効果が実感できない健康経営。指標の立て方を優良法人事例から学ぶ

健康経営を本格的に始めようとすると、
- やっていることが合ってるのか不安
- 効果が出ているのかよく分からない
といった課題が出てくるもの。東京商工会議所が行った調査では、「健康経営を実践するにあたり、課題になる(なっている)と思う点は?」という質問に対して、「どのようなことをしたらよいか分からない(指標がない)」が1位となっていました(45.5%)。
東京京商工会議所 健康経営に関する実態調査 調査結果
そこで今回は、
- 健康経営の指標を設定する前にすべき3つのこと
- 健康経営の数値目標を設定した成功事例3選
- 健康経営の数値目標(KPI)を設定する方法
- 健康経営を成功させる2つのコツ
の流れで、指標を立てて健康経営を行う方法を解説します。前提から具体的な数値目標の設定方法までご紹介しているので、ぜひご一読ください。
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【前提】健康経営の指標を設定する前にすべき3つのこととは?
健康経営は「従業員の健康創りが企業の成長(経営)につながる体制づくり」のことです。つまり、担当者としては従業員も経営者に取り組みの意義を理解してもらい、継続的に活動に参加してもらう必要があります。
企業の中で体制づくりをするには指標(数値目標:KPI)を設定して管理していくことが重要です。具体的な指標についてご説明する前に、健康経営の取り組みについて3点ご紹介します。
- 健康経営の目的とやるべき理由
- 健康経営を推進する具体的な業務
- 健康経営の指標の参考となる、「健康経営優良法人認定」について知る
1つずつ詳しく見ていきましょう。
1.健康経営の目的とやるべき理由
健康経営に取り組み始めるきっかけは大きく2つにわかれます。
ひとつは経営者(社長)からトップダウンで指示されたケース。この場合、健康経営の目的は企業のブランディング向上です。今いる人材を大切にする取り組みを行い、社外からも見える形でアピールすることで、人材の流出を防ぎ採用力を強化することが健康経営に取り組みはじめる理由です。
もうひとつは人事(現場)主導で生産性向上の一環としてスタートするケース。働き方改革により生産性の向上が叫ばれる現在、人事が主体的に取り組める施策は限られています。
健康経営を取り組む企業が増えている理由は、病気での欠勤や体調不良を抱えながら出勤してしまうような生産性の損失を最小化できる手段であるためです。

2.健康経営を推進する具体的な業務
健康経営をはじめよう!とした企業の多くは、「社員食堂の整備」や「ウォーキングイベント」を企画しようとします。
しかし、感染症の流行により密になる活動は避けられるようになり、大企業を中心にテレワークへ移行している現状では、従来のような健康に良さそうな取り組みを会社が企画することは難しくなりました。
また、経済産業省が公表している「健康経営ガイドブック」を読み解いていみると、栄養や運動といった健康に直接働きかける取り組みよりも、企業が普段から実施している健康管理を重視していることが分かります。


3.健康経営の指標の参考となる、「健康経営優良法人認定」について知る
健康経営の取り組みや指標の決め方を考えるときは、経済産業省の「健康経営優良法人認定」を参考にするのがおすすめです。
■健康経営優良法人認定制度とは?
健康経営優良法人認定制度とは、健康経営に取り組む法人を「健康経営優良法人」として認定する顕彰制度です。認定を受けた法人は、健康経営優良法人として以下のメリットを享受できます。
- 働きやすさの向上による、労働生産性の向上
- 「健康経営格付」を融資に取り入れている金融機関から、融資を受けやすくなる
- 企業ブランドイメージの向上による、採用力の向上
- 両立支援・高齢者雇用・女性活躍など制度が整備され、人材不足が解消する
健康経営優良法人認定制度では、申請時に回答する項目が色々あります。項目に合わせて業務を見直すことで、健康経営を進めやすくなるでしょう。
また、全て網羅して申請できれば、健康経営優良法人認定制度の認定も目指せます。
健康経営の目的や具体的な業務が整理出来たところで、健康経営の数値目標の参考になる健康経営の成功企業事例を3社ご紹介します。
健康経営の数値目標を設定した成功事例3選
健康経営において、施策の評価に用いる健康KPIは、次の表のような観点で設定していきます。

