長時間労働の対策に企業がすべき7つのこと!改善に成功した企業事例3選も紹介

従業員の健康を守るために、長時間労働を削減する取組は非常に重要です。労働時間と健康の間には密接な関係があると言われています。たとえば独立行政法人労働安全衛生総合研究所の「長時間労働者の健康ガイド」によると、週労働時間が61時間以上の人は、週労働時間が40時間以下の人と比べて心筋梗塞になるリスクが1.9倍になります。
ほかにも、社員のワークライフバランスやモチベーション、生産性、離職率などを改善するためにも、長時間労働対策は重要です。しかし、企業の長時間労働対策の方法について、詳しくご存じない方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、下記について解説します。
- 長時間労働の定義や原因と実態
- 長時間労働に対して国が進めている対策
- 長時間労働の対策として、企業がすべき7つのこと
- 長時間労働の対策に成功している企業事例3選
長時間労働対策の手法について学びたい方は、ぜひ最後までご一読ください。
■従業員への健康管理が、人事の長時間労働の原因になっていませんか?
時間労働の把握ならば勤怠システムで実現できると思われるかもしれませんが、給与計算などの用途で扱う所定労働時間の計算と、健康管理のための法定労働時間の計算式は異なります。勤怠とは別にエクセルで再集計を行ったり、過重労働者へ産業医面談の予約、従業員の健康データを準備するといったアナログ業務は、人事担当者が長時間労働になる原因ともいえます。
長時間労働はもちろん、健康診断・ストレスチェックなどの健康データを一元管理することで従業員・組織全体の健康を正しく把握することができます。詳しくは以下よりお問い合わせください。
\健康データに基づいた予防措置もできる/
長時間労働の定義や原因と実態
まず、長時間労働の定義、なぜ長時間労働が起きるのか、実態はどうなっているのかを簡単に説明します。
- 長時間労働の定義
- 長時間労働の原因
- 長時間労働の実態
長時間労働の対策を学ぶ前に、長時間労働について正確に理解しましょう。
長時間労働の定義
長時間労働と言っても、何時間働ければ長時間労働なのかという法律上の定義は存在しません。しかし、目安となる基準は存在しています。それが法定労働時間と36(サブロク)協定です。
法定労働時間とは、労働基準法により定められた労働時間のこと。1日8時間、週40時間となっており、それ以降は時間外労働と見なされます。法定時間を上回って働くには、企業と従業員の間で労働基準法第36条で定められた労使協定を結ばなければなりません。
そして、この労使協定が通称「36協定」と言われるものです。
この協定により締結された協定書を労働基準監督署に届け出れば「1ヶ月45時間、1年間360時間」を上限とする労働時間延長が可能です。この時間を超えて労働をさせることは36協定を締結していても違法となります。
なお、2019年4月の労働基準法改正前は「特別条項付き」にしておけば、臨時的に忙しい場合には上記の延長時間を超えた時間でも、時間外労働をして良いことになっていました。つまり、以前は上限規制が事実上なかったのです。上限規制については後述します。
長時間労働の基礎知識や法改正など、詳しくは下記の記事をご覧ください。
長時間労働の原因
長時間労働には、さまざまな原因があります。健康管理システムCarelyを導入した企業へのインタビューから見えてきた10の原因についてご紹介します。
- 【原因1】中間管理職に仕事が偏る
- 【原因2】テレワークで隠れ残業が増えている
- 【原因3】業務のデジタル化が遅れておりムダが多い
- 【原因4】人事と専門家によるチェック体制が整っていない
- 【原因5】産業医面談の申請がしづらい
- 【原因6】休職者の増加によって業務のしわよせが起きている
- 【原因7】管理職がマネジメントする時間を用意できない
- 【原因8】閑散期に合わせた人員になっている
- 【原因9】長時間労働する人が評価される風潮がある
- 【原因10】不必要な会議や打ち合わせが多い
中間管理職がプレイングマネージャーであることや、残業が多い人が評価されたり、無駄な打ち合わせや会議が多いなど、原因の多くには日本企業ならではの風土や慣習が関係しているようです。こうした働き方が長時間労働を加速させることで、休職者が発生し、そのしわ寄せでまた長時間労働が発生するという悪循環が生まれています。
また、業務のデジタル化が進んでいなかったり、反対にテレワークが増えていたりという昨今の働き方の変化も大きく影響しているようです。
長時間労働の10の原因と対策は下記の記事で詳しく解説していますので、詳細を知りたい方はご一読ください。
長時間労働の実態
厚生労働省の『令和3年版過労死等防止対策白書』のデータによると、日本の総実労働時間・所定内労働時間はともに減少しています。

しかし、所定外労働時間は増減を繰り返しているため、決して減少傾向にあるとは言い切れません。労働時間そのものは減ってきているものの、正社員の残業時間は20年以上前からあまり変わっていないのが現状です。
時間外労働について詳しくは、下記で解説しているので、ご一読ください。
長時間労働に対して国が進めている3つの規制とは?
