ストレスチェックとは?企業の義務と運用の流れをわかりやすく解説

労働安全衛生法で企業の義務となっているストレスチェック。
2015年の義務化から厚生労働省のマニュアルやQ&Aの改訂もあったため、最新の動向も含めた法律の知識や、用語、業務の流れなど人事や経営者がおさえておきたい要点をわかりやすく紹介します。
ストレスチェック制度の目的
ストレスチェックとは、従業員のストレスを把握し職場環境を改善するための一連の制度のことです。労働安全衛生法の改正により、2015年12月1日に施行されました。
労働安全衛生法では第六十六条の十に「心理的な負担の程度を把握するための検査等」として規定されています。
ストレスチェック制度の目的は、以下の3点です。
- 定期的にストレスについて気付きを促し、従業員のストレスを低減させること
- 職場のストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげること
- ストレスの高い者を早期に発見し、医師の面談につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること
うつ病をスクリーニングする「二次予防」だと勘違いされやすいですが、あくまでメンタル不調を事前に防止する「一次予防」として位置付けられています。
制度の運用開始から数年間を経て、厚生労働省のマニュアルやQ&Aも何度か改訂されています。最新の資料としては以下の3つを参照するのがおすすめです。
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(令和3年2月改訂)
ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(令和4年3月)
ストレスチェックの義務
ストレスチェックの義務について、要点をまとめると以下の5つです。
- 従業員50名以上の事業場でストレスチェックの実施義務がある
- ストレスチェック結果をもとに高ストレス者への対応をする必要がある
- 労働基準監督署へ報告書の提出が必要である
- 集団分析や職場環境改善は努力義務である
- 従業員にストレスチェックを受検する義務はない(健康診断は受診の義務があるが、ストレスチェックはない)
企業側の義務と、労働者側の義務に分けて解説します。
企業の義務
ストレスチェック制度は、企業の義務として労働安全衛生法66条の10及び労働安全衛生規則第五十二条の九で規定されています。
(心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法)
労働安全衛生規則
第五十二条の九 事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次に掲げる事項について法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において、「検査」という。)を行わなければならない。
一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
三 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
ストレスチェックは「労働者数が50人以上の事業場」で年に1回以上実施することが義務付けられています。検査を実施して終わりではなく、高ストレスと判定されて医師による面談を希望した従業員に対する面接指導も実施します。その後、労働基準監督署へ報告書を提出することも罰則つきで義務付けられています。
また、ストレスチェック結果を組織単位ごとに分析して職場環境改善をする「集団分析」も努力義務として規定されています。
労働者の義務
ストレスチェックについて、労働者に対する義務はありません。
ストレスチェック制度の目的があくまで「労働者自身が仕事によるストレス状況を把握すること」であるため、本人の意思により受検しない選択もできるようになっています。
回答を強制されてしまうと、会社に自分のストレスを知られたくないという心理から、本心での回答が得られないという実務的な都合もあります。
しかしながら、「ストレスチェック指針」では「全ての労働者がストレスチェックを受検することが望ましい」と書かれています。
ストレスチェックに関して、労働者に対して受検を義務付ける規定が置かれていないのは、メンタルヘルス不調で治療中のため受検の負担が大きい等の特別な理由がある労働者にまで受検を強要する必要がないためであり、本制度を効果的なものとするためにも、全ての労働者がストレスチェックを受検することが望ましい。
ストレスチェック指針
ストレスチェックの受検率を高めるための工夫は、以下の記事を参考にしてください。
健康診断は労働者にも受診義務があるため、受診率を100%とする必要があるのですが、ストレスチェックは任意のため受検率が100%ではないことが多いです。
厚生労働省の「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(令和4年3月)」によると、ストレスチェックの受検率が100%の企業は15.7%しかありません。
一方で、約8割の企業は受検率が「80%以上」となっています。集団分析の結果を有効活用するためにも、受検率は「80%以上」を目標にしましょう。

