人事がストレスチェックの高ストレス者にすべき対応とは?ケース別に解説

「ストレスチェックの高ストレス者に対する事後措置は、具体的にどう対応すればいい?
「人事担当者が高ストレス者の対応するにあたり、知っておくべきことはある?」
このように思うことはありませんか。
高ストレス者に適切な対応をしない場合、安全配慮義務違反となり労災リスクとなりうる恐れがあります。対象者が「面談や情報の開示に同意するかどうか」で企業がとるべきアクションも変わってくるため、あらかじめ理解しておくことが重要です。
そこで本記事は「ストレスチェックの高ストレス者への対応方法」を紹介します。
高ストレス者の判定基準や選定方法についても触れているので、産業医との連携をスムーズにしたい方にもおすすめです。
ストレスチェック後の高ストレス者への対応に備えたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
ストレスチェックの高ストレス者とは
高ストレス者の選定は、実施者が行います。実施者には産業医や保健師などがなれますが、ガイドラインによって産業医が推奨されています。人事担当者も高ストレス者の判定基準や選定方法を知っておいて損はないため、押さえておくとよいでしょう。
1つずつ詳しく見ていきましょう。
高ストレス者の判定基準
ストレスチェック後、高ストレス者はどれくらいの割合で判定されるか予想できるでしょうか?
高ストレス者の判定基準の考え方には、下記の2通りがあります。
- 理想的な考え方:高得点から上位1/4までを高ストレス者と考える
- 現実的な考え方:厚生労働省が決めた点数をもって高ストレス者と考える
1つ目は「ストレスチェックの高得点から上位1/4までをストレスが高い群とする」理想的な考え方です。
職業性ストレス簡易調査票(ストレスチェック57問版)の高得点者1/4(高ストレス者)では、ストレスが低い群と比較して、うつ病もしくは抑うつ状態による疾病休業リスクは2.96倍という数字が出ています(平均1.8年間の観察期間中)。副次的なものですが、ストレスチェックを行うと、うつ病などの病欠者もわかってくる可能性があります。
2つ目は「厚生労働省が決めた点数をもって、高ストレス者とする」現実的な考え方です。
厚生労働省が発表した研究成果に基づくマニュアルでは、組織全体の10%が高ストレス者になるように設計されています。しかし、このマニュアルは全国平均をベースとしているため、業種や職種で全く異なる割合になることが予想されます。
たとえば、Carelyのストレスチェックからは、高ストレス者が11%いるのが平均となりますし、高い業種・職種があることがわかりました。過重性が高くストレスの多い職場で、厚生労働省推奨の点数で高ストレス者の定義をした場合、組織全体の20%になることもあります。
実際のところは、ストレスチェックを実施してみないとわかりませんが、1回実施すると傾向がわかるので、実施企業は来年に分析して対策を考えておきたいところです。
また、ストレスチェックの結果を本人に通知する際は、レーダーチャートなどの図式で示すのがわかりやすくておすすめです。
高ストレス者の選定方法
高ストレス者の判定基準で紹介した「厚生労働省が決めた点数」で高ストレス者を選定する方法は、下記の2つあります。
- 合計点数を使う方法
- 素点換算表を使う方法
1つ目は、「職業性ストレス簡易調査票」で領域A・B・Cの回答の点数をそれぞれ合計し、領域ごとに数値基準と照らし合わせる方法です。下記のいずれかを満たした場合、高ストレス者として選定されます。
・領域Bの合計点数が77点以上(最高点:4×29=116点)であること
厚生労働省『数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法』
・領域AとCの合算の合計点数が76点以上(最高点:4×17+4×9=104点)であり、かつ領域Bの合計点数が63点以上であること
ただし「点数が低いほどストレスが高い」と評価される質問もあるため、注意が必要です。この場合は、回答を「1→4、2→3、3→2、4→1」の点数に置き換えてから合計しましょう。
2つ目は、下図の「素点換算表」を使う方法です。

素点換算表では、「職業性ストレス簡易調査票」の項目をいくつかのまとまりごとに「尺度」として表しています。たとえば、質問項目の1〜3は「心理的な仕事の負担(量)」という尺度です。尺度ごとに計算方法が示されており、算出した点数を5段階評価に当てはめて「評価点」を出します。
この評価点をA・B・Cの領域ごとに合計し、高ストレス者を選定する数値基準に照らし合わせます。
・領域Bの評価点の合計が12点以下(最低点:1×6=6点)であること
厚生労働省『数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法』
・領域AとCの合算の評価点の合計が26点以下(最低点:1×9+1×3=12点)であり、かつ領域Bの評価点の合計が17点以下であること
このように、素点換算表は計算方法が複雑ですが、
- 「尺度ごとの評価」が考慮されたストレス状況を把握できる点
- 集団分析が実施しやすく、分析単位を細かくできる点
がメリットです。なお、本選定方法は、厚生労働省の「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」にて詳しく解説されています。
【ケース別】ストレスチェックの高ストレス者への対応方法3つ
ストレスチェック後、個人のストレスチェック結果を事業者に提供するかどうか「本人の同意」が必要になります。この同意を受けられるか受けられないかで、下図のとおりその後にとるべきアクションが異なります。