まず、長時間労働に対して国が進めている規制を3つ紹介します。
- 働き方改革関連法による残業時間の上限規制
- 労働基準監督署による企業への監督指導を強化
- 脳・心臓疾患による労災認定基準を改正
順番に見ていきましょう。
1.働き方改革関連法による残業時間の上限規制
下の画像は、脳・心臓疾患の労災請求・支給決定件数です。

長時間労働・過重な業務負担が主な原因である脳・心臓疾患の労災請求件数は、過去20年間で減っていません。なぜ健康を崩すほどの長時間労働があるのかというと、残業時間の上限規制が法律で定められていなかったためです。
2019年3月以前は、労働時間と時間外労働(残業)について以下のように定められていました。
- 労働基準法の第32条
- 労働時間は1日8時間、週に40時間以内が原則
- 労働基準法第36条
- 雇用者と従業員の合意があれば、1ヶ月45時間、1年間360時間の法定労働時間外の労働が認められる
- 労働基準法第36条(特別条項)
- 特別条項付きの契約を結んでいれば、1ヶ月45時間、1年間360時間以上の法定労働時間外の労働が認められる
つまり特別条項付きの契約にしていれば、労働時間の上限は実質ないものとして扱われていたのです。そのため、心身に不調をきたして「労災に認定されたら過重労働」とみなされていました。
しかし2019年4月から「働き方改革関連法」が施行され、労働関連の法令が大きく改正されました。この中で労働基準法の改正も行われ、以下のように特別条項付きの時間外労働が大きく制限されています。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1月当たり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
時間外労働の上限規制わかりやすい解説 厚生労働省[PDF形式:12.5MB]
改正された労働基準法に違反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が企業に課せられます。
また働き方改革による法改正では、産業医権限も強化されています。人事労務としては、長時間労働者がいるいないに関わらず、従業員の労働時間をいつでも共有する義務が新たに発生しています。
2019年4月に改正された働き方改革関連法の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひこちらもあわせてご一読ください。
2.労働基準監督署による企業への監督指導の強化
厚生労働省には2014年より「長時間労働削減推進本部」が設置されています。これは過労死等防止対策推進法に基づいて、長時間労働の削減を進めるためのプロジェクトです。

そして、実際に違法な長時間労働が疑われる事業場を検査するのが労働基準監督署です。2016年より監督対象の企業が拡大しており、近年では過重労働解消キャンペーンとして以下のような監督指導の実績をあげています。
- 32,981事業場に対して監督指導を実施。そのうち47.3%の事業場に対して、違法な時間外労働の是正・改善指導を行った(令和元年度)
- Webサイト上の求人情報や書き込みの情報を監視。労働条件に問題があると考えられる事業場の情報を収集し、536件の監督指導を実施した。(令和元年度)
- 労基署による監督指導を工場や支社などの事業場単位ではなく、企業の本社に対して行う。全社的な改善を図る指導に変更(平成29年から)
国もあらゆる手段を使って違法な長時間労働をする企業を探し、改善に向けた指導を行っていることがわかります。従来はこのような是正・改善指導は社会的影響力の大きい大企業が中心でしたが、長時間労働に対しては10名程度の事業場であっても対象になっています。
現在、指導を受けただけの場合、社名公表は行われていません。
しかし、ハローワークでの求人募集・行政での入札案件の応募・健康経営優良法人など各種認定を受けるなどの企業活動は制限されます。また、現在働いている従業員への悪影響(スピルオーバー効果)も計り知れません。
労働基準監督署による企業への監督指導については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてご一読ください。
