中間管理職はなぜ辛いのか?人事に求められている支援と対策

中間管理職、つまり課長・係長・主任レベルの社員は、一般従業員よりもストレスを多く感じています。ストレスはうつ病や離職などの大きなリスク要因です。
しかし、人事の約4分の1が中間管理職への支援は行っていないという調査結果もあり、一人でストレスを抱え込んでしまう中間管理職が多くいるのが現状です。
実は、中間管理職が感じている課題感と、人事が考えている課題に大きなズレがあると言われています。あなたの会社では、中間管理職の負担の原因を正しく理解し、パフォーマンス向上のための正しい支援・対策ができているでしょうか?
ここでは、中間管理職はなぜストレスが高いのかを分析し、人事に必要な対応や支援をお伝えします。
中間管理職の約9割がプレイングマネージャー
中間管理職が辛い理由の1つに、プレイングマネージャーであることが挙げられます。日本では、中間管理職の約9割がプレイングマネージャーだと言われています。*1
プレイングマネージャーとは、部下のマネジメントを行いながら、一般社員と同じようなプレイング業務もこなす、選手兼任監督のことです。マネージャーは部下のマネジメントのみを行えば良い一方、プレイングマネージャーは、個人の仕事成果とマネジメントによる成果の両方が求められます。
「業務量が多く、自分もプレイヤーとして加わる必要がある」、「部下の力量が不足しており、自分もプレイヤーとして加わる必要がある」などが理由で、プレイング業務を行わざるを得ない管理職が増えています。*1
働き方改革によって、更にプレイングマネージャーの負担が増えてしまっています。就業時間の制限により、部下が終えられなかった業務をカバーしたり、部下になかなか業務を依頼できなかったりといった弊害が出ています。
*1リクルートワークス調査報告書「プレイングマネジャーの時代」2019年3月有効回答数 2183人
プレイングマネージャーになる理由・メリット
プレイングマネージャーが多い背景には、人件費削減や人材育成の目的、そして意思決定スピードの向上といったメリットがあります。
バブル経済の崩壊により、人件費削減の動きが広がりました。売上に直結しない管理職は減らされ、管理職も売上に貢献する必要が出てきました。社員1人当たりの業務負担も増え、管理職がプレイング業務をこなさないと組織のノルマをこなせないようになり、プレイングマネージャーが増えていったのです。
また、中間管理職がプレイヤーとして仕事をすることが、部下の人材育成にも繋がります。中間管理職は、プレイヤーとしての豊富な経験やスキルを持っています。上司のレベルの高い仕事ぶりを部下に見せることで、部下の成長を促す目的もあるのです。
プレイングマネージャーを配置するメリットに、意思決定スピードの向上があります。プレイングマネジャーは経営陣の決定をいち早く現場に伝え、そして現場の声を迅速に経営陣に伝えることができます。両者の橋渡しをするという重要な役割を担っています。
自らも高い成果を出しながら、部下の育成など組織としても成果を出せる中間管理職が、今の日本企業には必要です。
メンタル面でのケアや評価制度の整備が必要
経営上、重要な立場にあるプレイングマネージャーですが、メンタル面では大きな負担を抱えています。ある調査からも、中間管理職が一般の社員よりも大きなストレスを感じていることが分かりました。*2
より上の経営層や役員層よりもストレスが大きく、中間管理職ならではの立場上のストレスが大きいのが伺えます。

