健康経営の実務
2022年12月27日 更新 / 2022年12月27日 公開

健康経営や働き方改革が注目される理由とは?施策例やメリットを解説

2019年4月より働き方改革関連法が順次施行され始めました。

そこで日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「働く人のニーズの多様化」を含め、長時間労働をはじめとする課題への対策は国をあげて実施されており、その背景から働き方改革を推進している企業も多いです。

働き方改革推進に取り組む企業が増えている背景には、これまで大企業が対象だった法律や制度が昨今では変わりつつあり、それらの対象範囲に中小企業も含まれ始めているためです。

法改正のあった内容の概要は以下の通りです。

労働基準法の一部を改正する法律の概要

労働基準法が改正されました|厚生労働省

法律が変わったことで対応する必要があることは認識しているものの、自社が具体的に何をすべきかイメージしづらい方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、

  • 働き方改革や健康経営の概念
  • 働き方改革の推進に関連する健康経営施策具体例4つ
  • 働き方改革にも影響する長時間労働が続くことで生じるリスク3つ

などの流れで、健康経営や働き方改革の推進につながる情報をまとめて解説します。

なお、健康経営を推進する際に実績として対外的にも活用でき且つ認定取得による恩恵もある健康経営優良法人の認定取得を目指すのがおすすめです。認定されることで、健康管理体制への予算獲得や人員の強化が進めやすく、健康経営の推進につながります。

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働き方改革と健康経営はセットで考えることが重要

従業員のQOL(Quality of life)向上に向けたさまざまな課題を解決するためには、「働き方改革」と「健康経営」をそれぞれ独立したものとして捉えるのではなくセットで考えることが重要です。

なぜなら両者の取り組みを同時に進めることで、相乗効果を期待できるからです。

第2-(2)-35図 働き方改革を目的とした取組と離職率等の関係について

第2-(2)-35図 働き方改革を目的とした取組と離職率等の関係について|厚生労働省

具体的に期待できる効果としては、以下の通りです。

  1. 離職や休職のリスクを軽減できる
  2. 従業員の健康に配慮している企業として認知される
  3. 優秀な人材の確保につながる

それでは、働き方改革と健康経営にまつわる以下3つの内容を解説します。

  1. 働き方改革とは
  2. 健康経営の概念とメリット
  3. 健康経営と働き方改革が注目される理由

それぞれ詳しく見ていきましょう。

働き方改革とは?

厚生労働省が出している「働き方改革〜 一億総活躍社会の実現に向けて 〜」のなかで、働き方改革の基本的な考え方について以下のとおり記載があります。

「働き方改革」は、働く方々が、個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。

働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~|厚生労働省

そもそも、「一億総活躍社会」とは一体なんなのでしょう。
2015年10月に安倍内閣より定義されたもので内容は以下の通りです。

一億総活躍社会とは

一億総活躍社会の実現|厚生労働省

上記二点の総称を「一億総活躍社会」として名づけ、2008年をピークに日本人口は減少傾向にあり更に少子高齢化が一層進む中で2015年に安倍内閣より宣言されたものです。

一億総活躍社会実現のために、政府は経済面・子育て・社会保障と三つの視点からのアプローチが必要であると捉えています。

政府はその中でもとくに働き方改革を「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」と位置付けており、大企業だけではなく中小企業や小規模事業者においても、魅力ある職場づくりが求められるようになりました。 

この働き方改革を実現するためには、「労働時間法制の見直し」や「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」に取り組むことが重要です。

健康経営の概念とそのメリットとは?

健康経営とは、従業員の健康管理を経営の視点から捉え、戦略的に取り組むことです。企業が健康経営を実践すると、以下のようなメリットが得られます。

【企業が健康経営を実践することで得られるメリットの例】

  • 従業員の健康増進
  • 従業員の活力向上
  • 経営課題解決に向けた基礎体力の向上
  • 優秀な人材の獲得
  • 人材の定着率の向上
  • 組織の活性化
  • 生産性の向上
  • 企業の成長ポテンシャルの向上
  • イノベーションの源泉の獲得・拡大

健康経営・健康投資に関して

健康経営の推進について|経済産業省

健康経営に取り組むことで、従業員の生活の質が向上するだけではなく「組織の活性化」や「生産性低下の防止」に効果的です。

結果として、「企業の持続的成長」が期待できます。

ただ、従業員の健康保持・増進への取り組みがすぐ企業の業績につながるとは限りません。

健康経営優良法人の認定取得という観点においても、申請数が増えていることに伴い難易度は年々上昇傾向にあり健康経営は「経営戦略・人材戦略」に基づいて実践することが重要です。