3.脳・心臓疾患による労災認定基準を改正
2021年9月、20年ぶりに長時間労働が主な原因となる脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました。従来の労働時間による認定に加えて、仮に労働時間の基準に達していなくても業務負荷を総合的に判断するように改正されています。
つまり、労災認定される範囲が広がったということです。

いわゆる過労死ラインと呼ばれていた、
- 単月100時間を超える時間外労働
- 2〜6ヶ月間平均で80時間を超える時間外労働
は2019年の労基法改正により違法となっています。
つまり、従業員に健康障害が発生してもしなくても企業としては絶対に超えてはならないラインです。
そして今回の労災認定の基準改正では、仮に100時間・80時間を超えていなくても「労働時間以外の負荷」があれば総合的に評価して、労災認定することが明示されました。
労働時間以外の負荷について明記されているので、代表的な働き方をご紹介しておきます。
- 不規則な勤務(深夜帯・インターバルの短さなど)
- 移動の多い勤務(出張・特に時差のある海外)
- 心理的負荷(失敗の損失・ノルマの高さなど)
ここまで、国が長時間労働の削減のために強化してる3つの規制を解説しました。
長時間労働に対して国が進めている3つの対策例
- 働き方改革関連法改正による残業時間の上限規制
- 労働基準監督署による企業への監督指導を強化
- 脳・心臓疾患による労災認定基準を改正
法改正や規制に合わせて企業内のルールも変えていかなければいけません。続いて、企業として特に人事労務が主導して実行できる長時間労働対策を具体的に7つお伝えします。
企業がすべき7つの長時間労働対策
一般的に長時間労働対策といえば、「残業時間そのものを削減する対策」を思い浮かべる方が多いかと思います。確かに根本的な長時間労働対策として重要です。しかし、人材を増やしたり業務の外注化といった施策は大きな予算が必要なため、人事部だけで解決できる方法ではありません。
また長時間労働による健康リスクは、一定の時間を超えたら従業員が一律で不調になるわけではありません。残業80時間が続いても平気な人がいる一方で、残業30時間であっても睡眠障害が発生してしまう従業員もいます。
そのため長時間労働の対策としては、「不調な従業員をいち早く見つける体制づくり」にまずはじめに取り組んでください。具体的な取り組みは以下7つです。
- 勤怠管理システムを入れて、労働時間を正確に把握する
- 所定労働時間と総労働時間の両方を計算し、長時間労働を把握する
- 就業制限がかかっている従業員を把握する
- 長時間労働の状況を衛生委員会で報告・共有する
- 毎月の労働時間を、産業医が常に確認できるようにする
- 長時間労働が理由の産業医面談のルールを規定する
- 長時間労働者に疲労蓄積度チェックリストを実施する
特に4つ目の「長時間労働の状況を衛生委員会で報告・共有する」は、全社的に長時間労働への対策を具体的に進めるためにも重要です。それでは順番に解説します。
1.勤怠管理システムを入れて、労働時間を正確に把握する
長時間労働による不調者を発見するはじめの第一歩は、勤怠管理システムの導入です。
一般的に勤怠管理(労働時間の計測)には大きく4種類の方法があり、いずれかが採用されています。
- 自己申告制(エクセルなどに自分で出社・退社時間を入力する)
- タイムカード(出社時・退社時に記録して、後日集計する)
- PCの作業時間(電源のオン・オフの記録)
- 勤怠管理システム(ICカードやスマホを利用して打刻する)
2020年度の過重労働解消キャンペーンの実施報告書によると、労基署の監督がはいった6,744事業場のうち、自己申告制は約35%にあたる2,395事業場が採用していました。つまり、違法な長時間労働が疑われる事業場の勤怠管理は自己申告制であることが多いようです。
自己申告制では、残業時間を過小に申告してしまうパターンもあれば、遅刻などをごまかして記入するパターンもあります。どちらにしても従業員の勤務状況を正確に把握する点では不都合なデータになってしまうので、勤怠管理システムにより1分単位で正確な時間を記録できる環境をまず作りましょう。
2.法定労働時間を計算し、時間外労働を把握する