実施率を上げる取組として、ストレスチェックの実施について、社内規定を設けるという方法もあります。詳しくは以下の記事をご参照ください。
ストレスチェックの受検対象者
ストレスチェックの受検対象者は、「常時使用する労働者」です。
「常時使用する労働者」の定義は定期健康診断の対象者となる「常時使用する労働者」と同様で、以下2つの要件を満たす従業員です。
①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(令和3年2月改訂)
役員や派遣社員についても受検対象者になるのかなど、詳細は以下の記事を参照ください。
ストレスチェック調査票の項目数
ストレスチェックの検査項目には一般的に、80項目・57項目・23項目の3種類が厚生労働省より提示されています。厚生労働省は「職業性ストレス簡易調査票(57 項目)」の利用を推奨していましたが、2015年のストレスチェック義務化から数年経過し、より詳細なストレス状況を可視化できる「80項目」の調査票でストレスチェックを実施する企業が増えてきています。
ストレスチェックの調査票は「労働安全衛生規則第五十二条の九」や「ストレスチェック指針」により下記の3つの項目が含まれていれば良いとされています。
設問が増えることで受検率の低下には注意が必要ですが、企業として「独自の設問」を加えることも可能です。
- 職場における労働者の心理的な負担の原因に関する項目
- 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
- 職場における他の労働者による支援に関する項目
(参考:「労働安全衛生規則」「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)

57項目のストレスチェックには以下の特徴があります。
- 「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」の3つの概念に分けてストレスを計測することができる。
- 心理的な反応だけでなく、身体的な反応(疲労感、身体愁訴など)も計測できる。
- ネガティブな反応だけでなく、ポジティブな反応も評価できる。
- あらゆる業種で利用できる。
(参考:職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル―より効果的な職場環境等の改善対策のためにー )
ストレスチェックの結果は、「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」の3つに分けてグラフで書き出されることが多いです。
例えば、「イライラ感」や「抑うつ感」などのストレス反応が出ていても、プライベートな出来事が原因のこともあります。会社としては、仕事が原因のストレスを主に改善していく必要があるため「仕事の量的負担」「職場の対人関係」「働きがい」など仕事によるストレス要因がわかるようになっています。

どの項目数のストレスチェック調査票を選べばいいのかについて、詳しくは以下の記事を参照ください。
実施者と実施事務従事者とは?
ここまでストレスチェック制度の概要をご紹介してきました。次に、ストレスチェックの運用方法についてご解説していきます。ストレスチェックを実施する上で、最初に1番つまづきやすいポイントは、「実施者」と「実施事務従事者」の役割についてです。
ストレスチェックを実施する際は、
- ストレスチェック担当者
- 実施者
- 実施事務従事者
を決めて、従業員に周知した上で実施します。

ストレスチェック担当者は、衛生管理者や人事総務部門の社員が担当することが多いです。
実施者と実施事務従事者については、細かなルールがあり注意が必要なためそれぞれ解説します。

実施者
ストレスチェックの実施者とは、医師や保健師など医学的な専門知識をもってストレスチェックを実施する担当者のことです。
原則としては企業で選任している産業医が実施者を担当します。高ストレス者への面接指導は産業医が担当することが多く、普段の業務内容や組織の風土も理解している産業医が実施者となることが望ましいです。
ストレスチェックの外部委託先業者の保健師などが実施者(共同実施者)になることもあります。
労働安全衛生規則第五十二条の十では、以下のように規定されています。
(検査の実施者等)
第五十二条の十 法第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。一 医師
労働安全衛生規則
二 保健師
三 検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
2 検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。
つまり、上記の資格を持たない一般的な従業員と人事権を持つ方(社長、部長など)は実施者になることができません。また、実施者はストレスチェックの結果など個人情報を取り扱うため守秘義務があります。
ストレスチェックの実施者について、詳しくは以下の記事で解説しています。
実施事務従事者
実施事務従事者とは、実施者の指示のもと、ストレスチェックの事務をサポートする担当者のことです。従業員への周知内容の作成、調査票の回収、未受検者への勧奨、集計作業などを行います。実施者と同様に、ストレスチェックの結果など個人情報を閲覧できてしまうため、守秘義務があります。
しかしながら、実施者のように資格は必要ありません。基本的には実施者の指示の元で事務を補助する役割で、高ストレス者の判定や面接指導など医学的な判断をする必要もないためです。
また、社長や部長など人事権を持つ方は実施事務従事者になることはできません。
例えば、高ストレスだった従業員を昇給させなかったり、配置転換したりと、ストレスチェックの結果をもとに従業員に不利益な取り扱いをされかねないためです。
人事課の職員や、その他部署の職員が実施事務従事者を担当するようにしましょう。

ストレスチェックの運用の流れ
ストレスチェックの運用の流れをまとめると、以下の表の通りです。
振り返りや翌年度に向けた改善事項の検討ができていない企業も多いので、PDCAサイクルが回るようにしましょう。

