労働基準監督署の臨検とは?必要な書類や是正勧告されやすい3つの例を解説!

「臨検監督の連絡があったけど、準備不足がないか心配……」
「もし法律違反が見つかったらどうなるのか」
と悩むことはありませんか?
労働基準監督署の臨検監督は、法令順守している企業であっても突然実施されることもあります。そしてさまざまな規程を用意していても、是正勧告されてしまう可能性も。
是正勧告には法的強制力はありませんが、放置していると最悪の場合「書類送検」されてしまうこともあります。
そこで今回は、
- そもそも臨検では何が行われるのか
- 臨検が決まったら何を準備すればいいのか
- もしも臨検で指摘を受けたらどうすればいいのか
といった流れで、臨検監督に備えるための情報をまとめてご紹介します。
なお、臨検でどのような指摘をうけやすいかがイメージしやすいように、記事の後半に「臨検で指摘を受けやすい3つの例」もご紹介しています。
是正勧告されやすい例を知っていれば対策を練りやすくなるので、ぜひ最後までご一読ください。
そもそも労働基準監督署の調査(臨検監督)とは?特徴や種類を解説!
まずは、臨検監督の特徴について見ていきましょう。
- 労働基準監督署の調査(臨検監督)とは?
- 労働基準監督署の調査(臨検監督)の4つの種類
- 臨検監督で法律違反が見つかった場合どうなるのか?
1つずつ詳しく解説します。
労働基準監督署の調査(臨検監督)とは?
臨検監督とは、「労働基準法」や「労働安全衛生法」などを順守しているか確認する調査のこと。労働基準監督官が企業に訪れて、書類のチェックやヒアリングを行いながら法律上問題がないか確認します。
労働基準監督官は法律により、「強制的に会社に立ち入り調査する権限」が与えられています。そのため、企業は臨検監督を原則断ることができません。
また、「法令順守を徹底している企業」であったとしても、労働基準監督署の判断で臨検監督となるケースはあります。なぜなら臨検監督は、「法令順守しているか確認すること」が目的であり、事前に調査して対象企業を絞り込むわけではないからです。
そのためいつ臨検監督が来ても問題が無いよう、備えておくことが重要となります。
ただ、臨検監督といっても色々な種類があります。次に、具体的な臨検監督の種類の違いを見ていきましょう。
労働基準監督署の調査(臨検監督)の4つの種類
臨検監督には、次の4つの種類があります。