労務担当者であっても意外に知らないのが、給与計算などに利用する所定労働時間と健康管理に利用する法定労働時間の違いです。
本記事の前半でお伝えした以下の図に書かれている「時間」はすべて法定労働時間を超えた時間外労働のことを指しています。
時間外労働の上限規制わかりやすい解説 厚生労働省[PDF形式:12.5MB]
いわゆる残業とは多くの企業では所定労働時間をオーバーした時間のことを指しています。また始業前の時間は含めず終業後の時間のみを計算していることがほとんどです。(残業代の計算のため)
一方で、労働基準法・労働安全衛生法による時間外労働は残業とは定義が異なります。また始業前の時間も含めて計算する必要があります。
もし、法定労働時間と時間外労働の計算式を知らないという方は以下の記事を参考にしてみてください。
3.就業制限がかかっている従業員を把握する
従業員の健康状態によっては、時間外労働をゼロまたは通常よりも少なくする必要があります。特に産業医の判断に基づいて働き方に配慮が必要な場合には「就業制限」がかかります。
たとえば以下の特徴がある従業員は就業制限がかかっていたり、就業制限ではなくとも労働時間に対して配慮が必要になってきますので、人事労務として事前に把握しておきましょう。
健康診断のハイリスク者 | 健康診断の終業判定によって、産業医から残業制限などがかけられている労働者。 |
---|---|
高齢者 | 高血圧や高脂血症などのリスクが高いため、通常よりも労働時間の制限が必要。 |
復職したての人 | いきなり通常業務に戻るのではなく、仕事のペースを徐々に取り戻すための調整期間を設ける。 |
傷病を抱える人 | 治療・通院の状況に応じて勤務形態を柔軟に対応する必要がある。原則、産業医の指示に従って対応。 |
4.長時間労働の状況を衛生委員会で報告・共有する
1〜3の方法で長時間労働の実態を把握ができたら、次は人事労務担当者だけでなく各部門に情報共有することがポイントになります。情報共有する場としては、衛生委員会を活用することをおすすめします。
衛生委員会はオフィスや働く環境についてあらゆることを労使双方が合意をとる会議体になっています。会議内で特に重要な報告事項として長時間労働に関する情報共有があります。報告内容の具体例を紹介しておきましょう。
▶前月の報告事項
1.労災発生件数
- 労災:〇件
- 通勤災害:〇件
2.時間外労働状況
- 前月分の該当者数
- 45時間以上 〇名
- 80時間以上 〇名
- 100時間以上 〇名
- 直近1ヶ月の平均時間外労働 〇時間
- 直近3ヶ月の平均時間外労働 〇時間
- 直近6ヶ月の平均時間外労働 〇時間
衛生委員会の場では、長時間労働者が誰なのか?といった個人名までには踏み込みません。あくまでも会社の状況を使用者だけなく労働者側にも共有することで、長時間労働対策を全社的に意識する機会とすることが目的です。
5.毎月の労働時間を、産業医が常に確認できるようにする
2019年の働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制とともに産業医権限が強化されました。産業医権限とは、従業員の健康管理のために産業医が企業に監督・指導できる範囲のことです。長時間労働対策としては、長時間労働者がいる・いないに関わらず従業員の労働時間を産業医がいつでも確認できる体制をつくることが求められています。
しかし、情報共有のために勤怠データをエクセルに書き出す作業が発生したり、健康診断データを紙で管理している場合は、ファイルの検索・整理に時間がかかり、人事労務の負担が増大してしまうことがあります。スムーズに情報共有するためのシステム導入を検討したほうがよいでしょう。
健康管理システム「Carely」なら、健康情報を一元管理し、ペーパーレス化と業務効率化を実現できる他、産業医との情報共有にも大きな効果を発揮します。
ぜひ詳しい資料をご一読の上、ご検討ください。
\健康管理をミスなくラクに/
6.産業医面談の長時間労働基準を規定する
労働時間を把握し、情報共有できる体制を整えたら、次は長時間労働者をケアするルール作りを進めます。
長時間労働に限らず、従業員の健康管理にあたっては「不調者がいないから事前の準備は不要」とはなりません。いざ不調者がでたときに、都度対応で済ませてしまったがために法律上の義務や労務リスクへの対応が不十分になるケースは避けるべきです。