しかし、管理職本人が感じている業務上の課題と、人事が考える中間管理職が抱える課題には大きなズレがあることも分かっています。*3

人事の方々は法制定やリスクへの対応をイメージしている人が多い一方で、管理職は人材や時間の不足を問題視しています。法やリスク管理など人事が注意してほしいことが管理職に伝わっていないか、あるいは管理職は目先の業務負荷に追われていて、リスク管理どころではないのかもしれません。
会社として、中間管理職の現状を正確に捉えて、課題に合った対策をしていく必要があります。
*2Wrike株式会社 日本国内の会社員の働き方とストレス・生産性との関係に関する調査 2018年 有効回答数1,034名
*3株式会社パーソル総合研究所「中間管理職の就業負担に関する定量調査」2019年
中間管理職のストレス要因
中間管理職のストレスが大きいことを説明してきましたが、では実際に何が中間管理職のストレスになっているのでしょうか。
ストレス要因「人材不足」
中間管理職の最もストレスになっているのが、人手不足や後任者がいないことです。*3
中間管理職がプレイング業務を行わないといけない理由の1つに、自分しかその業務ができず、任せられる人がいないということがあります。中間管理職は経験が豊富なため、部下に任せられずに自分が背負ってしまうことになるのです。
また、働き方改革により部下になかなか仕事を任せられないことも増えてきています。人手不足を解消するツールの導入も、会社として検討する必要があるでしょう。
ストレス要因「上司と部下の板挟み」
中間管理職は上司と部下の板挟みになり、相反することを併行しないといけない等のストレスを感じます。
中間管理職はリスクを伴う判断を強いられ、その結果への厳しい責任も科せられています。上司との関係では「結果や評価に対するプレッシャーを感じる」「話が通じない」「言うことがコロコロ変わる」など多くのストレスを受けています。
一方で、部下がメンタル不調にならないよう、ケアをしていかないといけません。部下との接し方にストレスを感じる中間管理職も多く、マネジメントスキルの向上が求められています。
上司からも部下からもストレスを感じて、誰にも相談できない状況が、中間管理職を追い詰めてしまいます。
ワーカホリックな気質「タイプA」
そもそも仕事を頑張りすぎる、仕事人間な「タイプA」という正確が悪影響を与えていることもあります。この性格からストレスを抱えてしまう人は、体調不良に自分も周りの人も気づかないことが多いため、メンタルヘルス不調にならないよう周囲が注意して見ていく必要があります。
タイプAとは、ストレスに大きく関連していると言われている個人要因です。タイプAの人たちは、職場で目立って活動的な人たちで、いつも誰かと競争しようとする気持ちを高くもっています。時間に終われるように、切れ目なく話し、短期で、同時にいくつもの仕事をこなすことができます。成績が優秀なことが多く、中間管理職に昇進しやすいです。
仕事人間の人は、仕事が出来て信頼も厚い一方、自身の健康を軽んじてしまい、結果的に大きく体調を崩してしまうことも少なくありません。ワーカホリック(仕事中毒)なことも多く、ストレスに上手く対応できていないのです。ムリをして心身に負担をかけ、自分が気づかない内に深刻な体調不良に陥ってしまうことがあります。
タイプAの人たちは周囲へもネガティブな影響を与えることがあるので、注意が必要です。それとは正反対の、活動的でない人たちをタイプBは言われています。
人事が取るべきメンタルヘルス対策
ストレスの多い中間管理職のためのストレス解消には、「セルフケア」、「横のケア」そして「よく休みよく働く」という考え方が重要です。
人材不足や後任者がいない問題に対してはIT技術の導入や人材教育が必要になりますが、ここでは特にメンタルヘルスのケアに焦点を当てて、その対策をご紹介します。
①セルフケア
厚生労働省は、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」でメンタルヘルスの「4つのケア」である「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」を行うことを推奨しています。セルフケアはそのうちの1つです。
セルフケアは、労働者が自分で自分のストレスに気付き、それに対処することです。中間管理職は、責任の強さやワーカホリックな性格から、自分のストレスに気づいていないことがあります。自分のストレスが高いことを自覚して、自分のケアや仕事との折り合いを付けないといけないことに気づくのが第一歩です。
メンタルヘルス研修の1つとして広く実施されていますが、これを中間管理職向けにも行うことができます。厚生労働省のサイト「こころの耳」で、e-ラーニングで簡単にできるセルフケア研修がありますので、チェックしてみてください。
e-ラーニングで学ぶ「15分でわかるセルフケア」
②中間管理職同士の「横のケア」
中間管理職は上司と部下の板挟みになり、孤独感を溜めてしまう傾向にあります。そこで、中間管理職同士の繋がりをより強化していきましょう。同じ立場にある人と悩みを共有したり、業務内で頼れる人がいることがメンタルヘルスには有効です。
日ごろからランチや休憩室などで中間管理職同士が相談しやすい環境を作ることもできます。そんな時間もない場合は、ストレスチェックの後に管理監督者への報告会などをする際に、管理職同士で日頃の悩みを相談し合う時間を設ける方法もあります。
中間管理職にも上司がいるので、その上司からのラインケアも重要です。上司は多忙で中々コミュケーションが取れない場合でも、一言「ねぎらい」の言葉があるだけで心は救われます。
③よく休みよく働く
いきいき働くためには、上手く休んで仕事から距離をおくことが大切だとする研究結果があります。*4
- 仕事から適度な距離を取る「心理的距離」
- 気持ちをリラックスをさせる「リラックス」
- 自己啓発のために時間を使う「熟達」
- 自分の休みの過ごし方を自分で決めて過ごす「コントロール」
これらを守って休暇を取ると、仕事のやる気が出てきて、自尊心や自己効力感が回復・向上します。仕事に戻ってからも、良質なパフォーマンスを発揮することができます。
責任感の強い中間管理職は、自分から休みを取れないことが多いです。周囲が声かけやサポートをして、半ば強制的に休暇を取らせたり、過密なスケジュールを避けさせることも必要です。
余裕をもたせるためには、管理者のスケジュールを見える化したり、他の管理者との連携体制を作るのが良いでしょう。「休日も仕事のことを考えてしまって休んだ気にならない」ということもよく起こります。有休の前に周囲に通知しておき、連絡をしないようにするなど、しっかりと休める環境を作ってください。
*4厚生労働省, 令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-
第Ⅱ部 人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について, 第4節