人間ドックは健康診断として代用可能。人事が知っておくべき注意点

会社では年に一度必ず実施する定期健康診断。労働安全衛生法第66条に基づき、労働者に対して医師による健康診断を実施する義務があります。また、労働者は事業者が行う健康診断を受けなければなりません。
従業員から「健康診断より人間ドックを受けたい、代わりになる?」という声があるかと思いますが、人間ドックも健康診断もその時の健康状態を確認し、体の異常を早期に発見して健康を保持するためのものだから、もちろん代用として受診可能です。
本題に入る前に、健康診断結果(人間ドック結果)を紙、もしくはPDFで保管をしていませんか。データが必要なときにすぐデータが出てくると手間が省けますよね。健診事後措置の工数も省ける健康管理システムについて以下セミナーにて解説していますので、ぜひご確認ください。
では代用するときの注意点を説明する前に、まずは人間ドックと定期健康診断はどこが違うのか?それについてみていきましょう。
自分の意思で受ける人間ドック
定期健康診断は法律で義務付けられているものに対して、人間ドックは自分の意志で受けるものです。下の図のように人間ドックと健康診断では検査をする項目の数に大きな違いがあり、より細かく検査をしたい場合には検査項目が多く用意されている人間ドックを、義務付けられた項目だけで良ければ健康診断を受診します。

検査項目
基本的な測定だけではなく、多くの臓器を対象に詳しく検査します。たくさんの項目が用意されているので、自分の目的や気になる部分を集中的に検査できます。生活習慣病に関わる項目を中心に調べる基礎ドック(基本ドックとも言います)と特定の疾患、特に生命にかかわるような重大な疾病に関するものを積極的に検査する専門ドックがあります。専門ドックで代表的なものには、各種のがんドックがあります。
結果の説明
検査の結果は後日、郵送されてくることが多いのですが、医師から当日の検査結果についての簡単な説明を受けることができる医療機関もあります。自分の健康に気持ちが向いているときに最新の結果に基づいている専門的で的確なアドバイスを受けることができるので、検査や指導を受けたことをその後の日常生活に活かしやすくなります。
保健指導
その日の検査の結果に基づく保健指導を専門のスタッフから受けることができます。自分の体に関する最新の情報を基にした指導なので、より正確にその時に必要な情報が得られます。
受診後
精密検査が必要な場合には、受診を進めるなどフォローがあります。
法律で義務付けられた定期健康診断
検査項目
人間ドックと健康診断で比較した場合、健康診断では胸部レントゲン以外には通常はガン検査がありません。生活習慣病をはじめとする検査や疾病そのものの予防を目的にした内容で構成されており、項目数・検査内容ともに簡易なものです。平成30年4月1日以降は、労働安全衛生法に基づく定期健康診断の検査項目は下記が指定されています。基本的に、必要最低限の検査と考えて良いと思います。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査及び喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
結果の説明
検査の結果は、後日郵送されてくることが多いです。結果を書いた用紙が送られてきますので、それを自分で確認します。人間ドックとは違い、通常は保健指導やその後のフォローなどがありません。
人間ドックは健康診断の代用になる
結論から言うと、定期健康診断で必要とされる項目を満たしていれば人間ドックを受けたら健康診断の代用は可能です。根拠になるのは、下記の労働安全衛生法第66条5項の規定です。
(健康診断)
労働安全衛生法第66条5項
第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。
4 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。
5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
人間ドックが健康診断の代用になる、ということは健康診断と同様人間ドックの結果を保管する必要があります。
人間ドックを健康診断の代用にする場合の注意2点
1.人間ドック検査結果の管理
人間ドックを健康診断に代用することは可能ですが、事業者には健康診断の結果の保存の義務があります。ですから、労働者本人に結果の提出に関して、事前に同意を得ておくことが必要です。ただし、人間ドックには健康診断には含まれない項目がたくさん入っていますので、法定の項目以外も一緒に提出されることもあります。情報の管理には十分注意してください。また、健康診断の結果以上のことを知った場合には、その部分に関しても健康配慮義務が生じます。
2. 前回の健康診断から1年を超えてはいけない
事業者に義務付けられている定期健康診断は「年」に1回であって、「年度」に1回ではありません。労働安全衛生規則第44条で規定されているのは1年以内に1回ですから、前回の健康診断から1年を超えないように注意してください。
人間ドックを健康診断の代用とする場合の会社負担
一般的には人間ドックは検査項目が多く専門性が高いこともあって、健康診断と比較すると費用が高額です。目安として基礎ドックで2万円から5万円くらいが多いようです。もちろん、専門ドックはそれ以上です。
健康診断は、法の規定に基づいて事業者に実施を義務づけているものなので、費用は事業者が全額負担するものです。これに対して、人間ドックの場合には法定の項目に関しては会社が負担、その他の項目に関しては個人負担になるケースが多いようです。ただし、会社や自治体、健康保険組合によっては独自に補助金を出しているケースもあります。
さいごに
人間ドックを健康診断の代用にすると、より詳細な検査を受けることができます。費用や時間の負担になることを考えると毎回ではなく節目に人間ドックを活用するのも良いでしょう。疾病の早期発見と予防で、健康な体を維持しましょう。