過重労働の基準知ってますか?会社が義務違反にならないための対策

近年問題となっている過重労働。働き方改革関連法と呼ばれる2019年から労働基準法を中心に大幅な法改正の施行により、企業は対策を迫られています。
この記事では、過重労働の基準や定義と、直近の法改正で変わった働き方改革の全体像を解説します。
過重労働とは?
過重労働とは、心身に大きな負荷のかかる労働のことです。
過重労働による死亡を「過労死等」と呼び、平成26年11月に施行された過労死等防止対策推進法第2条で以下のように定義されています。
- 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
- 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
- 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
参考:過労死等防止対策推進法
日本の過重労働の現状
日本の過重労働の近年の動向は、
- 労働時間はやや減少傾向
- 過重労働による脳・心臓疾患の労災支給決定件数は減少傾向
- 過重労働による精神障害の労災支給決定件数は増加傾向
となっています。
パートタイム労働者を除く一般労働者の年間総実労働時間は、2021年に1945時間で、3年連続で2,000時間を下回っています。2019年4月から順次施行された働き方改革関連法の影響で、労働時間は減少傾向にあると言えます。

過重労働による脳・心臓疾患の2021年の労災申請件数は753件、支給決定件数172件、そのうち死亡に関する支給決定件数は57件でした。下記のグラフの通り、近年は減少傾向にあると言えます。

過重労働による精神障害の2021年の労災申請件数は2346件、支給決定件数629件、そのうち死亡に関する支給決定件数は79件でした。下記のグラフの通り、近年は右肩上がりに増加しています。

勤務問題が原因の自殺者数は、近年横ばいで2021年(令和3年)は1,935人でした。ただし、自殺者総数に占める勤務問題が原因の自殺者の割合は2021年に9.2%で、やや増加傾向にあります。

働き過ぎで起こる症状や健康リスク
過重労働(長時間労働)は、健康リスクを伴うため防ぐべきとされます。
具体的には、労働による心理的な負担に加えて、
- 労働負荷の増大
- 睡眠・休養時間の不足
- 家族生活・余暇時間の不足
によって疲労が蓄積し、「脳・心臓疾患」「精神障害・自殺」「その他の過労性の健康障害」「事故・ケガ」を引き起こしてしまいます。

過重労働と長時間労働の違い
過重労働と似た言葉として「長時間労働」という言葉もよく使われます。
長時間労働は、文字通り「労働時間」に焦点を当てた考え方で、時間外労働(残業時間)が長いことを指します。過重労働は、労働時間以外の要素も含めて、心身の負荷がかかる労働をより包括的に指すことが多いです。
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過重労働の基準
過重労働の基準は主に以下の3つがあります。
- 過労死ライン(過労死が労災認定される基準)
- 残業時間の上限規制の基準(法改正あり)
- 長時間労働者への面接指導が必要な基準(法改正あり)
それぞれ解説していきます。
過労死ライン
過労死ラインとは、脳・心臓疾患による過労死を発症するリスクが高いとされる時間外・休日労働時間のことです。
- 「月100時間」を超える時間外・休日労働
- 2〜6ヶ月間平均で「月80時間」を超える時間外・休日労働
が過労死ラインとされています。