それぞれの特徴は、以下の通りです。
定期監督 | ・最も一般的な臨検監督 ・年度ごとの監督計画に、任意の調査対象として組み込まれる ・労働基準法や労働安全衛生法などに関して調査される |
---|---|
申告監督 | ・労働者から申告があった場合に、申告内容の真偽を確認する ・以下2つのケースがある 1.労働者からの申告を明かしたうえで、呼び出し状を発行する 2.労働者からの申告について触れずに、定期監督のように行われる ・申告内容だけでなく、定期監督と同じレベルで調査されることも多い |
災害時監督 | ・労働災害が発生してしまった場合に、原因究明や再発防止のため実施する 1.労働災害により被災者が死亡した場合 2.同時に複数人が被災してしまった場合 3.被災者が一人でも深刻な傷害を負った場合 |
再監督 | ・以下2つの理由により、再度行う調査のこと ・是正勧告の違反内容が、是正されたか確認する場合 ・是正勧告書の期日までに、是正報告書を提出しなかった場合 |
では、臨検監督で法律違反が見つかった場合はどうなるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
臨検監督で法律違反が見つかった場合どうなるのか?
臨検監督では、状況に応じて以下の3つのケースとなる可能性があります。
- 法令違反ではないが、改善が必要な場合【指導票を交付】
- 法律違反の場合【是正勧告書を交付】
- 労働者に危険があり、緊急を要する場合【使用停止等命令書を交付】
「指導票」や「是正勧告書」が交付される場合は、厳密に言うと行政指導なので法的強制力はありません。ただし、法的強制力がないからといって無視できないのが実情です。
なぜなら労働基準監督官は「司法警察官」として逮捕、送検できる権限を持っているため、無視し続けると書類送検となってしまう可能性があるからです。そのため「指導票」や「是正勧告書」が交付された場合でも、改善して是正報告書を提出するのが賢明でしょう。
一方で、「使用停止等命令書」が交付された場合は「行政処分」となります。行政処分は法的強制力があるため、従わない場合は「6ヶ月以下の懲役」または「50万円以下の罰金」となる可能性も。
「使用停止等命令書」が交付される条件は、労働基準法第103条で以下のように定められています。
逆に言えば、「使用停止等命令書」が交付されてしまった場合は
- 業務で使用している重機が使えなくなる
- 働き方の変更が余儀なくされる
といった業務に直結するケースがほとんどなので、事前に法令順守しているか確認しておくことをおすすめします。
このように書類送検や行政処分となってしまうリスクがあるため、可能な限り対策を練っておきたいところです。次に、臨検監督で求められる書類を見ていきましょう。
労働基準監督署の調査(臨検監督)に必要な書類とは?
臨検監督では、主に以下のような書類の提出を求められます。
労働基準法の順守の証明に必要な書類
- 企業の組織図
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 労働条件通知書
- 就業規則(労働時間制度等の別規程を含む)
- 各労働者のタイムカードなど労働時間が適格に確認できる書類(時間外労働・休日労働も含みます)
- 各労働者の時間外労働・休日労働に関する協定届(控)
- 変形労働時間制を採用している場合の関係書類(労使協定・勤務割表など)
- 変形労働時間制のシフト勤務表
- 年次有給休暇の取得状況に関する書類
労働安全衛生法の順守の証明に必要な書類
- 安全管理者、衛生管理者の選任に関する書類
- 安全委員会、衛生委員会などの議事録など
- 安全委員会、衛生委員会などでの調査審議状況が確認できる書類
- 産業医の選任状況と面接指導の制度や実施状況が確認できる書類
- 健康診断の個人票など実施結果
特に、労働安全衛生法の順守に関してはどうでしょうか。
たとえば健康診断だけで見ても、
- 年に1回の定期健康診断
- 産業医へ意見聴取(健康診断実施日から3ヶ月以内)
といった業務が法律で義務付けられており、実施期間が定められています。
とはいえ健康診断は、「受診の予約→健康診断後の補助金申請→実施後の事後措置」など業務負荷がかかるもの。そのため業務効率化をしないと対応しきれないケースも多いでしょう。
このようなときに重要となるのが、「情報の一元管理 + 活用できる仕組み」です。たとえば健康診断に関わる資料をペーパレス化できれば、診断結果の確認にかかる業務を効率化できます。
ペーパレス化については、以下で詳しく解説しているのでご一読ください。
ここまで、臨検監督の概要や必要な書類などについてご紹介しました。ただ、いざ実際に臨検監督が始まった時を考え、具体的な流れを知っておきたい人もいるのではないでしょうか。
次に、臨検監督の流れについて見ていきましょう。
労働基準監督署の調査(臨検監督)の流れをやさしく解説!
臨検監督の流れは、大きく分けて次の4つ。

1つずつ詳しく見ていきましょう。
【ステップ1】臨検の予告

臨検監督は、
- 予告なしで突然実施される場合
- 電話やFAXなどで調査予定日の連絡を受けてから実施される場合
の2つのケースがあります。
たとえば、申告監督(従業員の申告による臨検監督)の場合は、予告なしで労働基準監督官が訪れる可能性も。なぜなら長時間労働などの告発をきっかけにしているケースも多く、「データの不正が起こると、実態の確認が難しくなってしまう可能性」があるからです。
しかし突然訪問された場合であっても、「責任者や当事者が外出しており、ヒアリングができない」といった明確な理由がある場合は、調査日程の相談も可能です。
また電話やFAXなどで通知が来る場合も、調査予定日に長期間の猶予はありません。そのため通知された「調査予定日」に実施が難しい場合は、労働基準監督署と相談の上日時を決める流れとなります。
企業が労働基準監督署に出向くケースについて
労働基準監督官が企業に訪問して調査するのではなく、企業が労働基準監督署に書類を持参してチェックされるケースもあります。この場合は、「出頭要求書」と呼ばれる書類が事前に届きます。
【ステップ2】臨検の実施

臨検監督当日は、2名の労働基準監督官が調査に来ます。社外秘となる情報も調査の対象となるため、労働基準監督官は「身分」と「訪問の目的」を告げたうえで責任者との面会を要求します。
調査内容や質問の順番については、明確に決まっているわけではありません。臨検対象となる企業の事業内容や、労働基準監督官の方針によって変わります。
しかし、一般的に次のような流れで調査が行われることが多いです。
- 労働関係帳簿書類の確認
- 事業主または責任者へのヒアリング
- 書類や勤務実態の確認
- 労働安全衛生法に関する状況の確認 など
- 事業場内の立ち入り調査や労働者へのヒアリング
- 口頭による改善指導や指示
少なくとも先ほど挙げた必要書類に関する説明は、準備しておくことをおすすめします。長時間労働だけでなく、健康診断や安全衛生委員会の実施状況などについても整理しておくと良いでしょう。
【ステップ3】臨検結果の報告