健康経営と働き方改革が注目される理由

健康経営と働き方改革が注目される理由として、「生産年齢人口の減少」や「働き方の多様化」などが挙げられます。

内閣府は、2065年に予想される生産年齢人口を約4,500万人と発表しました。2020年の生産年齢人口は約7,400万人ですので、ここから将来にむけて大幅な減少が予想されています。

人口減少と少子高齢化

人口減少と少子高齢化

人手不足が深刻化するなか、怪我や病気・メンタル不調によって貴重な人材が働けなくなることは、他社との競争力や自社の生産性という観点においても企業にとって大きなダメージとなります。

また、働き方の多様化が進み、従業員が「企業」や「労働」に抱く価値観も変化してきました。「仕事第一主義」の考えを改め、ワークライフバランスを重視する従業員が増えています。

ワークライフバランスは「生活と仕事の調和」と訳されていますが実情は、間違った解釈をされやすいフレーズでもあるのではないでしょうか。

内閣府が定めた仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章によると、仕事と生活が両立しにくいという状況に対する解決策として、ワーク・ライフ・バランスが実現した社会の姿とは3つの観点から以下の通り定義されています。

1)就労による経済的自立が可能な社会
2)健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
3)多様な働き方・生き方が選択できる社会 

そのようななか、健康経営や働き方改革は「労働環境の整備」や「労働生産性の向上」につながる取り組みとして注目されています。

健康経営と働き方改革は、どちらも職場環境や職場の制度を改善することで、従業員の健康や働きやすさを担保することが目的です。

そして働き方改革は法律による強制力が発揮されており、健康経営の推進は労働市場と資本市場どちらからも評価されるため、企業が取り組むべき理由の一つになっています。「法的観点からの健康経営」と「市場の評価からの働き方改革」はどちらもをセットで考え、ともに推進することで、

  • 重複する部分を省いた効率的な取り組みができる
  • どちらか片方だけでは十分でない問題も解決できる
  • 変更した制度がうまく機能する

などのメリットが得られます。

働き方改革を推進していく際に、急に実施すると無理が生じて従業員にしわ寄せがいき、継続的な職場改善にはつながらない可能性もあります。

従業員等の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に実践・推進していく「健康経営」への考え方が企業内で浸透していると、無理な制度改革を事前に防ぐことができ、相乗効果でより良い職場環境を実現させやすくなります。

働き方改革にも影響する長時間労働が続くことで起こりえるリスク4つ

長時間労働が続くことで起こりえるリスクは、以下の4つです。

【長時間労働が続くことで起こりえるリスク】

  1. 脳や心臓疾患による過労死・労災による企業ブランドの毀損
  2. 疲労の蓄積による精神障害・自殺の増加
  3. 休職・離職による採用コスト・人件費の増大
  4. プレゼンティーズムによる生産性の損失

1.脳や心臓疾患による過労死・労災による企業ブランドの毀損

長時間労働を続けていると疲労回復に必要な睡眠時間・休養時間が減少することにより疲労が蓄積し、重大な健康被害を招く恐れがあります。そこで厚生労働省は、2021年に脳・心臓疾患の労災認定基準を20年ぶりに見直し、企業にはこれまで以上に「労働時間」「働き方の事情に合わせた疲労度」の把握が求められるようになりました。

従業員の疲労度を把握するための手段としては、疲労蓄積度チェックリストもあります。

労働環境が是正されないまま過労死や労災が発生した場合、労働基準監督署から指導・罰則を受ける可能性があります。

たとえば、労働基準監督署の調査で「労働者に危険があり、緊急を要する」と判断され、『使用停止等命令書』が交付された場合、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金を課せられるリスクが潜んでいます。

2.疲労の蓄積による精神障害・自殺の増加

疲労の蓄積は脳や心臓疾患だけではなく、精神障害の発症や自殺につながるリスクもあるため注意しなければなりません。

長時間労働にある方の多くは、その時間に比例するように精神的負担が上昇している可能性

が高く、睡眠時間や家族との団欒など心の健康を保つための時間が不足傾向にあります。

そのような状況下にある時、精神障害を発症したり自殺へ発展する可能性が高まります。

3.休職・離職による採用コスト・人件費の増大

休職や離職が発生した場合、空いたポジションを補う必要が出てきます。

既存社員の残業時間増加が考えられる他、少子高齢化の影響もあり人材不足な時代においては、新しい人材を獲得するまでそれが続くことによりさらに人件費が増大するリスクもあります。

