産業医とスムーズな連絡・共有
2021年10月14日 更新 / 2020年7月6日 公開

人事が知るべき産業医の仕事内容とは?選任の義務と探し方もあわせて解説

人事の仕事の中でも厄介な領域である従業員の健康に関わる労務管理。中でも初めての業務で頭を悩ませやすいのが、産業医の選び方です。

産業医は事業場の従業員規模によっては設置の義務が異なります。さらにその会社がどんな事業をしていて、社員がどんな働き方をしているのかによって、産業医に求められるスキルや経験値は変わってきます。

初めて選任を行う人事担当者にとっては、「何に注意して産業医を探せばよいのか」「産業医はどのような仕事を行うのか」など、わからない点が多すぎる悩み事です。

今回の記事では、はじめて産業医を選ぶ、あるいは今の産業医からの変更を考えている人事担当者に向けて、法定業務だけでなく実務として必要な産業医の仕事内容・契約内容の詳細をご説明します。あわせて、産業医選任の義務や探し方についても見ていきましょう。

産業医とは労働者の健康管理をする人

産業医とは、労働者が安全に健康に働ける職場環境をつくるために、事業者(会社や経営者)に対して健康管理上のアドバイスを行う人です。医師免許を持っているだけではなく、産業保健に関する専門知識を有するために、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
  2. 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
  3. 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
  4. 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常勤勤務する者に限る。)の職にあり、又はあった者
  5. 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
労働安全衛生規則第14条第2項

産業医と主治医(臨床医)との違い

産業医と主治医(臨床医)は混同しやすいものですが、実際の業務はまったく異なります。

産業医と主治医は勤務場所が異なる

産業医の勤務場所は事業場内となりますが、主治医は病院やクリニックに勤務します。ただし、常勤で働く専属産業医は割合として少なく、嘱託産業医として働くケースが非常に多いです。ほとんどの事業場では、病院・クリニック勤務の医師が兼務の形で産業医の役割を担っています。

産業医は疾病の診断や治療は行わない

産業医は事業場の労働者に対して体調のヒアリングを行い、健康管理のための面接指導やアドバイスなどを行います。また、就労可否・休職復職の判定も産業医の行う業務です。

ただし、労働者と面談やアドバイスは行いますが、疾病の診断や治療については担当しません。決定的な診断や治療は主治医が行う形となります。産業医は、その事業場での業務が労働者にどのような影響を与えているのかを見極め、必要と判断した場合には医療機関を紹介するにとどまります。

産業医は事業主への勧告権を有する

産業医には事業主に対する勧告権を持っています。産業医は必要と判断すれば、業務内容の改善を事業主に勧告できます。一方で、主治医は事業場への勧告権を有しません。主治医は事業場の業務内容などを把握できないため、実情に即した勧告を行うのは困難であるといえるでしょう。

押さえておきたいのは、産業医はあくまでも中立的な立場であり、事業主側にも労働者側にも立たないということです。一方で、主治医の場合は患者本人の意思を尊重し、その上で検査や治療を行うという点で異なります。

産業医は事業場との契約、主治医は患者個人との契約

産業医と主治医とでは契約の相手が異なります。産業医は事業場との業務委託契約、もしくは雇用契約という形態で契約するのが一般的です。その上で、心身に不調が表れている人から健康で何の問題もない人まで、事業場のすべての労働者に対して活動を行います。

主治医の場合は患者個人との契約です。病気やケガにより医療機関を受診する患者個人に対して、治療の契約を行います。

2019年の働き方改革により、産業医の権限が強化された

2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行され、労働安全衛生法についても法改正が行われました。これにより、産業医の事業所における権限が一層強化されました。

改正前の「労働者の健康維持のために、必要に応じて事業主への勧告を行うことができる」権限に加えて改正後は、「産業医が労働者の健康管理を行うために必要な情報について、事業者は提供する義務がある」とされました。政府主導の働き方改革により、産業医の役割の重要性がより高まっています。

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産業医の仕事内容とは

産業医の仕事内容については、「労働安全衛生規則第14条第1項」に記されています。このままでは分かりづらいので、実際に人事から産業医に対して依頼する業務の内容に置き換えて詳細を確認していきましょう。

1.健康診断とその結果に基づく措置

常時50人以上の労働者が在籍する事業場は、労働者に対して健康診断を実施する義務があります。健康診断の種類は複数あり、検査項目がそれぞれ異なります。

労働安全衛生法により定められている一般健康診断の種類は以下の通りです。

  • 雇入時の健康診断
  • 定期健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断
  • 海外派遣労働者の健康診断
  • 休職従業員の検便

健康診断は受診させるだけでなく、その結果を産業医が「この人は業務に従事できる健康状態か」を確認をする就業判定を実施する必要があります。もし異常の所見が確認できた場合は、今の業務内容のまま職務を継続できるのか、一旦休職の措置を取り治療に専念すべきなのかを判断し、労働者にアドバイスを行います。