以下の6つに分けて、それぞれ解説していきます。
- 衛生委員会で計画を審議
- ストレスチェックの実施
- 面接指導の勧奨と申し出の回収
- 高ストレス者への面接指導
- 集団分析と職場環境改善
- 労働基準監督署への報告書提出
Step1. 衛生委員会で計画を審議
ストレスチェック制度の運用には、事業者、労働者、保健師や産業医などの産業保健スタッフらが連携して制度の趣旨に即した取り組みをすることが重要です。
そのため、それぞれの立場の担当者が審議する衛生委員会にてストレスチェックの計画を審議することになっています。
ストレスチェック制度を円滑に実施するためには、事業者、労働者及び産業保健スタッフ等の関係者が、制度の趣旨を正しく理解した上で、本指針に定める内容を踏まえ、互いに協力・連携しつつ、事業場の実態に即した取組を行なっていくことが重要である。
ストレスチェック指針
このためにも、事業者は、ストレスチェック制度に関する基本方針を表明した上で、事業の実施を統括管理する者、労働者、産業医及び衛生管理者等で構成される衛生委員会等において、ストレスチェック制度の実施方法及び実施状況並びにそれを踏まえた実施方法の改善等について調査審議を行わせることが必要である。
ストレスチェックについて、衛生委員会で審議する項目は以下の10点です。
- ストレスチェック制度の目的に係る周知方法
- ストレスチェック制度の実施体制
- ストレスチェック制度の実施方法
- ストレスチェック結果に基づく集団ごとの集計・分析の方法
- ストレスチェックの受検の有無の情報の取扱い
- ストレスチェック結果の記録の保存方法
- ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析の結果の利用目的及び利用方法
- ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析に関する情報の取扱いに関する苦情の処理方法
- 労働者がストレスチェックを受けないことを選択できること
- 労働者に対する不利益な取扱いの防止
なお、ストレスチェックの実施や労働基準監督署への報告は50名以上の事業場で義務となっていますが、同様に衛生委員会の実施も50名以上の事業場で義務となっています。
衛生委員会については以下の記事を参考にしてください。

Step2. ストレスチェックの実施
ストレスチェックの計画や衛生委員会での審議が完了したら、ストレスチェックについて従業員に周知して回答を集めます。
回答が完了したら、従業員にストレスチェックの結果を個別に通知する必要があります。
システムを利用している場合、従業員への回答結果の通知は自動的にシステムに表示されることがほとんどです。マークシートなど紙媒体で受検している場合は、回収や集計の手間があり従業員への結果の通知までに時間があいてしまいます。
なお、ストレスチェック結果はレーダーチャート等の図表で分かりやすく示すことが望ましいとされています。

事業者は、ストレスチェックに基づくストレスの程度の評価を実施者に行わせるに当たっては、点数化した評価結果を数値で示すだけでなく、ストレスの状況をレーダーチャート等の図表で分かりやすく示す方法により行わせることが望ましい。
ストレスチェック指針
Step3. 面接指導の勧奨と申し出の回収
ストレスチェックの受検が完了したら、高ストレス者に対して医師による面談を希望するかどうかを確認します。これを「面接指導の勧奨」と呼びます。
面接指導を希望した従業員への産業医面談は義務となっています。
面接指導を希望しなかった従業員に対しては、産業医面談を実施する必要はありませんが、「ストレスチェック指針」によると、「面接指導を受ける必要があると認められた労働者は、できるだけ申出を行い、医師による面接指導を受けることが望ましい」とされています。安全配慮義務の観点から、高ストレス者に何も対策を講じないことは望ましくありません。
産業医面談を強制はできないですが、個別の面談勧奨や、周囲の人に産業医面談を受けていることを知られたくない心情への配慮が求められます。詳しくは以下の記事を参考にしてください。

残念ながら、実際に面接指導を申し出る従業員は「5%未満」の事業場が76.8%で、ほとんどの企業が高ストレス者への産業医面談の勧奨に苦労しています。

面接指導に関して、労働安全衛生法66条の十の3では以下のように規定されています。
3 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であって、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。
労働安全衛生法
高ストレス者に対し、人事が行うべき対応については、以下の記事をご参照ください。
Step4. 高ストレス者への面接指導
高ストレス者として選定された従業員のうち、本人が医師との面談を希望した場合は、面接指導を実施します。原則として、事業場で選任している産業医が実施します。
面接指導後に事業者は医師から、就業上の措置に関する意見を聴取して、必要があれば配置転換、休業などの措置を講じます。
なお、面接指導の結果の記録は5年間保存義務があります。
高ストレス者への面接指導については、労働安全衛生法66条の十の4〜6で以下のように規定されています。
4 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
労働安全衛生法
5 事業者は、第三項の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
6 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
面接指導についてのよくある失敗は以下の記事で解説しています。
Step5. 集団分析と職場環境改善
ストレスチェックの結果を個人単位ではなく事業部や部署単位、性別、年代単位で組織分析することを「集団分析」と呼びます。集団分析によって、集団ごとの「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」の状態が可視化され、組織の課題を特定することができます。