長時間労働の産業医面談基準は、一般的に二段階で設定されます。時間数は会社によって異なるのですが、一例をご紹介しましょう。
月の残業時間 (総労働時間 – 法定労働時間) | 面談のルール |
---|---|
30時間/月 | 部門長または労務との面談を実施 または疲労蓄積度チェックリストを実施 |
60時間/月 | 本人の申込に関係なく、産業医面談を実施 |
なお、単月で時間外労働が80時間を超えた従業員は、本人から申し出があった場合に産業医面談を受けさせる義務があります。ですので、多くの企業では80時間に達する前の段階で何らかのケアができるようルールを設定しています。
ところで、長時間労働がきっかけの産業医面談とはどういったことを話すのかご存知でしょうか? 以下の記事で具体的な会話の流れをご紹介していますので、これまで産業医面談を受けたことがない人事労務担当の方はぜひ参考にしてみてください。
7.長時間労働者に疲労蓄積度チェックリストを実施する
長時間労働と似た言葉に、過重労働という言葉も聞いたことがあると思います。厳密には意味合いが異なっていますので整理しておきましょう。
長時間労働者 | 過重労働者 | |
---|---|---|
法律上の基準 | 明確な基準はない。 労基法36条の時間外労働45時間を超え従業員を指す。 | 明確な基準はない。 労災基準によると、長時間労働に限らず、身体的・精神的に負荷のかかる業務に従事している者を指す。 |
使用する場面 | 勤怠管理 | 健康管理 |
従業員の健康を守る安全配慮義務の観点からは、長時間労働だけを見るだけでは十分ではありません。仮に時間外労働が上限(80時間)に達していなかったとしても、疲労が認められる従業員には何らかの措置をとることが労務管理として求められます。
そこで活用できるのが疲労蓄積度チェックリストです。
疲労蓄積度チェックリストとは、働く人の長時間労働による不調を防ぐ目的で、厚生労働省が作成したものです。疲労蓄積チェックリストでは、本人の疲労に対する自覚症状や勤務状況についての質問が計20個実施されます。
疲労蓄積チェックリストの詳しい活用方法について次の記事で詳しく解説しています。会社の規模に応じた有効な活用方法を説明しているため、長時間労働対策を徹底したい方はご一読ください。
ここまで、長時間労働の対策として企業がすべき7つのことを解説しました。
長時間労働の対策として企業がすべき7つのこと
- 勤怠管理システムを入れて、労働時間を正確に把握する
- 所定労働時間と総労働時間の両方を計算し、長時間労働を把握する
- 就業制限に配慮が必要な人を事前に把握する
- 長時間労働の状況を衛生委員会で報告・共有する
- 毎月の労働時間を、産業医が常に確認できるようにする
- 長時間労働が理由の産業医面談のルールを規定する
- 長時間労働者に疲労蓄積度チェックリストを実施する
以上の対策は「不調な従業員をいち早く見つける体制づくり」です。いずれも人事部だけで実施でき、かつ労務リスクを大きく軽減できるのでまずはここから取り組んでください。
長時間労働対策で得られる効果
長時間労働対策を行うことで、下記のような効果が得られます。
- 従業員のワークライフバランスの向上
- 従業員のモチベーションアップ
- 従業員のスキルアップ
- 生産性の向上
- 従業員の健康維持
- 離職率の低下
- 採用コストの削減
- 企業イメージの向上
従業員のプライベートタイムが増えることで、ワークライフバランスの向上につながり、幸福度が上がります。幸福度が上がれば、働くモチベーションも高まるでしょう。また、業務時間が減ることで、読書や講座を受講するなど、スキルアップに時間を使う従業員も出てきます。
従業員のモチベーションが高まった上にスキルアップにつながれば、生産性が向上するでしょう。特に、長時間労働対策には無駄な仕事の削減が必要なため、生産性は上がりやすいのです。
そして、労働時間が減ることでストレスが減り、従業員の健康維持につながります。労働時間が減れば、離職率の低下が見込める上に、退職に伴う採用コストも削減できるでしょう。