4.プレゼンティーズムによる生産性の損失

プレゼンティーズムとは、健康上の問題を抱えながら出勤して業務を遂行することです。健康上の問題が作用するとベストパフォーマンスを発揮しづらいため、生産性の損失をまねくリスクがあります。

生産性の損失は、ライバル企業との競争力低下にもつながってしまいます。

では、長時間労働への対策を含め、企業ができる対策にはどのようなものがあるのでしょうか。長時間労働対策にも通ずる要素がある健康経営を推進していくための具体策について見ていきましょう。

働き方改革の推進に関連する健康経営の施策例4つ

働き方改革の推進に関連する健康経営の施策例は、以下の4つです。

  1. 長時間労働への対策
  2. ストレスチェックを起点としたメンタルヘルス対策・対応
  3. 従業員の健康リスクを減らしつつ、高リスク者への対策・対応
  4. ワークライフバランスの促進

健康経営を推進していく過程では、担当者の負担を軽減するためにペーパーレス化や業務効率化は欠かせません。組織の健康状態を可視化し、現在値を正確に把握するためには紙やExcelを用いた煩雑な業務に携わる担当者への働き方改革の推進も必要です。

【例1】長時間労働への対策

従業員の長時間労働を減らすためには、長時間労働につながる根本の原因を解決することが重要です。いくら人材を増やしても、原因を解決しなければ長時間労働の常態化は改善しません。

たとえば、

  • デジタルシフトが進んでおらず煩雑な業務が多い
  • 無駄な会議や打ち合わせが多い
  • 管理職が部署やチームの業務量や進捗を正確に把握出来ず、長時間労働に気づけない