調査が終わると、労働基準監督官から調査結果の報告があります。当日そのまま結果報告となる場合もあれば、後日、労働基準監督署から通知が来ることも。
通知内容は、先ほど解説した以下のケースによって異なります。
- 法令違反ではないが、改善が必要な場合【指導票を交付】
- 法律違反の場合【是正勧告書を交付】
- 労働者に危険があり、緊急を要する場合【使用停止等命令書を交付】
書類を交付された場合、「法律違反となった内容」に注目してしまいがちです。しかし法律違反の内容と同じくらい重要なのが、「期日」です。
必ず書類に記載されている期日を確認し、期日までに改善を行って是正報告しなければなりません。もしも期日までに実施が難しい場合は、「指導票」や「是正勧告書」であったとしても労働基準監督署に事前に相談しておくのが賢明です。
改善が終わり次第、是正報告を行う流れとなります。詳しく見ていきましょう。
【ステップ4】是正報告書の提出

労働基準監督署に指摘された内容を改善し、改善したことを証明する「是正報告書」を提出します。書類に記載のある項目ごとに、以下のような改善内容を報告するイメージです。
■指摘内容の例・指摘内容:
健康診断後の事後措置が大幅に遅れており、対策も決まっていない・違反法令:労働安全衛生法第66条の5
■是正報告の例・是正内容:
・実施期日、報告期日を考慮した規程を制定(◯月◯日制定)
・健診結果および面談記録を適切に保管するシステム(Carely)を導入(◯月◯日より運用開始)
上記のように、具体的に実施した改善内容を是正報告書にまとめて、労働基準監督署に提出します。
とはいえ、「実際のところどんな内容を指摘されるの?」と疑問に思っている人もいるのではないでしょうか。最後に、是正勧告されやすい3つの例をご紹介します。
労働基準監督署の調査(臨検監督)で是正勧告されやすい3つの例
当社が調べたところによると、是正勧告されやすい例は次の3つ。
- 労働安全衛生法を無視して健康診断を怠った場合
- 健康診断後の事後措置(就業判定や産業医面談など)を実施していない場合
- 法律で定められた労働時間を超えてしまった場合
事前に是正勧告となりやすい例を知っていれば、自社の準備が足りているか判断しやすくなります。1つずつ詳しく見ていきましょう。
【例1】労働安全衛生法を無視して健康診断を怠った場合
労働安全衛生法第44条により、健康診断は年に1回実施することが義務付けられています。
そのためもしも健康診断を怠ってしまった場合は、法律違反となってしまうことも。実際に以下のように、健康診断を怠った結果、書類送検されてしまったケースもあります。
大阪・岸和田労働基準監督署は、深夜業を含む業務に常時従事する労働者に対し6カ月以内ごとの健康診断を怠ったとして運送業の魚野運送㈱(大阪府岸和田市)と当時の健康診断の責任者だった同社取締役を、労働安全衛生法第66条(健康診断)違反の疑いで大阪地検に書類送検した。
運転者の健康診断怠った運送業者を送検 岸和田労基署 | 労働新聞社
このような結果とならないよう、法律を順守した健康診断の実施が必要です。
しかし、感染対策の影響(3密の回避)により、健康診断が実施できていない方もいるのではないでしょうか。対策について以下でまとめているので、ご一読ください。
また、健康診断は実施することだけが目的ではありません。健康診断の結果をもとに、適切な事後措置(健康診断後の措置)が必要です。
次に、健康診断後の事後措置の例を見てみましょう。
【例2】健康診断後の事後措置(就業判定や産業医面談など)を実施していない場合
健康診断を受診すると、次のような診断結果が戻ってきます。
- 異常なし
- 要観察
- 要医療
「要観察」「要医療」となった従業員については、具体的な措置が必要です。
こういった健康診断後に必要な業務を、事後措置と言います。事後措置で必要となる業務は、主に以下の5つ。
健康診断後に必要となる事後措置の例
- 健康診断結果の受領
- 診断区分を判定
- 健康診断結果を労働者へ通知
- 産業医へ意見聴取を実施
- 安全衛生委員会などで審議
事後措置はただ実施するだけでなく、臨検時に証明できなければ是正勧告されてしまうことも。健康診断後に必要となる事後措置についての詳細については、以下をご一読ください。
ここまで健康診断に関する2つの例を紹介してきましたが、「長時間労働」に関して是正勧告されることも。詳しく見ていきましょう。
【例3】法律で定められた労働時間を超えてしまった場合
従業員の労働時間に関する法律として、労働基準法第36条(通称:36協定)があります。36協定に関連して法律違反となってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