下記3つのケースに分けて、それぞれの対応方法を見ていきましょう。
- 面接指導の申し出があった場合
- 面接指導の申し出はないが、本人の同意がある場合
- 面接指導の申し出がなく、本人の同意もない場合
【ケース1】面接指導の申し出があった場合
ストレスチェック受検者の同意があり、面接指導の実施を申し出ている場合は、産業医の先生の訪問日にあわせて面接指導を実施しましょう。
ただし、受検者の状況によっては、下記の問題が発生する恐れがあります。
問題 | 対応方法 |
---|---|
結果開示に同意して面接を希望するが、上長に知られたくない | ・別件面談(対象者とほかの理由で面談すること)を実施する ・対象者と産業衛生スタッフで、メールや社内SNSでやり取りする |
面談指導を希望する対象者が多発する | ・ストレスチェック後の2〜3ヵ月は、産業医の先生に訪問時間を増やしてもらう ・対象者に優先順位をつけて面談を実施する |
特に面談指導を希望する対象者が多い場合、産業医が月に1回の訪問だけだと対応する時間が不足します。そのため、ストレスチェック後は対象者に優先順位をつけて面接を実施していくことも大切です。たとえば、残業時間などの過重労働状況を参考に優先度を決めるなどです。
なお、「面接指導の申し出はあるが、本人の同意がないケース」は原則として想定されていません。産業医による面接指導のためには、日程調整や事前資料の準備として人事が関わらざるを得ません。そのため面接指導の申し出をすることは、企業側へ開示に同意していることとして扱います。
しかし、現実は「ストレスチェックの結果が共有されることで、不利益になる」と考える受検者が「開示しない」を選択する場合もあります。その場合は産業保険スタッフと実施事務従事者を交えてやり取りし、面接指導の日程調整を行いましょう。
【ケース2】面接指導の申し出はないが、本人の同意がある場合
「面接指導の申し出はないが、開示の同意はある」ケースはごくまれです。
もしこのケースに該当した場合、下記の状況であることが多いです。
- 間違って「結果開示に同意する」にチェックした
- 産業医がどのような仕事をしているのかわからなかったので、産業医面談は「希望しない」にチェックした
そのため、まずは従業員本人にチェックの理由を確認しましょう。産業医の役割がわからないため面談に迷っている対象者には、なぜ必要なのかを丁寧に説明することが大切です。その上で、面談が必要な対象者には面談の勧奨を行います。
【ケース3】面接指導の申し出がなく、本人の同意もない場合
ストレスチェックで最も多いのが、「面接指導の申し出がなく、開示の同意もない」ケースです。人事が把握できていない高ストレス者が潜在しており、経過観察をしているうちに、症状が悪化する恐れがあります。
企業として安全配慮の責務を果たすために、下記を実施しましょう。
- 最低でも1回は面談実施の勧奨を行う
- 必要な対象者に対して、1週間おきに2回に分けて意思表示を確認する(メール、社内SNSなど)
- 面談の申出勧奨を2回行っても返事がない場合、セルフケアのパンフレット(ストレス対処方法など)を配布する
- ストレスチェック時に「勤怠不良・過重労働一覧リスト」を作成しておき、労働時間の観点から面接指導を調整する
高ストレス者の対応後…事後措置を実施する際に注意!
事業者が個人のストレスチェック結果を閲覧できる、高ストレス者本人からの同意を得られた場合でも、配置転換など就業上の措置を講じる場合は、産業医など医師による面接指導を行って、医師の意見を聞くことが必須です。
医師による面接指導を行わずに事業者が配置転換などの就業上の措置を講じることは不適当であるとされています。
ほかにも、下記のトラブルが挙げられます。
- 上司が同意なしに個人のストレスチェックの結果を見てしまう
- 部門長がストレスチェックの結果を教えてほしいと要求してくる
- 高ストレス者全員に対応しようとする
- 高ストレス者を放置してしまう
- 集団分析を全国平均と比較してしまう
- リスク要因がわかっても解決策がわからない
ストレスチェックを実施して高ストレス者に対する人事労務の対応は、すべての場合において本人の同意が必要になると考えて覚えておきましょう。
ただし、例外の場合もあります。
自傷、他傷の恐れがある場合などの緊急性を要するときです。プライバシーの問題と情報の共有の難しさが、これらメンタルヘルス問題の難しさだと考えることができます。
高ストレス者の対応は主治医との連携を強化して慎重に進めていく必要があるとともに運用前に、衛生委員会でしっかりと議論しておけば大丈夫です。過重労働対策と同じ運用でよいということが良く理解できたかと思います。
なお、下記の記事では、ほかにも起こりがちなトラブルと解決方法を解説しています。事後措置を慎重に行って離職や退職を防ぐためにも、ぜひご一読ください。
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まとめ:ストレスチェック後は高ストレス者への適切な対応が重要
高ストレス者は、その後のうつ病発症リスク等も考えると早期の対処が必要です。しかし、すべての高ストレス者に面接を実施することは、面接の調整だけでも大変な時間がかかりますしとてつもないコストがかかってしまいます。産業医による面談対応や事後措置は、本当に必要と思われる対象者から優先的に順を追って行うことが肝要です。
自社に保健師などの産業保健スタッフが潤沢にいる場合は、スタッフと連携して優先度を把握し、リスクの高い従業員から面談を実施しましょう。
ただ、潤沢なリソースがなく、ストレスチェックの結果をうまく活用できていない企業も多いのではないでしょうか。そういった場合は、外部のストレスチェック代行サービスを利用するのがおすすめです。