休職・復職にムリなく対応
2022年12月19日 更新 / 2019年8月28日 公開

【産業医が教える】人事が復職を判断できる5つの基準

【産業医が教える】人事が復職を判断できる5つの基準

社員が休職した後に、無事復職へと進んだ際に、人事が必ず悩むことがあります。本当にこの社員は復職ができるのだろうかという疑問です。原則、主治医の意見と産業医の意見を聞くのですが、人事が知っておいたほう良い基準というものがありますので、こっそりお教えします。

人事は復職を拒否できない

休職を多く経験される人事担当者は、必ずと言ってよいほど復職に慎重になります。また休職を繰り返す社員に対しては、どうしても感情的になってしまい、復職判断が統一されないことになります。

そのような中で、人事は復職が可能である社員を休職のままにすることはできません。「従前の職務を通常の程度行える健康状態」なのであれば、復職させないといけません(大建工業事件 大阪地決平15.4.16労判849-35)。

従前の職務を通常の程度に行える状態というのを今回は5つのポイントでお話します。厚生労働省が作成した「復職支援の手引き」も是非参考にされてください。

人事が復職を判断する基準はこれだ

それではまず人事が復職出来そうだと判断する基準から。

社員の復職が可能と判断する5つの基準

人事が復職時にチェックする項目①:就業意欲力

復職時には最も重要なチェック項目です。本人が働きたくないと感じているのであれば、働くことはできません。人事から強制することに全く意味がありませんので、ここは感情的になってはいけません。粛々と就業規則通りに休職期間を待ちましょう。

「少しだけ働く意欲が湧いてきました」というコメントが本人から聞けてもまだGOはダメです。ここは妥協しない重要ポイントです。「やりたいんです、やらせて下さい」という10点満点を目指します。人事の復職面談時には、「調子はどうですか?今回は結構辛かったと思うんだけど、休んでから働きたいという気持ちどのくらい湧いてきました?」といった質問を投げましょう。

人事が復職時にチェックする項目②:リズム力

次に必ず確認するのが、生活のリズムです。生活のリズムチェックは復職後も3カ月から6カ月は続けてもらうものです。メンタル不調者には、この生活リズム力のない社員が多くいます。特に若い社員には多いです。したがって、復職するためには休職中に生活リズムを整えることを修行僧のように実施してもらう必要があります。そのためも「生活記録表」をつけてもらいましょう。最低2週間はつけると社員の波がよく理解できます。もしも本人がウソの申告をしたとしても全く問題ありません。食事や外出はやっているのか、図書館で読書ができるのか、移動ができるのか、生活レベルでの活動量もチェックしましょう。

人事が復職時にチェックする項目③:回復力

ここも不可欠です。優先順位をつけるのであれば、回復力までの3つを最低限確認したいところです。回復力とは、「睡眠」のことを言います。通勤に間に合う起床時間、疲れが取れる睡眠量を確保するために逆算した就寝時間、起床時の疲れの残り具合、2週間の疲れ度合いといったところも人事が把握することは重要です。まだ波があって寝られない日もあると申告したときは、休職を延長しましょう。そのような場合は、修正するのに最低2週間はかかりますので、また1カ月後に評価をします。

人事が復職時にチェックする項目④:通勤力

この3つまでクリアしたら、このあとの④と⑤をヒアリングしましょう。通勤が出来ないと話になりませんが、比較的復職させてから判明することも多い項目です。人事の「当然だろう」という思い込みからヒアリングをしていないことがあるからです。

うつ病やパニック障害、不安障害といった状況に陥ると、「人混みが苦手」、「人と話すのが億劫」といったことが 発生します。二日酔いだと私たちも苦手になりますよね、そんな状態になるのです。だからこそ復職のGOを出す前に、自宅から会社まで今までと同じ時間に来れるのかをチェックしておきます。

人事が復職時にチェックする項目⑤:適応力

そして最後は、適応力です。これは正直、休職をするだけではまず難しいために、人事が職場環境を配慮することで実現できる項目となります。休職をしていた社員には、必ず休職になった「原因」があります。多くは「適応障害=その社員がその職場環境に適応できなかった」ために発生しているわけです。ということは健康状態が良くなったとしても、その社員のマインドが変わるか、職場の環境が変わるかの二択しかないわけです。 そういう意味で、職場に適応できるのかをヒアリングしておくことは大切です。

またプライベートが問題になっている場合には、その問題が解決されているのか、いつまでに解決されるのかといったことも必要です。個人情報の観点から具体的な内容ではなくても大丈夫です。もし具体的な話が必要な場合、産業医と連携します。

人事が復職時にチェックする項目(その他):診断書と受入れ

そしてこの5つに加えて、会社側が準備しなければならないのが、「診断書と受入れ準備」です。その社員には、「主治医からの復職可能という診断書」をもらうように指示してください。また復職の受入れのために、元の部署の上長とも復職後のプラン(計画)について、話をしておきます。

人事の復職判断を確実にするものは、産業医の面談

これまでの5つは言ってみれば、産業医が確認する事項でもあります。したがって人事と重複することになりますが、繰り返し確認したい項目ですので、必ず5つともチェックしましょう。これら5つをさらに確実にするのが、産業医の面談になります。

もしこの5つが確認されている場合、産業医の面談で確認するのは、「業務遂行性」となります。集中力が維持できるのか、判断力は働いている時と変わらないのか、内服薬での副作用による影響はどうか、病気の後遺症による影響はどうかといったことになります。ここはさす がに人事がヒアリングできる範囲ではありませんので、産業医をフル活用しましょう。

さいごに、「主治医の復職可」診断書に惑わされない人事

そしてこれは「復職支援の手引き」にもしっかりと記載されていることですが、「主治医の復職可能」という診断に惑 わされてはいけません。主治医は、社員の業務の内容や職場の環境・人間関係など、詳しいことがわからないからです。あくまでも本人からの情報から「病気の安定具合」と「生活レベル」から復職が可能という可能性を示唆しているに過ぎません。

決して主治医が間違っているのではなく、それが限界なのだと理解してください。だから職場の環境をよく理解した産業医がいるのです。産業医はゲートキーパーの役割も果たします。産業医を活用することでより確実な復職ができます。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。