ストレスチェック実施者を機能させる3つの役割

ストレスチェックの「実施者」とは、何をするひとなのでしょうか?
人事部長が、実施者の役割を行ってもよいのでしょうか?
本記事では、ストレスチェックの実施者に関連するトピックスを取り上げました。
↓↓↓ この記事で言いたいこと ↓↓↓
【ストレスチェックの実施者で考えるポイント】
☑ ストレスチェックの実施者には「産業医」を想定している
☑ 実施者に、「共同実施者」を置くことができる
☑ 実施者は、「人事権を有さないひと」である
☑ 実施者は、ストレスチェックのプロマネをやれば良い
☑ 実際のストレスチェックの事務は「実施事務従事者」が行う
ストレスチェックの実施者は事業者ではない
弊社にも多くの質問が寄せられており、ストレスチェックと産業医に関係して、多くの企業が困っているキーワードの1つが「実施者」です。実施者とは事業者のことではありません。ストレスチェックの実施者とは、労働安全衛生法第66条の10第1項に規定されている「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」であって、実際にストレスチェックを実施するものと定義されています。つまり、ストレスチェックの実施主体となれる者は、医師、保健師または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師、精神保健福祉士の資格をもっており、ストレスチェックを実施する者のことをいいます。
ストレスチェックは病気を探すことよりも、セルフケアを重視する個人への配慮という観点から、人事で担当出来る範囲が狭いという特徴です。社員に健康診断を受けさせるというプロジェクトマネージャー(プロマネ)が人事労務担当者であるとするならば、ストレスチェックのプロマネこそが「実施者」の役割となり、PDCAをまわす司令塔になります。ストレスチェックの制度は、「産業医を中心に一定の要件を満たすひと」を中心とした運営が想定されているのです。
しかしながら、契約している産業医が「実施者」をやってくれないとか、実施者を他の産業医に任せたいとお困りの人事担当者の声をしばしば耳にします。そういった場合、実施者をストレスチェックの代行を行っている外部事業者に委託することも可能です。また、ストレスチェックを効果的に実施するために、自社の産業医と外部の委託業者が共同でストレスチェックを実施することもできます。ストレスチェックの実施者が複数名いる場合の実施者を「共同実施者」、この場合複数名の実施者を代表する者を「実施代表者」と定義しています。
ストレスチェックのサービスを提供している外部事業者のほとんどは、ストレスチェックのシステムのみを提供していますが、中にはシステムだけでなく共同実施者として運営を全面的にサポートしてくれるサービスもあります。例えば、iCARE社が提供しているCarelyは、共同実施者として実施の企画からストレスチェック実施後の高ストレス者対応まで一連の運営をサポートしています。
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望ましいストレスチェックの実施者とは?
ストレスチェックの実施で、望ましい実施者とはいったい誰なのでしょうか?
厚生労働省労働基準局安全衛生部のストレスチェック検討会では、「事業場を日ごろから把握している者(産業医など)がストレスチェックの実施者になるのが望ましく、ストレスチェックの実施そのものを外部機関に業務委託する場合にも、当該事業場の産業医などが共同実施者として関与し、個人のストレスチェック結果を把握するなど、外部機関と当該事業場の産業医などが密接に連携することが望ましい。」としています。
つまり、最優先は「産業医」だけれども、中小企業であれば常時産業医がいないことを勘案し、仮に外部機関に業務委託をしたとしても「産業医は共同実施者」として関与しなさいよ、と言っているのです。
その大きな理由は、ストレスチェックはやることが目的ではなく、衛生委員会で実施状況や組織分析から、人事などが改善に動くためのPDCAをまわす必要があるためです。衛生委員会には、外部機関は参加しませんので、PDCAをまわすためには、内部でもストレスチェックの実施運営体制があることが望ましいといえます。
実施者および実施事務従事者は「人事権をもたない人」しかできない!
ストレスチェックにおいて人事上の不利益な扱いを防止するために、ストレスチェック受検者の同意がない限り個人のストレスチェックの結果を事業者に渡してはならないと規定されています。
実施者は「ストレスチェックの受検者となり得る労働者について、解雇、昇進または異動などに関して直接の権限を持つ監督的地位にある者」は、ストレスチェックの実施者になれないとすることが適当とされています。
ですから、人事部からでも「人事権をもたない」社員であれば、ストレスチェックの実施事務従事者として、共同実施者のチームの中にメンバーとしてアサインさせることができるのです!実施事務従事者とは、実施者の指示によりストレスチェックの実施に関する具体的な事務作業、たとえば調査票のデータ入力や結果の出力、保存などの業務に携わる者のことです。実施事務従事者も、個人情報を扱うため実施者同様に守秘義務が発生します。

