ストレスチェックの対象者とは?基本情報と実施する際の注意点5つを紹介

「ストレスチェックを実施したいが、どのような従業員が対象なの?」
「ストレスチェックを実施する際のポイントを知りたい」
このようにお考えではありませんか。
ストレスチェックは、企業単位ではなく事業場単位で常時使用する労働者が50人以上の場合、年に1回以上実施しなければなりません。
しかし「労働者が50人以上」に、どういった勤務形態の従業員が含まれるのか知らなければ、適正なストレスチェックが実施できません。
そこで今回は、
- ストレスチェックの具体的な対象者
- ストレスチェック制度の目的
- ストレスチェックを実施する際の注意点
を紹介します。誰を対象にストレスチェックをすべきかお悩みの方は、ぜひ最後までご一読ください。
ストレスチェックの対象者とは?
アルバイトや派遣社員、海外勤務者など、労働者の働き方はさまざまです。次に、ストレスチェックの対象者となる条件について詳細を解説します。
ストレスチェックの義務化対象となる「常時使用する労働者」とは
ストレスチェック制度で定められる「対象者」には2つの範囲があります。ひとつは、ストレスチェック制度の義務化対象になるかどうかの労働者の範囲。もうひとつは、実際にストレスチェックを受検するべき労働者の範囲です。
まずは義務化の対象になる「常時使用する労働者」については以下の通りです。
①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度 実施マニュアル」厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室
上記の①②を両方とも満たす従業員が「常時使用する労働者」であり、常時使用する労働者が事業所内に50人以上いる場合にストレスチェックの実施義務が発生します。
そのため、パート・アルバイト・派遣社員は「常時使用する労働者」としてカウントされます。
ストレスチェックの受検対象者である労働者の範囲はどこまで?
「会社に勤めている」という点で同じであっても、雇用形態や勤務状況などによってストレスチェックの受検対象者であるかが決定します。
- 執行役員
- パート・アルバイト
- 派遣社員
- 出向者
- 海外勤務者
- 休職者
- 入社直後の社員
- 退職予定の社員
基本的には、ストレスチェックの実施期間に在籍しているかがポイントです。それぞれ詳細をチェックしていきましょう。
役員
役員は「使用者」であり、「労働者」の範囲に含まれません。そのため、事業者は役員に対してストレスチェックを受けさせる法的義務はありません。執行役員の場合、業務に綿密に関わっていることが多いことから受検対象とする企業もあります。
ただし、いわゆる「名ばかり役員」のように名称だけの使用者は、実質的に労働者であるため受検する義務が発生します。詳しくは以下の記事をご確認ください。
パート・アルバイト
パートやアルバイトの場合、契約期間や労働時間数が前述した「ストレスチェック対象者の条件」に該当すれば受検対象となります(※一般定期健康診断の基準と同じ)。
派遣社員
派遣先の事業場がストレスチェックの実施義務にあたるかの対象に含まれますが、ストレスチェックを受検させる義務があるのは派遣先ではなく派遣元です。ただし、事業場や部署の中で派遣社員の割合が多い場合、集団分析で部署単位を正確に把握するためにも派遣先がまとめて実施するケースがあります。
派遣先がまとめてストレスチェックを実施した場合、受験費用を派遣先・派遣元どちらが負担するかは協議次第となります。
出向者
出向先の事業場がストレスチェックの実施義務にあたるかの対象に含まれますが、受検する義務があるかは出向者の労働契約関係によって異なります。出向元と出向先のどちらの事業者が実施するかは、賃金の支払いや指揮命令権などをふまえて判断されます。
海外勤務者
海外勤務者であっても、日本の企業に在籍しているのであれば、ストレスチェックの実施義務が発生します。雇用先が海外の現地法人である場合は日本の法律が適用されないため、ストレスチェックの対象者となりません。
ただし、受検対象ではないものの、海外勤務の場合は国内勤務よりもストレスがかかりやすい環境であるため、任意の予防策として実施する企業が多いです。
また、海外への長期出張など、タイミングが合わず日本でのストレスチェックを受けられない場合もあるでしょう。その場合は、海外勤務者に対して別途ストレスチェックを行います。
休職者
病気、産休、育休、介護などの理由により休職している場合、ストレスチェックを受検させる義務は発生しません。
入社直後の社員
新卒・中途採用者であっても、他の社員と同様にストレスチェックを実施させることがおすすめです。たとえ入職直後であっても、ストレスチェックを実施する意味はあります。
ストレスチェックは1年単位で見る「単年評価」ではなく、経過を見る「経年評価」を扱うことが予防として重要となるためです。
また集団分析の際に、勤続年数別の分析をおこなうことで、職場環境にひそむ「新入社員がストレスを感じやすいリスク要因」を把握することができます。
退職予定の社員
退職を予定している社員も、ストレスチェックの対象です。ストレスチェックの対象となる基準は、あくまでも実施時期に在籍しているかどうかです。
実施時期に在籍しているのであれば、しっかりとストレスチェックを受けなければなりません。
ストレスチェック制度のメリットと目的・意義
ストレスチェック制度には、以下のような目的・意義があります。
労働者にとってのメリット
「ストレスチェックを受けるように言われるものの、検査を受ける意味が分からない」という声が社員からあがってきます。そのような人には、ストレスチェックを受検することのメリットを説明してください。
- 自らが感じているストレスの程度を視覚的に把握できる
- 産業医によるメンタルヘルスのサポートを受けられる
- 結果の分析により職場環境の改善につながる
たとえば、特定の部署においてストレス反応が高い場合は何らかの原因があることが予想されます。その部署の業務量や業務内容を洗い出し、原因を見つけられれば働きやすい職場環境へ改善しやすくなります。
事業者にとっての目的・意義
事業者にとっての目的・意義は、下記が考えられます。
- メンタル不調による欠勤や休職を未然に予防できる
- プレゼンティズム(就業中の生産性低下)に気付ける
- 職場環境の改善に役立つデータが手に入る
従業員がメンタル不調になる要因は様々です。ストレスチェックではメンタル不調になりやすいハイリスクな従業員や部署を把握することが可能です。仕事の量や質、上司や同僚との人間関係について定量的に把握できるチャンスです。
なお、ストレスチェックを始めとする労務管理は、従業員が50人を超えると煩雑になります。下記の資料で50人を超えると発生する義務がわかるため、あらためて把握したい場合はぜひご活用ください。
また、下記の記事でストレスチェック制度を解説しています。ストレスチェックの対象者や罰則の有無がわかるため、ぜひご一読ください。