過労死ラインについては、働き方改革関連法や労災認定基準の改正では特に変更されていませんが、引き下げるべきだという議論がされていました。
また、従来の過重労働や過労死は「労働時間のみ」で考える視点が強かったですが、2021年に労災認定基準が改正され、過重業務の評価について「労働時間」と「労働時間以外の負荷要因」を総合評価して労災認定することが明確化されています。
参考:脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました – 厚生労働省
残業時間の上限規制
法改正前の基準
労働契約の最低限の基準を定めた労働基準法は「労働時間は1日8時間、週に40時間以内」を原則と規定しています。
しかしながら、通称「36(サブロク)協定」と言われる、労働基準法36条に書かれていた時間外労働に関する規定により、青天井に残業時間を増やすことができるのが法改正前の労働基準法でした。
法定労働時間を超えた時間外労働や休日労働であっても、会社と従業員が労使協定(36協定)を締結し労働基準監督署に届け出ていれば「1ヶ月45時間、1年間360時間」労働時間を延長できていました。
さらに、「特別条項付き」にしておけば、臨時的に忙しい場合には上記の延長時間を超えた時間でも、時間外労働をして良いこととされていました。
そして、特別条項には延長時間の上限が記載されていませんでした。
そのため「特別条項付きの36協定」により労働時間に上限規制は事実上は存在しない状態でした。
法改正後の基準
2019年4月の労働基準法改正で最も大きな変更点は、残業時間の上限規制です。
「1ヶ月45時間、1年間360時間」という上限が定められ、36協定があってもこれ以上は残業させることができなくなりました。
さらに、特別条項についても、以下の制限が設けられました。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平 均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1ヶ月当たり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月が限度
つまり、これまで事実上はいくらでも残業が合法的にできてしまった状態から、明確に残業時間の上限が定められたということです。
違反すると6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課せられます。
長時間労働者への面接指導が必要な基準
法改正前の基準
労働時間に関する基準としてもう1つ、労働安全衛生法で定められた長時間労働者に対する医師による面接指導があります。
法改正前は、1ヶ月あたり100時間を超える法定外労働をした労働者に対して、疲労の蓄積が認められる場合で、本人が申し出をしたら医師による面接指導をすることが義務付けられていました。
法改正後の基準
労働安全衛生法に基づく長時間労働者への面接指導については、法定外労働時間が「月100時間超え」から、「月80時間超え」に基準が変更になりました。
毎月の法定外労働時間を集計し、80時間超えの労働者については疲労の蓄積度を確認して医師による面接指導の勧奨ができるようにしましょう。
また、残業時間の上限規制で用いる残業時間と、長時間労働者への面接指導が必要かどうかを判断する残業時間は計算方法が異なるため、正確にそれぞれの残業時間を分けて管理できるよう気をつけましょう。
残業時間の計算式については、下記の記事を参考にしてください。
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働き方改革関連法の全体像
ここまで、過重労働に関する定義や基準と法改正について解説してきました。
しかし、働き方改革関連法は残業時間の上限規制や長時間労働者への面接指導の基準引き下げだけでなく、その他にも改正されたことがあります。
過重労働に関連して、義務違反が起こらないように働き方改革関連法で改正された以下の8点はおさえておきましょう。

前述した「残業時間の上限規制」と「長時間労働者への面接指導」は①と②にあたります。
1.時間外労働の上限規制を導入
前述の通り、時間外労働の上限規制が導入されました。
大企業では2019年4月1日から、中小企業では2020年4月1日から施行されています。
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間が原則となり、臨時的な特別な事情がある場合にも下記の上限が決まりました。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平 均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1ヶ月当たり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月が限度

2.産業医・産業保健機能の強化
労働者の健康管理に必要な労働時間などの情報を産業医へ提供することが明示されて、2019年4月1日に施行されました。詳しくは、厚生労働省の以下のリーフレットにわかりやすくまとめられています。
参考:「働き方改革関連法により2019年4月1日から「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます
特に、長時間労働者に対する面接指導に関する業務がより厳格化されて、以下の図の通り新規に追加された項目と、拡充された項目があります。
労働時間を的確に把握した上で、産業医に時間外・休日労働時間が80時間超えの労働者の情報を提供し、本人の申し出をもとに産業医面談を実施することが規定されています。
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3.年次有給休暇の確実な取得
年次有給休暇の確実な取得についても2019年4月1日に施行されました。
使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に「年5日」は確実に有給取得させなければならなくなりました。
これに際して、使用者が日を決めて有給を強制的に取得させる「時季指定」が認められるようになっています。

4.中小企業の月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ
中小企業にて、これまでは残業の割増賃金について月60時間超えでも「25%」となっていましたが、2023年4月1日から月60時間を超える残業に対する割増賃金率が「50%」に引き上げられます。
残業を減らす対策を進めなければ、割増賃金の支払い金額が増えてしまうため、中小企業では残業削減が喫緊の課題となっています。

