テレワークで損なわれるメンタルヘルス。管理職によるラインケア実践のコツ

「通勤のストレスがなくて、社員の暮らしに合わせた働き方で生産性が上がる」と言われていたテレワークですが、実際には腰痛や肩こり、メンタルヘルスなど多くの健康問題を引き起こすことが分かってきました。
健康問題は、集中力や生産性の低下に繋がります。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年5月の調査では、自宅での勤務で効率が「上がった」と実感している社会人は33.8%に留まり、逆に「下がった」と答えた人は66.2%にも及びました。*1
従業員の健康リスクを下げるには、上司が部下の体調の異変に気付いてフォローする「ラインケア」が重要になります。
しかし、テレワークでは上司が部下の様子を把握しづらいため、上司が体調不良になかなか気づけなくなります。いつの間にか仕事のパフォーマンスが下がり、疾病に繋がってしまうこともあります。
ここではテレワークで起こる健康被害をどうやってラインケアで予防していくかをまとめていきます。今後更に広がるテレワークを問題なく行っていくために、ラインケアを進めていきましょう。
テレワーク中の健康管理の法的な課題と解決策については、こちらの記事をご参照ください。
*1日本生産性本部 第1回 働く人の意識調査 新型コロナウイルス感染症が組織で働く人の意識に及ぼす影響を調査 2020年5月11日(月)~13日(水)、20歳以上の日本の雇用者1,100名を対象にインターネット調査を実施
テレワークは健康リスクを増加させる
新型コロナウイルスの影響でテレワーク開始したことにより、約31%の人が身体の不調を感じていることがオムロン ヘルスケア株式会社による調査で明らかになりました(2020年4月実施)*2
「肩こり」や「精神的なストレス」、「腰痛」の症状が最も多く報告されています。

弊社の健康管理システムCarelyに寄せられた相談内容でも、コロナ後はメンタルヘルスや睡眠、筋骨格症状についての相談件数が格段に増加しています。具体的には、次のような相談が寄せられています。*3
- 免疫を高める食事が知りたい。
- メッセージやチャットのやり取りでは、誤解が生じたりうまく伝わらないことも多くイライラてしまうようになった。
- 良い座り方を教えてほしい。また座りながらできる腰回りのストレッチを教えてほしい。
肩こりや腰痛は労災になることがあります。厚生労働省のガイドラインにあるような作業環境を、テレワークや在宅勤務でも整備する必要があります(こちら)。
メンタルヘルスは生産性に大きな影響を与えるため、特に注意が必要です。メンタル不調が長引くと休職や退職に発展することもあります。
テレワークでは上司のサポートや同僚との関わりが薄れ、孤独感やストレスを感じます。チャットではうまく伝わらなかったり、時間がかかってしまいます。また、ちゃんと仕事しているか上司から監視されているというプレッシャーを感じることもあります。
テレワークで従業員にどのようなストレスが生じているのかを把握し、会社として対応していくことが求められます。
*2オムロンヘルスケア株式会社「テレワークとなった働き世代1,000人へ緊急アンケート」全国の労働者1,024人を対象にインターネット調査を実施(調査期間2020年4月22日(水)~2020年4月24日(金))
*3株式会社iCARE「健康管理システム「Carely」、Withコロナ期の健康相談を調査しました」
産業保健の基本はラインによるケア
厚生労働省は、企業のメンタルヘルスケアは、4つのケアに分けて実施するという指針を出しています。その4つのケアの内の1つが、「ラインによるケア(ラインケア)」です。