など、企業ごとに抱える課題はさまざまです。

また、新型コロナウイルス感染拡大以降はテレワーク・在宅勤務が増えたこともあり、隠れ残業が見つかりづらくなっている点にも注意が必要です。

下記の記事では、従業員が長時間労働してしまう原因を詳しく解説していますので、原因を解決したい方はぜひご一読ください。

【例2】ストレスチェックを起点としたメンタルヘルス対策・対応

2つ目は、ストレスチェックを起点としたメンタルヘルス対策です。従業員に対して定期的にストレスチェックを行うことで、メンタルヘルス不調の早期発見が期待できます。

2015年12月には、労働者が50人以上いる事業場において、毎年1回ストレスチェックを実施することが義務付けられました。

労働者が50人未満の事業場も、ストレスチェックの実施が努力義務となっています。

厚生労働省では「ストレスチェック制度導入マニュアル」を公表し、実施を呼び掛けています。なかでも仕事が偏りがちな中間管理職は、メンタル面での対策が特に重要です。

なぜなら、中間管理職は上司からも部下からもストレスを感じ「上司と部下の板挟み状態」で誰にも相談できず、一人でストレスを抱え込むケースも多くみられるからです。

このような中間管理職に対しては、

  • 周囲が気遣って半ば強制的に休暇を取らせる
  • 中間管理職同士が相談しやすい環境を用意する

などのメンタルヘルス対策が求められます。

中間管理職むけのメンタルヘルス対策については、以下の記事で紹介していますのでご参照ください。

【例3】従業員の健康リスクを減らしつつ、高リスク者への対策・対応

従業員の健康リスクを減らしつつ、高リスク者へ対策・対応するためには「心身の不調の早期発見を目的とした健康経営施策」が重要です。

企業ができる取り組みとしては、

  • 従業員の健康データを整理・把握
  • ストレスチェックの実施
  • 産業医面談の実施・従業員への推奨

などが挙げられます。

同時に通称「ラインケア」と呼ばれる、部下と管理職におけるケアも非常に重要です。

管理監督者が主体となってラインケアを実施することで、「従業員の様子がいつもと違う」と早めに気付きやすくなります。

具体的には、業務過多になりがちな部下に対して業務量の調整をおこなったり、部内の他の方にフォローを頼むなどを含みます。

【例4】ワークライフバランスの促進

ワークライフバランスの促進は、健康経営を進める上で重要な要素のひとつです。

ただ、ワークライフバランスを推進していく過程において、よくある誤解として、

  • 仕事とプライベートをしっかり分けること
  • 仕事は●割、プライベート●割

のような認識があるが故に、導入のハードルを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

しかし、仕事と生活が両立しにくいという状況を解消するためにうまれたのがワークライフバランスです。

具体的には、

  • 育児介護休業法に基づく、適切な休暇制度の整備
  • 制度説明会を開催するなど、男性が育休を取りやすくなる職場環境の構築

などが挙げられます。

働き方改革と健康経営を進めるときによくある3つの質問と回答

働き方改革と健康経営を進めるときによくある質問は、以下の3つです。

  1. 長時間労働への対策はどういった取り組みが最適?
  2. テレワークの従業員へはどんなケアをすべき?
  3. 働き方改革が上手くいったケースってありますか?

それでは、ひとつずつ回答します。

【質問1】長時間労働への対策はどういった取り組みが最適?

長時間労働への効果的な対策は、企業によって異なります。なぜなら、長時間労働が発生している原因は各企業さまざまだからです。

長時間労働の対策例としては、以下のようなものがあります。

【長時間労働の対策例】

  • 煩雑な業務におけるデジタル化の推進
  • タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録など客観的な記録を基礎として、チェック体制の構築
  • ムダな会議や打ち合わせの削減

以下の記事では、従業員が長時間労働してしまう10個の原因と対策を解説していますので、興味のある方はご参照ください。

【質問2】テレワーク・在宅勤務の従業員へはどんなケアをすべき?

テレワークの従業員へは、テレワーク特有のラインケアを実施する工夫が必要です。部長・課長など管理監督者に対して、労働者である従業員に対して事業主から指揮・命令を行うための権限が委譲されます。

管理監督者は、以下の役割を求められます。

  • 部下に指揮命令をし業務を遂行すること
  • 部下を評価すること
  • 部下の健康に配慮すること

ラインケアとは、上記項目のうち三つ目に該当する「部下の健康に配慮すること」を意味しています。

テレワーク特有のラインケアには、以下のようなものがあります。

【テレワーク特有のラインケアの例】

  • テレビ会議システムやチャットなどを活用して雑談する場を設ける
  • オンラインで同僚と体を動かす機会を作る
  • 管理監督者に対して、注意すべき部下の不調サインを周知する
  • 部下の異変に気付いたら、産業保健職と連携する

また、テレワークであっても健康診断やストレスチェックを実施することは重要です。
テレワークで起こる健康被害の予防については、以下の記事で詳しく解説していますのでご一読ください。

【質問3】働き方改革が上手くいったケースってありますか?

働き方改革が上手くいったケースは、たくさんあります。

たとえば、厚生労働省では働き方・休み方改善ポータルサイトのなかで「働き方改革取り組み事例」を紹介しています。

同サイトでは業種ごとに絞り込んで検索することもできますので、自社に近い業種での取り組み事例を検索してみてはいかがでしょうか。

また厚生労働省は、働き方改革に積極的に取り組んだ企業のなかから「ベストプラクティス企業」を選出しています。

下記記事では、「ベストプラクティス企業」に選出された3社の取り組みを紹介し、

  • 長時間労働に対してどのような対策を実施したのか
  • 全社的な取り組みを実施するためにどのような工夫がなされたのか

などについて言及していますので、関心のある方はぜひご一読ください。

まとめ:働き方改革と健康経営はセットで取り組もう

今回は、健康経営と働き方改革にまつわる内容を解説しました。ここで、本記事の内容をまとめます。

【長時間労働が続くことで起こりえる3つのリスク】

  1. 脳や心臓疾患による過労死・労災による企業ブランドの毀損
  2. 精神疾患を患ったことによる休職によって生じる競争力の低下
  3. 休職・離職による採用コスト費・人件費の増大

【働き方改革の推進に関連する健康経営の施策例4つ】

  1. 長時間労働への対策
  2. ストレスチェックを起点としたメンタルヘルス対策・対応
  3. 従業員の健康リスクを減らしつつ、高リスク者への対策・対応
  4. ワークライフバランスの促進

「生産年齢人口の減少」や「働き方の多様化」が進むなか、健康経営や働き方改革を推進する企業が増えてきました。健康経営に取り組むことで、従業員の健康増進だけではなく企業価値や業績の向上が期待できます。

今回お伝えした内容をもとに、働き方改革と健康経営をセットで取り組んでみてはいかがでしょうか。

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執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。