5.正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止
大企業・派遣会社では2020年4月1日から、中小企業では2021年4月1日から、正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止されることとなりました。「同一労働同一賃金」と呼ばれています。
全く同じ時間同じような仕事をしているにも関わらず、正社員と、契約社員や派遣社員の間で大きく給与が異なるような状況を改善するためのものです。
6.「フレックスタイム制」の拡充
2019年4月1日より、フレックスタイム制がより柔軟になり、これまで1ヶ月だった清算期間(労働時間の調整が可能な期間)が3か月まで延長されました。
7.「高度プロフェッショナル制度」を創設
2019年4月1日より、高度プロフェッショナル制度(通称「高プロ」)が創設されました。
職務の範囲が明確で、年収1705万円以上(基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る⽔準)で、高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する場合に、特定の条件を満たすと労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外にできます。
詳細は「⾼度プロフェッショナル制度わかりやすい解説」を参照ください。
8.勤務間インターバル制度の導入促進
2019年4月1日より、終業時刻から次の始業時刻の間、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)の確保に努めなければなりません。
残業時間の上限規制が2024年3月31日まで猶予・除外となる対象業種
残業時間の上限規制については、特定の事業・業務で適用が猶予されます。該当業種は下記の表の通りです。
事業・業務 | 猶予期間中の取扱い (2024年3月31日まで) | 猶予後の取扱い (2024年4月1日以降) |
---|---|---|
建設事業 | 規制適用外 | ・災害の復旧・復興の事業を除き、時間外労働の上限規制が全て適用されます。 ・災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、以下の2つの規制は適用されません。 ①月100時間未満 ②2~6ヶ月平均80時間以内 |
自動車運転の業務 | 規制適用外 | ・特別条項付き36協定を締結する場合、年間の時間外労働の上限が年960時間となります。 ・時間外労働と休日労働の合計については、以下の2つは適用されません。 ①月100時間未満 ②2~6ヶ月平均80時間以内 ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用されません。 |
医師 | 規制適用外 | 具体的な上限時間は今後、省令で定めることとされています。 |
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | 時間外労働と休日労働の合計については、以下の2つは適用されません。 ①月100時間未満 ②2~6ヶ月平均80時間以内 | 時間外労働の上限規制が全て適用されます。 |
尚、新技術・新商品等の研究開発業務については、時間外労働の上限規制の適用が除外されます。
その代わり、1週間当たり40時間以上の労働時間が月100時間を超えた場合には、医師の面接指導が罰則付きで義務づけられています。
過重労働のよくある3つの質問
過重労働に関してよくある3つの質問をまとめます。
36協定の残業時間を守れば、安全配慮義務違反にはならない?
企業には従業員の健康に配慮する安全配慮義務があります。労働基準法、36協定の範囲内で残業をしていた場合でも、それだけで安全配慮義務を果たしていることにはなりません。
残業時間の上限規制は、最低限の上限があくまで定められているもので、超えてしまうと労基違反として6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課せられます。
その上で、従業員の健康に配慮して「時間外労働や休日労働は必要最小限にとどめられるべき」ということに留意しましょう。
36協定の特別条項があれば、上限まで残業してもいい?
36協定の特別条項があるだけで、上限まで残業していいわけではありません。あくまで、臨時的な特別の事情がなければ、限度時間を超えることはできないこととなっています。
原則は「月45時間」「年360時間」におさえた上で、限度を超える場合は臨時的・突発的な状況でやむをえない場合に限定するようにしましょう。
過重労働についてはどこに相談すればいい?
過重労働に関する相談の公的相談窓口としては、
・所轄の労働基準監督署
・都道府県労働局
・産業保健総合支援センター(さんぽセンター)
などが使えます。
また、残業削減や長時間労働者の健康管理などに使える助成金の情報は下記の記事を参考にしてください。
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まとめ
2019年の働き方改革関連法の施行から、多くの企業で残業の削減や長時間労働対策が推進されてきました。過重労働が常態化している企業は、企業イメージがより一層悪くなり、採用力も維持できなくなってきています。法改正のポイントを把握し、しっかりと法令を遵守していきましょう。
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