休職・復職にムリなく対応
2022年9月21日 更新 / 2020年7月3日 公開

主治医の診断書と産業医の意見書はどう違う?復職に必要な書類を準備する

復職に必要な書類は、診断書と意見書

休職していた社員の体調が良くなり、復職を考えるように。でも、復職の手続きってどう進めたらいいの?必要な書類って何があるの?と迷うことはないでしょうか。

この記事では、復職を考え始めた時に必要な書類と、書類の具体的な使い方を説明します。

先に結論をお伝えすると、復職時には

①主治医の診断書
②産業医の意見書
③本人や上司が作成する書類

の3種類の書類が必要です。

会社(人事)は、これらの書類をを総合的に見て復職を判断し、復職の準備を進めていきます。

「産業医の意見書は復職してよいと判断した書類だ」という誤解がよくありますが、実際に復職の可否を決定するのは企業(人事)であり、産業医ではありません。それぞれの書類の違いをよく理解した上で、正しく復職の決定を行いましょう。

主治医と産業医の違い

まず、「主治医」と「産業医」の違いを確認しましょう。同じ医師という職業でも、役割は大きく違います。大きな違いは、主治医が診察・診断・治療を行うのに対して、産業医は診察・診断・治療は行いません。

大企業で会社に診療所がある場合など、中には産業医が診療業務を行うケースもありますが、基本的には産業医は診療業務をしません。

主治医は疾患の診療方針に責任をもつ医師

主治医は、患者の疾患の診療方針全般に対して主な責任をもつ医師です。外来診療や入院診療で診察・診断・治療を行います。

復職時には、休職者の疾病と日常生活の安定性を判断する役割があります。

産業医は仕事が原因の健康被害に責任をもつ医師

産業医は、事業場で労働者が健康で快適な作業環境で働けるように、専門的立場から指導・助言する医師です。

産業医の任務は、労働者の健康障害を予防し、心身の健康を保持増進することです。産業保健や労働衛生に関する専門的知識をもっています。

職場の健康管理には、医学的な知識が必要です。労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場には、産業医の選任が義務付けられています。会社全体の健康管理を行う上で、それぞれの会社の業務内容を把握している産業の意見を取り入れることは、とても重要です。

主治医の診断書と産業医の意見書の役割の違い

「主治医の診断書」と「産業医の意見書」は、復職前に手続きで「必須」な資料です。次の順番で復職の手続きを進めていきます。

  1. 主治医による診断書「疾病と日常生活の安定性を判断」
  2. 産業医による意見書「業務遂行の安定性を判断」
  3. 会社が復職を決定

主治医の診断書は、疾病と日常生活の安定性を判断するものです。診断書を作成することで、企業が安全配慮義務を果たし、従業員が自己保持義務を果たすことができます。

産業医の意見書は、業務遂行の安定性を判断するものです。復職は、健康状態の回復だけでなく、安定して業務を遂行できることが復職の大前提です。就業できる程度まで体調や生活リズムが回復したかどうかを判断します。

主治医の診断書と産業医の意見書を基に、会社が復職の最終決定をしていきます。

主治医の診断書の役割

医師法で復職時に交付が義務付けられている書類です。診断結果から、診断名や治癒までにかかると想定される期間が書かれています。

私傷病により休職を開始するには、主治医の診断書が必要です。同じように復職をする際にも、復職が可能な状態かどうかを主治医に診断してもらい、診断書を発行してもらいます。この復職可の診断書が提出されたら、会社は、復職に向けて本格的に動き出します。

復職では、企業に安全配慮義務が発生します。従業員が、労働できる健康状態かどうか判断しなければなりません。安全配慮義務を果たすのが、主治医の診断書です。

ただし、主治医の診断書は疾病の安定性や、日常生活の安定性を示すものです。業務遂行の安定性は考慮されていないため、主治医が復職可と言っても、復職決定となるわけではありません。

また、従業員には自己保健義務があります。自己保健義務では、労働をするにあたり自身の健康・安全を確保するために、従業員自身も健康管理・安全への配慮を行わなければならないと定められています。

従業員が私傷病により十分な労働提供ができない健康状態に陥った場合、会社はその状態が続いていると考えるのが基本です。そのため、求められる労働が提供できる健康状態に回復したのであれば、従業員自らが会社にそのことを明らかにする必要があります。それを証明できるのが主治医の診断書です。

診断書のみでは復職の判断ができない場合や、主治医の診断に不透明な部分があり十分な信頼ができないと会社側が感じることもあります。その際は、本人の同意を得た上で、主治医と面談をしたり、会社が指定した医師への受診を指示し、再判断を依頼することもできます。