具体的に言うと、以下のようなケースで是正勧告される場合があります。
36協定に関連して法律違反となる4つの例
- 36協定締結前の上限(1日8時間・週40時間)を超過
- 36協定締結後、時間外労働の上限(月45時間・年360時間)を超過
- 特別条項付きで36協定締結後、特別条項で定めた時間を超過
- 「1ヶ月の最大延長時間は80時間」と特別条項で定めていた場合、80時間を超えると法律違反となる
- 特別条項付きで36協定締結後、特別条項の上限を超過
- 特別条項の上限の条件
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満
- 2~6カ月平均80時間以内まで
- 月45時間を超えて残業できるのは年6カ月まで
- 特別条項の上限の条件
長時間労働や過重労働は、電通の事件で社会的に大きなニュースにもなりました。ニュースで、過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)の名前を耳にした方も多いのではないでしょうか。
こういった過重労働による健康障害の防止などが、今後より一層強化されることが予想されます。
その結果、これまで以上に従業員の労務管理が複雑化し、法令順守に必要な人的コストが膨らんでしまう可能性も。この時重要なのが、効率化できる仕組みの導入です。
たとえば健康管理システム『Carely』では、長時間労働を防止する機能が豊富です。
Carelyの長時間労働を防止する機能の例
- 年、月平均(2〜6ヶ月平均)での時間外労働の時間を確認が可能
- 2段階の過重労働時間基準値を設けて、従業員の過重労働の管理を効率化
- 自社で利用する勤怠管理システムとの連携も可能
また、是正勧告されやすい「健康診断の業務効率化に繋がる機能」も豊富です。
健康診断の業務効率化に繋がる機能の例
・機能1:健康診断の結果から、有所見を確認できる
⇒全従業員のデータを1から確認しなくても就業判定が可能になり、業務効率化!
・機能2:産業医面談に必要なデータは、全て面談記録画面から確認できる
⇒産業医面談の準備のために、別途資料をまとめる必要がない!
労働基準法や労働安全衛生法の法令順守を徹底したい方は、以下からお問い合わせください。
まとめ:臨検監督は、日ごろから資料をまとめる仕組みづくりが重要
今回は、労働基準監督署の臨検監督の特徴、必要な書類、具体的な調査の流れなどについて解説しました。最後に、臨検監督の重要事項をまとめます。
- 臨検監督は、法令順守している企業でも対象となる可能性がある(定期監督)
- 臨検監督には、以下の書類が必要
- ■労働基準法の順守の証明に必要な書類
- 企業の組織図
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 労働条件通知書
- 就業規則(労働時間制度等の別規程を含む)
- 各労働者のタイムカードなど労働時間が適格に確認できる書類(時間外労働・休日労働も含みます)
- 各労働者の時間外労働・休日労働に関する協定届(控)
- 変形労働時間制を採用している場合の関係書類(労使協定・勤務割表など)
- 変形労働時間制のシフト勤務表
- 年次有給休暇の取得状況に関する書類
- ■労働安全衛生法の順守の証明に必要な書類
- 安全管理者、衛生管理者の選任に関する書類
- 安全委員会、衛生委員会などの議事録など
- 安全委員会、衛生委員会などでの調査審議状況が確認できる書類
- 産業医の選任状況と面接指導の制度や実施状況が確認できる書類
- 健康診断の個人票など実施結果
- ■労働基準法の順守の証明に必要な書類
- 以下のケースにより、是正勧告されてしまう可能性がある
- 労働安全衛生法を無視して健康診断を怠った場合
- 健康診断後の事後措置(就業判定や産業医面談など)を実施していない場合
- 法律で定められた労働時間を超えてしまった場合
- 法令順守のため対策しようにも、人的コストが課題となることも
臨検監督は、必要となる書類がとても多いです。それらの資料を準備するために、普段から情報を整理しておかねばなりません。
特に、
- 健康診断の結果
- 産業医の面談記録
- 衛生委員会の議事録
などは紙やエクセルでバラバラに保管されており、いざ臨検が行われたときに提出不十分となることも。こういった管理が重要となるデータは、システムを導入して解決可能です。
健康管理システム『Carely』なら、労務管理 + 健康管理が可能です。実際に、以下のように「健康労務に関わる業務工数を75%削減する効果予測」もあります。

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