また、労働者の健康診断結果やヒアリングの結果、医療機関の受診を推奨することもあります。ただし、あくまでもアドバイスの範囲にとどまり、疾病の診断や治療は行いません。

健康診断を定期的に行うことで、病気の早期発見や生活習慣病の予防につながります。また、現在の働き方や生活スタイルを見直すキッカケともなるでしょう。労働者にとって働きやすい環境を作り出すために、産業医との連携が非常に重要です。

健康診断の種類については以下の記事で詳しく解説しています。

また健康診断の実施後に産業医がすべき業務の詳細はこちらで解説しています。

2.ストレスチェックの実施とその結果に基づく措置

メンタルヘルス不調の予防のため、2015年に「ストレスチェック制度」が施行されました。労働者数が50人以上の事業場は、ストレスチェックの実施が義務付けられています。産業医はストレスチェックの実施者となるほか、結果が出た後に、高ストレス者に対して面接指導や結果に基づく措置を行います。

面接指導は、高ストレス者と判断された労働者の申出により実施されるものです。ストレスチェックの結果と面接指導をふまえた上で、産業医が就業上の措置について事業者に意見を伝えます。そして、事業者は産業医の意見をもとに、労働時間の短縮や担当業務の変更、配置転換など、労働者のストレス緩和のために必要な措置を講じます。

ちなみに、ストレスチェックの実施者は必ずしも産業医でなければならないわけではありません。保健師や厚生労働大臣が定める研修を修了した者(看護師もしくは精神保健福祉士)でも、ストレスチェックを実施することは可能です。とはいえ、社内の状況を把握している産業医の方が相談しやすく、スムーズに面接指導を行えるでしょう。

高ストレス者への産業医面談にあたっての注意事項をこちらの記事にまとめています。

3.長時間労働者への面接指導

業種や職種によっては、長時間の勤務が続くこともあるでしょう。しかし、長時間労働を続けていると、脳心疾患・精神疾患を引き起こす原因となります。本人が「長時間労働でも耐えられる」と思っていても、それが長期にわたって続くとなると、心身への影響は計り知れません。

労働時間が「労働安全衛生規則第52条の2」で定める範囲を超える場合、 産業医は労働者に対して面接指導を行う必要があります。長時間労働は労災認定の要件に含まれることを理解し、産業医と連携しつつ労働者のフォローを行うことが大切です。

2019年の働き方改革関連法の改正による過重労働についての解説はこちらです。

4.職場巡視

産業医は少なくとも毎月1回以上(※条件付きで2ヶ月に1回以上も可能)を目安に、職場巡視を行う必要があります。職場巡視の目的としては、以下の2点が挙げられます。

  • 健康な労働者が体調を崩すことを防ぐ
  • すでに病気を抱えている労働者の体調悪化を防ぐ

産業医は労働者の体調と職場の状況をチェックし、何らかの改善が必要であるかを確認します。もし業務内容や衛生状態に問題があると判断される場合、事業主への勧告といった産業医側からの働きかけが必要となります。

※産業医の職場巡視と頻度についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

5.衛生委員会

衛生委員会とは、労働災害を未然に防ぎ、労働者の健康・安全を守るために設置されるものです。産業医は衛生委員会の正式なメンバーに数えられ、職場環境や労働者の働き方について審議する際に、医学的な観点から助言を行います。

労働災害に対する環境整備を怠れば、思わぬトラブルや重大な事故を引き起こすリスクが高まります。事業場の安全衛生体制を整えるためにも、医学的な知識を持つ産業医の存在は欠かせません。

産業医が衛生委員会で担う役割や、人事からの依頼内容についてはこちらで解説します。

6.治療と仕事の両立支援

事業場の中には、治療すべき疾病を抱えながら、仕事を続ける人も存在します。ひと昔の治療といえば、「仕事を休んで専念するもの」「入院治療が必要なもの」というイメージがあったかもしれません。しかし、近年では治療に専念する形ではなく、病気になっても治療をしながら働き続ける人が増えてきています。

ここで問題となるのが、治療と仕事の両立についてです。本当は働ける状態ではないのに、無理をして働き続けてしまい、結果的に病気がひどく悪化してしまうケースもあります。どれだけ一生懸命復帰が叶わない状況に陥っては意味がありません。本人や周囲の人が就業可否を判断するよりも、中立的な立場である産業医から意見をもらうのが最適です。

労働者が治療を行いつつ、継続して働ける環境を整える必要があります。治療と仕事の両立支援を産業医が適切に行うことで、在籍している労働者のモチベーションアップや生産性向上にもつながります。さらには、人材の流出を防ぐことも可能です。

7.情報管理

労働者の健康管理に尽力することも重要ですが、健康情報はセンシティブな情報ですので、その取扱いには十分に注意を払わなくてはなりません。産業医は労働者の健康診断の結果を見て、面接指導の必要性などを検討し、就業上の措置について意見します。その際に、人事担当者や上司に労働者の健康状態をどのように伝えるかが重要なポイントです。