さらに現代は企業の労働時間などの情報も、SNSなどの媒体で公開されます。違法な長時間労働を行えば、匿名で会社の悪口をWeb上に書き込む従業員も出てきます。逆に労働時間を削減できれば、喜びの声をWeb上に書き込む従業員も現れるかもしれません。
Web上の評価が良くなれば、企業イメージも向上します。採用時にも優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。また、長時間労働対策に成功すれば、このあと紹介する「ベストプラクティス企業」などに選ばれる可能性もあります。このように、長時間労働対策によって企業イメージが向上します。
では、これらの長時間労働対策の効果を得るためにも、成功事例から学びましょう。実際に長時間労働の対策に成功している企業事例を3つご紹介します。
長時間労働の対策に成功している企業事例3選
厚生労働省は、働き方改革に積極的に取り組んだ企業を「ベストプラクティス企業」として選定しています。以下3社は、過去にベストプラクティス企業に選ばれた会社です。
- 株式会社京都銀行
- 株式会社荒木組
- 株式会社モバイルファクトリー
各社が長時間労働に対してどんな対策をしたのか、詳しく見ていきましょう。自社にも活かせる点がないか、チェックしながら読み進めることをおすすめします。
【事例1】株式会社京都銀行

株式会社京都銀行は、2018年にベストプラクティス企業に選ばれています。
「金融機関=長時間労働」というイメージが強く、金融機関に求められる役割も多様化している中で、経営者から行員(従業員)への一方的な働き方改革では実効性がありません。そこで京都銀行では、「7アップ考動」という全社的な取り組みを実施しています。
全行員が仕事の生産性を向上させて余暇を創造し、余暇を活用して能力開発と自己研鑽に励むことで、ワンランク上の仕事に取り組むというサイクルをまわしていこうというのが主な目的です。
京都労働局長によるベストプラクティス企業への職場訪問
具体的には、以下4つの項目について取り組んでいます。
- 長時間労働の削減
- 有給休暇の取得促進
- 仕事と家庭の両立支援
- 高齢者の雇用促進
取り組み項目だけ見てみると、ごくごく当たり前の項目が並んでいますね。しかし、京都銀行が長時間労働を削減できた本当の理由は取り組みそのものではなく、経営層自らが実行に移した点にあります。
組織としての仕組みづくりに着手
各人の取り組みでは物理的な限界があるので、頭取を本部長とした営業店業務の改革に着手しています。具体的には、ハンザツな事務作業である融資事務や受電対応を集中化させる施策を、企画から一部営業店で試行し、その後拡大するまでを担っています。
従業員の半数以上を占める女性の働き方支援
女性活躍とすると、女性に限定されたキャリアサポートや休業制度の整備が思いつきます。しかし、京都銀行では男性の育休を推進する「ハローパパ休暇」制度を新設するなど、女性に限らない施策を実施することで、結婚・出産を機にキャリアが途切れてしまう問題を解決しています。
このように直接的な残業削減だけではな取組を同時に実施することで、経営トップや全社的な取組みとして実行できているのです。この他、京都銀行の働き方改革の詳細については、以下の記事もご確認ください。
【事例2】株式会社荒木組

総合建設業を行う株式会社荒木組は、2019年にベストプラクティス企業に選ばれています。建設業界共通の課題である少子化による労働力の不足や、高いスキルを持つ技術者の高齢化による離職などがきっかけで、働き方改革に力を入れ始めました。
荒木組が時間外労働を16%削減(308.5時間→258.2時間)できた一番の理由は、社長の考え方にヒントが隠されています。
「ICTの活用」、「PCの強制終了」、「早よ帰れ」だけでは労働時間短縮はできない。
一人ひとりの意識改革、職場環境改善が大切。褒めてもらえる環境、見える化して互いが分かり合える環境、早く帰れる環境、そういった職場の環境作りが重要。改革への取り組みはトップダウンではなく、しかるべき権限・裁量を与えることが大切。
それでは具体的な取り組みを2つほどピックアップしてみましょう。
人材育成・教育制度の中に安全管理を組み込む
労働時間の削減は、経営者や管理部門からの声掛けだけでは実現できません。建設業のように現場ごとに管理者がいたり、協力会社との関係が必要不可欠な働き方においては、現場の管理監督者への教育が欠かせません。安全管理の一環として労働管理について管理監督者へ教育することで、労働時間の削減を実現しています。