ストレスチェックを実施する際の注意点5つ
ストレスチェックを実施する際の注意点は、下記のとおりです。
- ストレスチェックを受けるよう強要してはいけない
- 人事権を持つ役員などが実施者になるのはNG
- 役員などが対象者の許可なく結果を見ることも禁止
- ストレスチェックをやりっぱなしにしない
- ストレスチェックは報告書提出の義務がある
特に、ストレスチェックの難しい点は、ストレスチェックを労働者に対して強要できない点です。順番に解説します。
【注意点1】ストレスチェックを受けるよう強要してはいけない
ストレスチェックを受検させるのは事業者の義務ですが、「労働者側に受検義務がないため」受検を強制できないことを理解しておきましょう。労働者に受検を勧めること、受検の有無を確認することはできます。受検しないからといって仕事内容に影響を与えたり、懲戒処分の対象としたりすることはできません。
また、ストレスチェックの実施自体が労働者の負荷とならないよう配慮する必要があります。ストレスチェックの目的を労働者に説明し、検査結果が今後の仕事内容に影響するわけではないことを理解してもらう必要があります。また、実施時期はなるべく繁忙期に重ならないようにするのが望ましいです。
【注意点2】人事権を持つ役員などが実施者になるのはNG
ストレスの多い労働者にとって、「ストレスチェックの結果次第で、配置転換させられるのでは?」と心配事が浮かんでくるかもしれません。人事権を持つ役員や管理職が実施者となれば、労働者にとって不利益な人事異動が行われ、ますます精神面での負荷が大きくなる可能性があります。このような事態を防ぐため、実施者は産業医や保健師など厚生労働省が定める者が担当すると決められています。
【注意点3】役員などが対象者の許可なく結果を見ることも禁止
ストレスチェックの実施者(産業医や保健師など)は、対象者の同意を得ずに検査結果を事業者に漏らしてはなりません。実施者だけでなく、実施事務従事者(社内のメンタルヘルス担当者、事務職員、外部機関の担当者など)についても同様です。ストレスチェックにあたって知り得た情報を、対象者以外に漏らしてはなりません。もちろん、役員や管理職が許可なくストレスチェックの結果を見ることも厳禁です。
ストレスチェックの実施者・実施事務従事者が守秘義務に違反した場合は刑罰の対象となりますので、十分に注意しましょう。社内でストレスチェックや面接指導の結果を扱う場合も、紛失や漏洩がないよう適切に管理する必要があります。
【注意点4】ストレスチェックをやりっぱなしにしない
ストレスチェックを行っても、やりっぱなしでは高い効果を見込めません。ストレスチェックは、あくまでも現状を把握するためのツールです。結果から従業員のストレス状態や原因を分析して対策を打つことで、メンタル不調による生産性の低下や欠勤、休職などを防止できます。
しかし、ストレスチェックの分析や改善は簡単ではありません。以下のように、難しいとされるポイントが3つあります。
- そもそも集団分析の方法がわからない
- 高ストレス者への対応がわからない
- 産業医とうまく連携できない
もしもストレスチェック後にすべきことで悩んでいる方は、以下の資料を無料ダウンロードのうえご活用ください。
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【注意点5】ストレスチェックは報告書提出の義務がある
常時50人以上の労働者が勤務する事業場は、1年に1回、労働基準監督署へ報告書を提出しなければなりません。提出する際は本社でまとめて報告するのではなく、事業場ごとに所管の労基署に提出する必要があります。
報告書は厚生労働省からダウンロードすることが可能です。下記の記事で報告書の詳しい書き方を紹介しているので、迷わずに作成したい場合はぜひご一読ください。

まとめ:対象者を把握して法令に従ったストレスチェックを実施
はじめてストレスチェックを実施する企業にとって分かりづらい点が、ストレスチェックの対象者です。実施義務が発生するかどうかの対象範囲と、実際に受検する対象範囲の違いは正しく理解していないと、知らないうちに法令違反となってしまうため丁寧に確認しましょう。
また支社や店舗などで50名以下の事業場の場合でもなるべく本社同様にストレスチェックを実施することをおすすめします。50名以下の事業場では努力義務ではあるので、実施しない特別な理由がない限りは安全配慮義務を徹底するために、ストレスチェックを実施することが一般的です。