自社の「あるべき姿」を実現するための注力分野を選択し、1つの分野対して1つ以上のKPIを設定します。それぞれのKPIについて単年度と中期の目標値を設定していきます。
実際の例を見てみましょう。
事例1.三井化学株式会社
(健康経営優良法人2021(大規模法人部門)ホワイト500認定)
三井化学株式会社は、5年連続で健康経営優良法人(大規模法人部門)ホワイト500に認定されている企業です。
三井化学が管理しているKPIは、
- 疾病強度率
- メンタル不調休業強度率
- 生活習慣病平均所見率
- 禁煙率
の4つ。
それぞれ次の表のように、「対象(集計)範囲」と「単年度目標」「中長期目標」を設定して管理しています。

これを見ると、健康経営の柱について「疾病強度率」という独自の数値を作り、その変化を目標としていることがわかります。
自社が特にモニタリングしたい指数を作る企業は多いです。自社の強みや弱み、どんな変化を捉えたいかという点から、指数を作っていくと良いでしょう。
事例2.三菱ケミカルホールディングス
(健康経営優良法人 2018ホワイト500認定)
自社の健康経営を「KAITEKI健康経営」と命名。
目標を「多様な人材がいきいきと活力高く働ける会社・職場づくりを通じて、高い生産性と豊かな創造性の基盤を築くことをめざします。」と設定し、系統的な健康経営を推進しています。
KPIは、
- いきいき活力指数
- 働き方指数
- 健康指数
の3つ。健康サーベイや健康診断の結果から指数を出し、経年変化を見ています。
三菱ケミカルホールディングス プレスリリース
三菱ケミカルホールディングスでは、ポジティブな働く姿勢を重要視した指標をKPIに置いています。「従業員が健康でいきいき働くことで、将来的な会社の競争力向上に繋がる」という経営方針がベースです。
KPIの目標値を掲げることで、健康経営のとりくみの結果を可視化することができます。経営者や従業員の意識が統一され、健康意識が高まったり、新しい取り組みを始められることもあります。
事例3.株式会社デンソー
(健康経営銘柄2020認定)
4年連続で銘柄を獲得し、グループ会社の多くも健康経営優良法人の認定を受けているデンソー。注力分野は「メンタルヘルス」「生活習慣病対策の推進」「感染症対策」などがあります。
デンソーの特徴は、KPIに健康経営指標「生活習慣スコア」を独自に設定している点です。
「独自の健康指標「生活習慣スコア」の全社平均値等を定期報告。個々人のスコアと全社平均値との比較などを専用アプリ等を活用し見える化することで、気づきと行動改善(運動、食事、喫煙など)のきっかけ提供」しているとのこと。
https://www.jisha.or.jp/health/jirei/pdf/jirei2019_1.pdf
生活習慣を点数化している例は珍しく、多くの企業は健康診断やストレスチェックから分かることをKPIに置いています。
生活習慣で何を使っているかは分かりませんが、企業の健康課題によって注目するべき生活習慣は変わってきます。
車での通勤が多い企業では歩数が重要ですし、食べるのが早い社員が多い場合は食事にかけた時間が大切になってきます。飲酒や睡眠、同僚との会話の量など、自社に合った生活習慣をスコア化してみましょう。
生活習慣から体調不良が分かり、病気の早期発見・対応に繋がります。
以上の3つが、数値目標の設定に成功した企業の事例でした。続いて、健康経営の数値目標(KPI)を設定する方法をご紹介します。
健康経営の数値目標(KPI)を設定する方法とは?4ステップで解説!
自社に合ったKPIを設定する手順は、次の4ステップ。
- 全てをひっくるめた企業の「あるべき姿」を決める
- 会社に課題に合った「注力分野」を決める
- プロセスKPIとアウトカムKPIを設定する
- 単年度目標と中期目標を設定する
1つずつ詳しく見ていきましょう。
■補足:数値目標を設定するときの参考表