これは、非常に重要なポイントになります。
また、実施事務従事者を外部に委託することも可能です。外部に委託する場合には、委託先が実施者や実施事務従事者に対応しているかどうかについてもしっかり確認しましょう。
外部の委託業者の選び方については、こちらの記事を参照してください。
ストレスチェック実施者の役割
実施者は、事業者からの指示に基づいてストレスチェックの企画や結果の評価に関与していきます。
企画においてはストレスチェック項目の選定を行い、ストレスチェックの評価に関しては評価基準の設定や選定を行います。これは事業者と連携して行います。
ストレスチェック結果の点検、確認、面接指導対象者の選定などの個人の評価も大事な役割です。

実施者の最低限果たすべき具体的な3つの役割
【1つ目の役割】
事業者がストレスチェックの項目や調査票などを決定する際に、専門的なアドバイスを行うこと。専門的見地から事業者に案を提示したり確認を行うこと。
【2つ目の役割】
評価基準の設定に関して、専門的な見地から事業者に案を提示したり確認を行うこと。
【3つ目の役割】
個人のストレスチェックの結果を確認し、面接指導の対象となるかどうかの選定を行うこと。
実施者は、個人のストレスチェックの結果を集計し、集団的に分析した上で事業者に提供し、高ストレス者と評価された人に医師による面接指導を行うよう勧奨し、面接指導を申し出なかった人に対しては相談の対応をしたり、専門機関の紹介などの支援を必要に応じて行います。これらの業務は、実施事務従事者と連携して行います。
ストレスチェックで実施者を機能させる!
これまでは、労働安全衛生法に基づいて事業者と産業医の間で労働者の健康情報を共有することに、法的な制限はありませんでした。ストレスチェックでは、原則として産業医がストレスチェックの実施者になることが想定されています。しかし、産業医だけに実施者の役割を押し付けてしまっては、本来期待されているほど機能しないでしょう。それは、産業医の稼働時間が企業の中で限定的だからです。健康診断について、人事が事務的な作業を行っているのと同様に、ストレスチェックでも「人事権をもたない」サポート役である実施事務従事者をチームメンバーに入れることで、機能するストレスチェックが実現できます。
多くの人事が抱える悩み・・・
「共有に同意しない高ストレス社員へのアプローチはどうしたらよいだろう?」
ということも、ストレスチェックの運営チームに事務を担当する実施事務従事者を入れることで解決します。
もちろん衛生委員会でしっかりと審議して、役割を明確化し、明文化することは言うまでもありません。それでも多くの中小企業や健康管理室の運用を考えれば、どの企業もリソース不足になるでしょう。産業医も月1回の訪問で何ができるのか、分析などの煩雑なものもほぼできないと考えてよく、ノウハウも不足していることから自社単独で運営することの限界もあるでしょう。
外部の専門機関で、ストレスチェックのサービスを提供している事業者の中には、クラウドサービスでどこからでも自動的に集計され、集団的分析も受検者の進捗管理も簡単にできるものも多くあります。
また、ストレスチェックのシステムだけにとどまることなく、企画から高ストレス者の対応までフルパッケージでサポートしてくれるサービスも少ないですが登場してます。外部の委託業者を価格だけで判断すると、あとあと様々な作業を内部で行わなければならないことに呆然としたり、高ストレス者が予想以上に発生していて、対応に予算以上の費用が発生してしまうというケースも散見されます。
実施者を機能させるためには、自社内に人事権をもたない担当者を実施事務従事者として配置し、うまく外部の委託業者を使いこなすのが、もっともストレスチェックをうまく機能させる方法なのです。