オフィスの空調問題を産業医が解決。冷房は寒い人、暑がりな人、どちらに合わせるべきか?

人事総務にとって定番の悩みである「オフィスの空調問題」、今年も頭を悩ませる季節がきました。
今日は夏場のクーラーの温度調節について、
・どういったルールで温度調節すべきか
・寒い人と暑い人のどちらに合わせるべきか
・そもそもオフィスの温度管理を正解とは
といった点を、産業医である山田から解説します。
夏場のオフィスではあるあるな課題
オフィスのエアコン管理はやっかいな問題です。誰かが暑いと言って冷房の温度を下げると、30分後には寒いという人が現れて温度を上げる。すると、暑いと言って・・・
施設管理の責任がある人事総務としては、すべての社員にとって過ごしやすい環境になるようにしたいところですが、暑い人・寒い人の板挟みになってしまいます。
さらに急激な温度変更は体調を崩す要因になったり、電気代が必要以上にかさむ原因にも。
そこで産業医として数々のオフィスの空調問題を指導してきた中で分かってきた、温度管理の鉄板解決ルールをご紹介します。
まずは興味深いひとつのデータからはじめましょう。
男性の45%が冷房弱者だと分かりました。
2012年7月、エアコンメーカーでもあるダイキンから興味深いデータが公表されました。
オフィスの冷房を寒いと感じる人は女性ばかりだ。とついイメージしがちです。
しかし、ダイキンの全国700人への調査によると冷房を苦手とする人(冷房弱者)の割合は、全体で54.9%おり、男性のみでも44.8%となっています。
ここで『冷房弱者』というダイキンが独自に定義した言葉が登場します。
冷房弱者とは・・・
冷房が効いた環境において
体調不良などになった経験をもち冷房に苦手意識を持つ人。
寒すぎても家族や他人を気遣い我慢してしまう人。
という意味になります。
注意すべきポイントは、寒すぎても気遣って我慢してしまう人であること。
特に男性の場合は、 「エアコンの温度は低くても問題ない」 と周囲から思われてしまうことで我慢してしまい、体調を崩してしまう人が想像以上に多くいらっしゃいます。
また男性に限らず、外回りがある営業職の場合にはオフィスの冷房が体調不良を引き起こす原因にもなってきます。次はこのことについてご説明します。
外出を繰り返す人が体調を崩しやすい
暑さによって身体の温度調節機能が崩れてしまい意識がもうろうとしてしまう熱中症に対する危険性は多くの方が知っているかと思います。
一方で、夏場のエアコンによっても体調不良を引き起こしてしまうことはご存知でしょうか?
例えば、営業の方は外出した際にエアコンが良く効いている場所と暑い場所を行き来します。
こうして温度差の激しい環境にある人は、出入りがほとんどない人に比べて2.4倍も体調不良経験者が増えます。
具体的には「温度差5℃」以上の場所が要注意です。
自律神経失調症と同様の症状がおき、めまいや立ちくらみなどの体調不良を引き起こされます。
空調管理の第一歩は室温を測ることから
寒がりな人、暑がりな人、気温の感じ方は人それぞれですので主観にもとづいてエアコンの温度を変えてしまっても、人事総務が板挟みになってしまう状況は変わりません。
さらに、頻繁な温度変化は外出をしていない人にとっても体調不良を引き起こしやすい状況になってしまいます。
それでは実際にどういった基準でエアコンの温度を変えていけばいいでしょうか?
答えは簡単です。
快適な室内温度になるようにエアコン温度を調節する
詳しくご説明しますね。
あまりに当たり前のことで忘れてしまいがちですが、私たちが暑い寒いを感じているのはエアコンの温度ではなく室温です。
リモコンに表示される温度は冷房の強弱を表す目安であって、必ずその室温に調節するという意味ではありません。
また体調不良を引き起こす可能性があるのも、オフィスの室温と温度差です。
ということは、人事総務としてオフィスを快適に保つためにするべきことは、
・快適な室温を基準として、
・その室温になるようにエアコンを調節する。
ということが原則です。
エアコンの設定温度は28度、は本当なのか?
室温を基準としてエアコンの温度を調節すること、これがオフィスの温度管理の鉄則です。
ところで、あなたは「エアコンの設定温度は28度が推奨」ということを聞いたことはありませんか?
