倉庫から取り出したり、健康診断結果に基づく就業判定を1枚ずつ紙の健康診断結果を見ながら実施するのは膨大な時間を要します。
まとめ
今回は、「会社に健康診断の結果が届いたあと何をすればいいの?」といった疑問についてお答えしました。
健康診断は、受診結果を回収して終わりではありません。結果の通知、事後措置の就業判定や保健指導、労基署への報告などの業務があります。
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