産業医が人事担当者や上司に健康情報の開示を行う場合、労働者の同意を得る必要があります。そして、プライバシー保護に配慮した上で、労働者の健康状態を分かりやすく伝える必要があります。

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産業医は常時50人以上の労働者を雇う場合に必要

産業医を選任すべきかどうかは、事業所の規模により変わってきます。常時使用する労働者の数が50人以上となった場合、14日以内に産業医を選任し遅滞なく所轄労働基準監督署長に届けなくてはなりません(労働安全衛生法第13条労働安全衛生規則13条労働安全衛生法施行令第5条)。

「産業医に欠員が出た」「契約更新の時期が来たので、別の産業医を雇うことにした」という場合も、同じく14日以内に選任と労働基準監督署への届出を遅滞なく行う必要があります。

また、事業場の労働者の数によって、選任すべき産業医の数が異なることにも注意しましょう。事業場で働く労働者数が「50人未満」の場合、産業医の選任義務はありません。「50人以上3000人以下」の場合は産業医を1人選任する必要があります。3001人以上の大規模な事業場の場合、2人の産業医を設置しなくてはなりません。

なお、産業医の未選任には罰則が設けられていることに注意が必要です。事業場の規模が50人以上であるのに産業医を選任しなかった場合、「50万円以下の罰金」となります(労働安全衛生法第120条

産業医は委託でもいい?

産業医には、嘱託産業医(非常勤)と専属産業医(常勤)の2種類存在します。ただし、どちらを選んでもよいわけではなく、事業場の労働者数によって選任すべき産業医の種類が決まります。

嘱託産業医とは

常時使用する労働者が50人以上999人以下の場合、嘱託産業医を選任可能です。ただし「安全衛生規則第13条第1項第3号」で提示されている有害業務を行う労働者が常時500人以上いる場合、嘱託産業医ではなく専属産業医を選任しなくてはなりません。

専属産業医とは

常時使用する労働者が1000人以上となる場合、専属産業医を選任します。3001人以上の場合は2人の選任が必要です。

産業医を選任するためのステップ

実際に産業医をどこから探して、何を基準に選べばよいのかをステップごとに解説します。

ステップ1:事業場のニーズに合わせて、産業医を探す

産業医を探す前に確認しておきたいのは、「自社が産業医に何を求めるのか」という点です。

産業医の探し方としては、主に5つのルートがあります。

  • 紹介会社:産業医の登録が多い。WEB上でスムーズにやり取りできる。ミスマッチの場合にリプレイスしやすい。
  • 医師会:都心部よりも、地元密着型。健康診断を兼ねるケースも多い。
  • 健康保険組合、健診センター:健診業務とワンパッケージでの紹介が可能。産業医報酬は比較的低め。
  • 個人産業医事務所:産業医を専門とする先生が多いので、高いスキルに期待できる。産業医報酬は高め。スケジュールが組みづらいおそれも。
  • 知り合い:他社での産業医経験があるため、信頼度が高い。

産業医をどのルートで探すかによって、アプローチがしやすいか、スキルの高い医師が在籍しているか、産業医の報酬の傾向などが変わってきます。自社のニーズをしっかりと固めておけば、ミスマッチを最小限にとどめ、自社に適した産業医をスピーディーに探すことができるでしょう。

ステップ2:産業医と合意の上で契約を結ぶ

産業医と事業者の双方が条件に合意したら、契約を締結します。後々トラブルとならないよう、主な業務内容や従事する範囲については、なるべく細かな点まで決めておくことが大切です。契約方法は、紹介会社を経由した請負契約する形や、医師と直接契約する形など複数の方法があります。

産業医との契約内容については以下の記事で解説しています。

[産業医と契約をする際に必要な契約書類は何がある?産業医との契約の仕方を解説]

ステップ3:産業医選任の届出を行う

産業医の選任は所轄労働基準監督署に選任報告書をを提出することで完了します。下記のリンクから様式をダウンロードできます。

厚生労働省「安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」

必要な書類は、「産業医選任報告書」「医師免許の写し」「労働安全衛生規則第14条第2項に規定する者であることを証する書面(または写し)」の3点です。届出は14日以内に行う必要があることに注意してください。期限に遅れることのないよう、産業医の選任・契約更新の前にしっかりと必要書類を確認しておく必要があります。

具体的な選任届の書き方や、提出方法については以下の記事を参考にしてください。

[産業医選任届(報告書)を5分で書くために、必要な書類や提出期限について。]

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まとめ

働き方改革関連法の施行により、産業医の権限は以前より強化されています。産業医と主治医は間違えられやすいものですが、勤務場所や職務の範囲、事業主への勧告権、契約の相手などが異なることに注意が必要です。

事業者や人事担当者は、産業医の仕事内容や契約内容について正しい知識を得た上で、産業医と契約する必要があります。「労働安全衛生法」「労働安全衛生規則」について理解を深めることも重要です。今回の記事を参考に、自社のニーズに適した産業医を見つけてみてください。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。