ストレス反応が他の部門と比べて強く出ている場合には、「仕事のストレス要因」と「周囲のサポート」を確認すればその要因を推察できます。「職場の人間関係」「上司からのサポート」など、具体的な問題点の仮説を持った状態で、所属長や現場の社員にヒアリングして課題を深掘りすることができます。その後、課題を解決し職場環境の改善に努めます。
ストレスチェックの集団分析や職場環境改善は努力義務ですが、85.0%が集団分析を実施しています。職場の課題が明確にわかり、職場改善に繋がるため集団分析はぜひ実施して活用しましょう。

Step6. 労働基準監督署への報告書提出
ストレスチェックの一連の運用が完了したら、受検率や高ストレス者への面接指導の実施件数などを取りまとめて、所轄の労働基準監督署へ報告書を提出します。
ストレスチェックの実施義務と同様、50名以上の事業場に報告書の提出義務があります。50人未満の事業場には報告義務はありません。
例えば、従業員数が100名程度の企業の場合、50名以上の事業場が本社のみで、営業所や店舗など各地の支社は50名未満ということも多いでしょう。その場合は、本社の労基署報告のみを提出すれば問題ありません。
また、ストレスチェックを実施する際には、労基署報告を事業場単位で提出することを念頭に置いて、従業員を分類したり、結果を集計することに注意しましょう。
(検査及び面接指導結果の報告)
労働安全衛生規則
第五十二条の二十一 常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、一年以内ごとに一回、定期に、心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(様式第六号の二)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
労基署報告は、厚生労働省のホームページにある「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」というPDFのフォーマットを利用して、必要な箇所を記入して提出します。

また、WEB上で必要な数字を入力できる「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」も提供されています。複数事業場がある場合は効率的に報告書を作成できるこちらを利用して労基署報告を作成するのがおすすめです。
労基署報告の書き方の詳細は以下の記事を参考にしてください。

ストレスチェックにかかる費用の相場
ここまでストレスチェック制度の基礎と運用方法について解説してきました。ここからは具体的に自社で導入する上で必要となる、費用の相場をご紹介します。
ストレスチェックの費用は従業員数が多いほど高くなります。
具体的には、以下のような費用がかかります。
- ストレスチェックのシステム利用料
- 高ストレス者への産業医面談の費用

システム利用料については、使うシステムによって異なります。
高ストレス者への産業医面談にかかる費用は「従業員数×10%×1万円」程度になります。
産業医の報酬は1時間あたり3〜5万円ほどです。高ストレス者は10%ほどで発生します。全ての従業員が産業医面談を希望して、1名あたり15分間の産業医面談を実施すると仮定し、産業医の報酬を1時間あたり4万円(15分間あたり1万円)と見立てると「従業員数×10%×1万円」になります。
実際には100%の従業員が産業医面談を希望するわけではないので、最大でかかる費用として見積もった金額となります。
また、その他の事務を担当する方の人件費や、ストレスチェックに従業員が回答する時間分の人件費も見えにくいですがコストが生まれています。
厚生労働省の無料ツールを使う場合
厚生労働省が57項目のストレスチェックを実施できるツールを無料で公開しています。費用を安くおさえたい場合は、こちらを使うことも可能です。

ただし、マニュアルの量も多く、使い方を覚えるのに手間がかかるため、実際には外部委託業者を使っているケースが多いです。
また、厚生労働省が運営する「こころの耳」というWEBサイトでも、57項目のストレスチェックを簡単に受検することができますが、こちらを受検するだけではセルフチェックにしかならず、労働安全衛生法の義務を果たしたことにはならないため注意が必要です。