働きやすさの可視化
たとえばPCの強制終了による残業抑制では、管理部門からの声掛けではなくAIに実施させることで全社員共通のルールであると動機付けされています。また事務所内に有給の取得状況を掲示したり、ありがとうカードの運用によって、社員同士が休みをとりやすい・早く帰りやすい環境づくりを実施しています。
この他にも、以下のレポートでは荒木組でのベストプラクティスが写真付きで紹介されていますので、実際の取組みがイメージしやすくなっています。
【事例3】株式会社モバイルファクトリー

モバイルサービス事業を展開する株式会社モバイルファクトリーは、2019年にベストプラクティス企業に選ばれています。
モバイルファクトリーではエンジニアの採用力を強化と定着率向上を目指して、トップダウンによる働き方改革がはじまりました。結果、残業時間はピークの5分の1まで減少・有給取得率は84%と以上という結果を残しています。しかし、実は取り組み始めではいくつかの失敗を乗り越えていたのです。
定着しなかったノー残業デーと早朝インセンティブ
たとえばノー残業デーを設定するだけでは、実際の業務量が減っていなければ従業員は帰れません。強制的にオフィスを消灯しても、人事がいなくなればまたオフィスに戻ってきて仕事を続けることがありました。またエンジニアの特徴として、早朝よりも夜のほうが仕事が捗るという意見から、早朝インセンティブも定着しませんでした。
ムダの削減は、スタンディング会議からはじまった
失敗を踏まえて、そもそもムダな作業がどこに発生しているのかを調査するところから再スタート。調査の結果、会議の時間でもっともムダな時間が発生していたため、スタンディング会議を導入。立っているため、30分で切り上げることが多くなり、必要な人数だけ集めて即断・即決できるオフィスに作り変えました。
モバイルファクトリーでは、長時間労働にとどまらず従業員の健康管理と全社的なペーパレス化を実現するために、健康管理システムCarelyを導入しています。具体的な活用法をインタビューしてきましたので、参考にしてみてください。
ここまで、長時間労働の対策に成功している企業事例を3つご紹介しました。各社が働き方改革のために、さまざまな施策を実施していることがわかります。
まとめ:法令遵守と健康管理の視点から長時間労働対策をしよう
長時間労働に対して人事労務が対策すべき範囲は、ここ数年で大きく変わりました。
働き方改革による残業時間の上限規制・有給取得の義務・産業医の権限強化や、違法な長時間労働を取り締まる厚生労働省と労基署による監督指導の強化、労災基準の改正などが行われてきました。
企業としては、最低限の法令遵守に対応するだけでなく、従業員の健康管理という観点から総合的な対策をとる必要がでてきたのです。その対策には大きく2つの目的があります。
ひとつは、不調な従業員をいち早く見つける体制づくり。もうひとつは、ムダな労働時間を削減する取り組み。それぞれについては具体的な取り組み内容や事例をご紹介しましたので、自社で取り組む参考資料として本記事をご活用ください。
長時間労働の対策として企業がすべき7つのこと
- 勤怠管理システムを入れて、労働時間を正確に把握する
- 所定労働時間と総労働時間の両方を計算し、長時間労働を把握する
- 就業制限に配慮が必要な人を事前に把握する
- 長時間労働の状況を衛生委員会で報告・共有する
- 毎月の労働時間を、産業医が常に確認できるようにする
- 長時間労働が理由の産業医面談のルールを規定する
- 長時間労働者に疲労蓄積度チェックリストを実施する
長時間労働の把握ならば勤怠システムで実現できると思われるかもしれません。しかし、給与計算などの用途で扱う所定労働時間の計算と、健康管理のための法定労働時間の計算式は異なります。
勤怠とは別にエクセルで再集計を行ったり、過重労働者へ産業医面談の予約、従業員の健康データを準備するといったアナログ業務は、人事担当者が長時間労働になる原因ともいえます。
長時間労働への対策にとどまらず、健康診断やストレスチェックも一元管理して、従業員への健康管理を効率化したい方は、以下からお問い合わせください。
\まとまると予防できる/