「ラインによるケア」は、管理監督者が部下に対して行うケアで、日頃の職場環境の把握と改善をする、いつもと様子の違う部下に気づく、部下の相談対応を行う、というケアが必要だとされています。
ラインケアの詳しい説明はこちらの記事をご参照ください。
テレワークのラインケアがもつ課題
体調の悪化を防ぐためには、管理監督者が「いつもと違う」部下に早く気付いて対処するラインケアが重要です。しかしテレワークでは、部下の様子が見えにくいためラインケアが希薄になってしまう課題があります。
オフィスにいれば、自然と部下の様子が目に入って不調に気づくこともあります。一方、テレワークではオンライン会議やチャットでのやり取りになるので、なかなか不調に気づけません。
通常のラインケアと比べて、テレワークでは様々なラインケアの課題が出てきます。
ラインケアの方法 | オフィスの場合 | テレワークの場合 |
---|---|---|
職場環境等の改善をする | 上司と部下が同じ環境にいるので、作業環境の課題を共有できる。 | テレワークしている場所の環境が分からない。会社の裁量で環境を変えるのは難しい。 |
いつもと違う部下に気づく | 部下の働く姿を見ているので、部下の行動様式の変化に気づきやすい。 | 上司が顔を見る機会が少ないため、様子がよく分からない。 |
部下からの相談にのる | 休憩室やふと会った時などに相談できる。声をかけやすい。 | チャットや電話を使うため会話量や雑談の機会が減る。連絡するハードルが上がり、相談しにくい。 |
テレワークでは部下の様子が見えないため、健康不調のサインを見落としてしまいます。不調のサインとは表情や服装の乱れ、衣服の不潔さ、生産性や思考力の低下などがあります。
テレワークを行う場合は、その健康リスクを企業や上司が理解して対策を練る必要があります。
テレワーク特有のラインケアの工夫
健康的にテレワークを進めるためには、健康被害を未然に防ぐことと(1次予防)、体調の異変にいち早く気づくことが大切です(2次予防)。テレワークだからこそできる、ラインケアの方法をご紹介します。
1次予防~健康被害を未然に防ぐ~
テレワークで体調不良になる原因は、身体を動かす機会が減ることやオンラインで連絡を取り合うことによるストレスや孤独感などがあります。それらの原因を解消するための工夫には次のようなものがあります。
- 行動を活性化させる(例. ラジオ体操する時間を作る)
- システムアクセスやメールする時間帯や回数を制限する
- オンライン通話やチャットの中に雑談する場を作る
- 仕事以外でコミュニケーションをとる機会を設ける
実際に取り組みを行っている会社の例をご紹介します。
- レノボ・ジャパン
在宅勤務で社員が孤立することのないように、オンラインで同僚と運動する機会を作ったりやコーヒータイムを導入したりしている。 - ユニ・チャーム
同僚とオンライン飲み会を開催する場合は、1回につき3000円を補助している。
出典)在宅勤務、生産性向上探る GMOはチャット数制限:日本経済新聞
2次予防~不調者をいち早く見つける~
1次予防よりも大切なのが、体調を崩している不調者をいち早く見つける2次予防です。不調に気づき適切に対処しなければ、安全配慮義務違反になってしまうかもしれません。従業員の様子が見えにくいテレワークでは、今まで以上に社員同士で体調の変化に注意してもらうようにしましょう。
管理監督者に部下のどんな不調サインに注意する必要があるかを周知して、気になる部下がいたら人事や健康保健スタッフに繋いでもらうようにすると良いでしょう
テレワークでできる対策には、次のようなものがあります。
- オンラインミーティングで最初の数分だけでもみんなのカメラをオンにする。
- 上司と1対1で相談ミーティングをする機会を設ける。
- 従業員の自発的な飲み会を促進し、お互いの様子を知る機会を作る。
人事の立場でも、PCログや勤怠管理から、遅刻や無断欠勤が続いていないか見つけることができます。
ラインケアでは情報の取り扱いに注意
上司や管理監督者は、部下の異変に気づくことはできても問題の解決をするのには限界があります。そのため、人事や産業保健スタッフと連携する必要が出てきます。
例えば保健師面談をして体調改善へのアドバイスをもらったり、産業医が就業可能なレベルかどうかを判断することがあります。それらは定期健康診断結果やストレスチェックの結果を見ながら進めていきます。
しかし健康情報(健診・ストレスチェック・面談内容等)は個人情報のため、アクセスできるのは産業保健スタッフに限られます。健康情報取扱規程により、会社(人事)は健康情報にアクセスすることはできません。
健康情報取扱規程の詳しい説明はこちらの資料をご参照ください。
厚生労働省『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き』
テレワークでラインケアを実施するとき、実際には次のような流れになります。
- テレワークでも健康情報にアクセスできる環境を整備する。
- 管理監督者の申出により、産業保健スタッフが不調な社員への措置を判断する
(追加で疲労蓄積度チェックリストなどを実施すると良いでしょう) - もしメンタル不調や過重労働が認められるのであればオンライン面談をセッティングする
健康情報を紙やエクセルでまとめている場合は、情報のオンライン化を進める必要があります。社外へ資料を持ち出すことができないと、産業医や保健師が必ず出社しなければなりません。情報管理の安全性が担保された上で、産業保健スタッフがテレワークをしていても健康情報にアクセスできるようにする必要があります。
テレワークの場合、他の従業員の目を気にせずに相談できるというメリットもあります。一方で、従業員のそばに家族がいて通話するのが憚られることもあります。チャット機能も使用するなど、テレワークならではの柔軟なラインケアを実施していきましょう。