しかしこれは、このようなケースがあることを、あらかじめ就業規程で定めていることが前提です。自身の会社の就業規程に記載されているか、チェックしておきましょう。

産業医の意見書の役割

主治医の診断結果に基づいて、産業医が『~するほうが望ましい』と意見を述べたものです。

休職者が主治医の診断書を提出したら、次に産業医が復職するにあたり業務遂行が可能かどうかを判断し、「意見書」として事業主に提示します。この意見書をもとに、事業主は復職の最終決定を行います。

産業医は以下の5つを基準にして復職を判断します。

  • 従業員が復職に対して十分な意欲を示していること(=就業意欲力)
  • 食事や外出などの生活リズムが整っていること(=リズム力)
  • 1日の疲労が翌日までに回復できる体力があること(=回復力)
  • 通勤時間帯に一人で安全に通勤できること(=通勤力)
  • 職場環境に適応できるかどうか(=適応力)

そして検討した事柄を、「職場復帰に関する意見書」として作成してもらい、会社側が復職を決定するための材料にします。

産業医意見書に記載すべき内容は4つです。

  • 職場復帰に関する産業医の意見
  • 復職の可否(可の場合、条件はあるかないかも)
  • 短時間勤務や、残業禁止、外勤禁止など、就業上の必要な措置
  • 措置期間

まず復職に対する産業医の意見として、復職が可能な状態なのか否か、あるいは条件付で可能なのかの判断をまとめます。

復職が可能(または条件付で可能)な場合は、時間外勤務、短時間勤務、交替勤務、休日勤務、出張、配置転換、異動、作業転換に関する就業上の措置が必要であれば、細かく意見をもらいます。これらの措置の期間も指定してもらいます。就業上の措置がある場合は、措置がなくなるまで定期的にフォローし、意見書を更新していきます。

実際に復職するためには、職場の受け入れ準備が整うことや、主治医・産業医の意見などを踏まえて、会社側が総合的に復職可能の判断します。産業医の判断は、あくまで判断であり絶対ではありません。復職の決定権は会社側にあるため、産業医が復職可能と判断しても、復職を認めるかどうかは会社の決定に委ねられています。

休職者や上司・人事が作成する書類

医師が作る書類だけでなく、休職者本人や上司・人事が作成する書類もあります。必須の書類ではないですが、作成することでスムーズな職場復帰に繋がります。

1)生活リズム表(=生活記録表) 必要度★★★☆☆

休職中、どのような生活を送っているのかを、医師や会社側が把握するために休職者自身に記載してもらい、復職の判断材料にします。外出はしているか、食事はどうかといった生活記録を最低2週間はつけてもらいましょう。

生活リズム表をつけることで、産業医の5つの復職判断基準の一つである「リズム力(食事や外出などの生活リズムが整っていること)」を評価できます。また休職者自身が記載することで、自身の生活を見直すきっかけとなり、生活リズムが安定しやすくなる効果もあります。最低2週間は通常勤務と同じ生活ができていれば合格です。

2)復職願 必要度★★☆☆☆

復職願とは、復職を希望する場合に本人が会社へ提出する書類です。主治医の診断書とともに提出することが一般的であり、本人に復職の意欲があるという意思表示になります。

復職の際、主治医の診断書は必須ですが、復職願は提出を義務付けている会社と義務付けていない会社があります。会社の就業規程でどのように定められているかを確認してください。

提出が必要な場合は「復職希望の意思」、「復職希望日」、「復職可能となった事情」(例:体調が改善した)を記載してもらい、添付資料として診断書を付けるよう指示しましょう。

3)(職場)復職支援プラン 必要度★★★★★

この復職支援プランはほぼ必須といえる重要な資料です。

復職が決定したら、上司や人事は復職に向けた準備をしなければなりません。休職者の状況や職場環境を考慮して、復職後の業務計画を立てるのが復職支援プランです。

基本的には直属の上司が作成して、人事や産業衛生スタッフと共有を行います。

以下の項目について検討し、プランを作成しましょう。

  • 管理監督所による就業上の配慮(例:業務内容や業務量の変更、業務サポート)
  • 人事労務管理上の対応(例:配置転換の必要性)
  • 産業医による医学的見地からみた意見
  • 就業後の管理監督者や産業衛生スタッフによるフォローアップ

この復職支援プランと産業医指示書が揃えば、いよいよ復職となります。

休職者・復職者の対応はよりセンシティブな部分が多いため、対応に困っているという声をよくいただきます。年間2,000件の健康相談対応を行なっている保健師による対応のポイントについて、以下で解説しています。ケーススタディを交えて明日から改善できるような内容です。ぜひご確認ください。

まとめ

ここまで復職に必要な書類の役割などについて紹介してきました。

今回紹介した内容は、復職の対応をするためには非常に重要なことですが、休職の言い渡しから復職後のケアまでどれも非常に大切です。

そのため改めて一連の流れを確認し、スムーズで正しい対応取れるよう備えるのをおすすめします。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。