※注力分野の項目はよくある例であり、実際は会社に合った注力分野を定めます。
【ステップ1】全てをひっくるめた企業の「あるべき姿」を決める
企業が健康経営に取り組む目的や、実現したい従業員の姿を文章化します。参考として、経産省の健康経営ガイドラインにある「健康経営のメリット」を見てみましょう。
従業員の健康保持・増進、生産性の向上、企業イメージの 向上等につながるものであり、ひいては組織の活性化、企業業績等の向上にも寄与するものと考えられる。
企業の「健康経営」ガイドブック
これを見ると、「いきいき働ける企業づくり⇒生産性向上・活性化⇒企業の業績向上」といった流れを意識した、あるべき姿を設定している企業が多いです。
また、健康経営銘柄選定企業レポートでは、健康経営銘柄の企業の目指す姿や注力分野が紹介されています。自社の企業理念や経営方針と照らし合わせながら、あるべき姿を明文化してみてください。
【ステップ2】会社に課題に合った「注力分野」を決める
健康診断やストレスチェックなどのデータから分かる企業の課題や、企業が課題だと感じている分野を選びます。メンタルヘルス不調者が出てしまったり、安全衛生上の事故が起きてしまったことがある場合は、それらを注力分野としてもいいでしょう。
簡単なのは、健康経営の認定基準②~⑯の中から注力分野を選ぶ方法です。自社の事業上大切な分野や、取り組みやすい分野から決めてもいいでしょう。

【ステップ3】プロセスKPIとアウトカムKPIを設定する
実際にKPIを設定するときは、
- プロセス評価のためのKPI
- アウトカム評価のためのKPI
の2つを設定することがポイントです。1つの注力分野に対して、プロセスKPIとアウトカムKPIの両方を設定します。
アウトカムKPIは、健康そのものを捉える数値です。例えば、
- 喫煙率やBMI
- 有所見者率
- ストレスチェック高ストレス者率
などがあります。会社が目指している健康状態を捉えられる指標を設定しましょう。
プロセスKPIは、アウトカムKPIを向上させるために、その前段階として評価できるポイントを設定します。例えば、
- 研修参加率
- 健康診断再受検率
- 保健指導実施回数
などです。プロセスKPI自体は、健康状態を捉えるものではありません。
KPIを2つに分ける理由は、健康状態はすぐに変化するものではないからです。アウトカムKPIが良くなることを本来は目指していますが、実際に良くなるには数年かかることも。単年度で健康経営の効果を見るために、効果の変化が出やすいプロセスKPIも設定するのです。
最近のトレンドでは、メンタルヘルスの指標に「プレゼンティーズム」や「アブセンティーズム」を使う企業が増えてきています。生産性やワーク・エンゲイジメントに関係するため、経営者にウケが良いからです。
休職者数や高ストレス者数に加えてみてもいいかもしれません。
■プレゼンティーズム、アブセンティーズムとは
プレゼンティーズムは、健康問題によって出勤していても生産性が下がっている状態を表します。アブセンティズームは、健康問題による欠勤を表します。
健康不調による企業の損失の約8割をプレゼンティーズムが占めるという研究結果もあり、プレゼンティーズムをどうやって削減していくかが、経営者の関心の的となっています。
【ステップ4】単年度目標と中期目標を設定する
KPIが決まったら、「単年度目標」と「中期目標」を設定します。ステップ3でも書きましたが、アウトカムKPIは単年度での変化が出にくいものです。無理な目標を設定せず、まずはプロセスKPIの向上を重視しましょう。
目標の目安には、同業他社の平均値や医学的な正常値を使うのが便利です。例えば、業種別の健康診断有所見者率が、以下資料で発表されています。
参考:定期健康診断有所見率(PDF)
また、産業保健スタッフなどに相談すると妥当な目標が設定できるでしょう。
目標の設定ができたら、
- 立案【Plan】
- 実施【Do】
- 効果検証【Check】
- 対策立案【Action】
のPDCAサイクルで、具体的な施策を回していきましょう。
効果検証は、事例で紹介した三井化学株式会社の表を参考にするのがおすすめです。