日本の法律上では、
「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が17度以上28度以下〜中略〜になるように努めなければならない」
(労働安全衛生法の事務所衛生基準規則5条3項)
とされています。
読んでいただければわかりますが、28度という温度はあくまでも室温のことであり、かつ上限値でもあります。
たとえば、外気温が35度を超える真夏日においてクーラーの温度を28度に設定したとしても、室温が28度以下になっているかどうかは室温計で測らなければ分かりません。
オフィスの温度管理は、室温の計測から。
そしてエアコンの温度調節にもいくつかのルールがありますので、次は実際の調節方法についてご説明します。
クーラーの温度調整5つのルール
それでは実際に冷房の温度調節について、産業医として指導してきたルールをご紹介します。
大きく5つのルールがありますが、ルール1だけは必ず実施してください。その他4つのルールは対応できるものから実施していただくと効果が実感しやすくなります。
ルール1. オフィス5ヶ所に温度計を設置する
これは必ず実施してください。
すでにご説明した通り、エアコン問題の一番大きな課題は暑い人も寒い人も主観で室温を判断して冷房の温度を上げ下げしている点です。
そこで主観ではなく客観的な数字として室温を見て温度調節をはじめましょう。
すでに室温計を設置しているオフィスもあるかと思いますが、基本的にはオフィス内の5箇所に温度計を設置して室温を測ります。
そう5箇所です、1箇所ではありません。
温度は空気の流れによっても上下2℃程度はすぐに変化します。
具体的には、オフィスの四隅と中心を計測してください。

ちなみに、 温度計としておすすめしたいのは「温度計機能付きの卓上時計」です。いわゆる壁掛けの温度計は意外に設置場所に困りますが、卓上時計なら置き場所に自由がききますし時刻が分かる点も便利です。
ルール2. 30分0.5度のルール
オフィスでの温度調整は自宅のエアコンと同じようにいきません。業務用のエアコンであっても広いオフィスの室温が変えるまでには30分程度はかかってしまうものです。
ですので、30分間で0.5℃だけ上下する。
仮に「まだ暑い!」という人がいたとしても30分は動かさない、
というルールです。
でも、これでは営業などで外から帰ってきたばかりの人にとってはつらいかもしれません。そこでルールの2つ目です。
ルール3. 局所対応のルール
これはすでに実践されている会社も多いのではないでしょうか。
例えば、外出先から戻ってきたばかりで暑いという人は卓上扇風機などを準備し個々人で対応します。
また体感として暑さを感じやすい要因として湿気もあります。体感温度を一時的に下げる役割としても卓上扇風機は有効です。
反対に女性社員の方などで寒さを感じてしまう場合は、「首・腹・足首」の三点を暖かくできる準備を進めましょう。
特に足首はデスクによって外部からの目を遮ってくれるので、寒さ対策がしやすい部位です。
ルール4. 気流をつくるルール
個人的にもっともおすすめしたいルールがこの気流をつくるルールです。
温度や湿度を適度に調節したとしても不快に感じてしまう従業員の方がまだいる場合には大型の扇風機やサーキュレーターを使います。
使い方の上で気をつけるべきポイントは、直接人肌に当てるのではなく、エアコンの風をオフィス内に循環させるようにします。
エアコンを稼働させているとどうしても換気がしづらくなってきますが、空気を循環させることで不快指数を下げる有効な手段になりますので試してみてください。
ルール5. 温度調節係のルール
さて、ここまで必須のルールを1つと任意のルールを3つご紹介しました。
こうしたルールを導入した場合にまず間違いなくどこの会社でも起こることがあります。それはルールを破ってしまう人がおり、結局元の状態にもどってしまうこと。
そこで私がおすすめしているのが5つめのルールとして、温度調節係を一人または二人に決めることです。
温度調整係は、人事総務である必要はありません。衛生管理者がうけもったり、各部署の代表者が持ち回りするということもあります。
担当が決まることで、室温を見る→温度調整するという流れが身につきこういったルールを社内に周知しやすくなるからです。
以上がクーラーの温度調節における5つのルールでした。ぜひ実践してみてください。
正しい知識と考え方を周知徹底しよう
人事総務にとっての毎年のように課題としてあがる「オフィスの空調」問題。今回は夏のクーラーの温度調節のルールを5つご紹介しました。
オフィスが暑いのか、寒いのか、人それぞれに感じ方は異なります。その感じ方は次の6つの要因にあると言われています。
- 着衣量(clo値)
- 代謝量(Met値)
- 空気温度(℃)
- 放射温度
- 気流
- 湿度
この中で人事総務としてコントロールできる要因は、3の空気温度・5の気流・6の湿度となります。エアコンを適切に温度調節し、サーキュレータを併用することで暑い・寒いの感じ方の差を解消することは可能です。
しかし、オフィスの温度調節は言うは易く行うは難しの典型例です。そこで今日ご紹介したルールを実践することで、正しい知識と考え方を従業員に周知していくことが人事総務としての問題解決となります。