「ストレスチェック制度関係 Q&A」には以下のように記載されています。
「こころの耳」に掲載しているストレスチェックはセルフチェックに使用するためのものであり、集団ごとの集計・分析や高ストレス者の選定などはできないことから、労働者が「こころの耳」を利用してセルフチェックを行っただけでは、法に基づくストレスチェックを実施したことにはなりません。
ストレスチェック制度関係 Q&A
民間企業にストレスチェックを外部委託する場合
ストレスチェックサービスは、目的別に3つにわけられます。
サービス種別 | 目的 | 概要 |
---|---|---|
専門システム型 | ストレスチェックのみを効率的に実施したい | ストレスチェック業務のみの機能がついたシステム |
人的サポート型 | ストレスチェックの事後対応を徹底したい | 産業医、保健師、心理士などによる実施後のサポートが充実したサービス |
一元管理型 | 健康診断や長時間労働管理と一緒にストレスチェックもまとめて管理したい | 企業に必要な健康管理業務を全てまとめて管理して、健康データも活用しやすいシステム |
ストレスチェック機能のみを提供する「専門システム型」のサービスは非常に多くあります。2015年の義務化から、たくさんの民間企業が参入しています。費用の相場は従業員1名あたり300円〜1000円ほどです。
スマホやPCではなく紙で受検する場合は費用が高額になりやすいです。その他に、集団分析が充実していて高価格なサービスもあります。
ストレスチェックの事後措置が手厚い「人的サポート型」のサービスは、保健師や産業医の人材紹介会社が提供しています。
ストレスチェックに限らず、「健康管理システム」と呼ばれる、健康診断、ストレスチェック、産業医面談、衛生委員会、職場巡視、長時間労働者の管理など企業に義務付けられている業務をまとめて効率的に管理できる「一元管理型」のサービスも増えてきています。
ストレスチェック機能のみのサービスと比較すると、まとめて法令遵守を果たす体制を効率的に作ることができるため、費用対効果が高くなりやすいです。

健康管理システム「Carely」の料金は従業員1名あたり月額200円〜です。この費用の中にストレスチェック機能も含まれています。また、産業医面談をする際に、システムから健康診断結果や疲労蓄積度などもまとめて確認しながら面談記録を作成可能で、効率的な健康管理に役立てることができます。
その他
厚生労働省の無料ツールを使う方法と、外部委託業者を使う方法の他に、自社で内製化してストレスチェックを実施することも不可能ではありません。
例えば、GoogleフォームなどのWEBフォームを用いて57項目の調査票の設問を参考に同様の調査票を作成し、対象の従業員から回答を回収して集計すれば、高ストレス者への対応なども含めて問題なく労働安全衛生法の義務を果たすことができます。
ただし、ICTを利用してストレスチェックを実施する場合の留意点として「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」に記載されている以下の3点を満たす必要があります。
- 個人情報の保護や改ざんの防止のための仕組みが整っており、その仕組みに基づいて実施者又はその他の実施事務従事者による個人の検査結果の保存が適切になされていること。
- 本人以外に個人のストレスチェック結果を閲覧することのできる者の制限がなされている(実施者以外は閲覧できないようにされている)こと。
- 実施者の役割(調査票の選定、評価基準の設定、個人の結果の評価等)が果たされること。
システムの利用料をおさえることはできますが、結果の閲覧範囲や、高ストレス者の判定方法など、ある程度詳しい方でないと正しい運用ができない可能性が高いため、あまり推奨はできません。また、システム利用料は無料にできても、高ストレス者への面接指導にかかる費用は発生します。
ストレスチェックの費用について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
ストレスチェック結果の閲覧範囲
ストレスチェックの結果は、「個人の結果」と「集団分析の結果」の2種類あります。
「個人の結果」については、原則として実施者のみが閲覧し、取り扱うものとなります。そのうち、高ストレス者の面接指導を実施する申し出をして事業者に結果を開示されることに同意した従業員のストレスチェック結果については、事業者も閲覧できます。
ただし、事業者への開示同意があったからといって無制限に個人のストレスチェック結果を社内に共有して良いわけではありません。会社内での閲覧範囲については、事前に会社で方針を決定して健康情報取扱規程に従って対応します。健康管理の担当者に閲覧範囲は限定することが推奨されます。
「集団分析の結果」については、原則として10名以上の部署単位や性別単位など集団での傾向がわかるだけで個人を特定することはできません。そのため、人事部や経営会議、部長会議などで共有し、組織改善に役立てることが多いです。
集団分析結果の閲覧範囲や活用方法は、産業医に相談したり、衛生委員会で審議して決定します。
ストレスチェック結果の閲覧について、労働安全衛生法66条の十の2で以下のように規定されています。
2 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行った医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。
労働安全衛生法
この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。
ストレスチェックの罰則
ストレスチェックに関する罰則は労働安全衛生法第121条に規定されています。
常時50名以上の労働者を使用する事業場がストレスチェックに関する労働基準監督署への報告を怠ると、50万円以下の罰金が課せられます。
50名以上の事業場については、毎年ストレスチェックを実施し、労基署への報告書提出を忘れないようにしましょう。