注力分野ごとに目標、実績、達成度をまとめると、分かりやすくなるでしょう。グラフで可視化して、社内に公表することが大切です。経年変化も見ていきましょう。
そして、目標が実際に達成できたか確認し、もっと施策を良くしていくにはどうしたらよいかを考えます。取り組み自体の選択が適切であったか、参加者の声などから次年度ではどう改善したらよいかなどを見ていきましょう。
健康経営への取り組みでどれだけの成果がでているかを見える化するために、経済産業のワーキンググープが新たなガイドラインを発表しました。その内容について解説した記事もあわせてご一読ください。
「健康投資管理会計ガイドライン」を会計士が人事総務向けに解説
健康経営を成功させる2つのコツとは?
健康経営を成功させるコツは、次の2つ。
- 中長期的な目標を設定して、PDCAを回していくことが重要
- 健康管理システムを導入し、状態管理をしやすい仕組みを作る
1つずつ詳しく見ていきましょう。
【コツ1】中長期的な目標を設定して、PDCAを回していくことが重要
健康経営失敗の典型例は、次の2つ。
- 場当たり的なつぎはぎ施策となってしまう
- 効果が感じられず、継続できなくなってしまう
どちらも経営者や従業員のモチベーションが下がってしまい、継続できなくなってしまうのがオチです。
モチベーションが落ちる原因で多いのが、
- 短期的なスパンで効果を期待している
- 効果検証する指標(KPI)を決めずに実施している
- 毎回同じ施策をやっている
といった健康経営です。
KPIを設定して中長期的な目標を設定して、PDCAを回していくことで、経営者や従業員のやる気を高めて健康経営を成功させることができます。
2つ目の事例でご紹介した三菱ケミカルホールディングスでは、以下のようにPDCAを回しています。
三菱ケミカルホールディング KAITEKI健康経営
健康への取り組みは、効果がすぐに出るものではありません。健康経営の成功には、
- 長期的な目線を持つこと
- 変化を捉えやすいKPIを設定してPDCAを回していくこと
の2点がとても重要です。
【コツ2】健康管理システムを導入し、状態管理をしやすい仕組みを作る
いかに管理しやすい数値目標を立てたとしても、数値の確認に時間がかかると継続が難しくなってしまいます。そこで重要となるのが、「健康状態の可視化」です。
たとえば健康管理システムCarelyでは、以下のように健康状態を確認しやすいダッシュボード画面があります。

健康経営優良法人認定制度の項目にある「健康診断の受診率」や「ストレスチェックの実施率」などを、すぐに確認できます。
他にも、紙での健康情報の管理をデータ化(ペーパレス化)できるため、欲しい情報を確認しやすくなるメリットも。Carelyの詳細については、以下からお問い合わせください。
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まとめ:健康経営は、数値目標の設定だけでなく「管理のしやすさ」も重要
今回は、健康経営の指標を設定する方法について、前提知識や事例を踏まえてご紹介しました。
健康経営は、いざ始めようと思っても悩むことが多いです。さらに、いち担当者だけで取り組もうと思っても、進めにくいのが実情です。
特に健康経営の重要性については、早いうちに上層部と認識を合わせておくのがおすすめです。
そこで、健康経営について社内で共有しやすいダウンロード資料をご用意しています。ダウンロードの上、健康経営を進めるための一手としてご活用ください。