長時間労働者に産業医面談を実施する基準や流れは?企業がすべきことも解説

「長時間労働者への産業医による面接指導は何時間からが対象?」
「長時間労働をする従業員に産業医面談をしたあと、何をすべきなの?」
と思うことはありませんか?
長時間労働の対策は国をあげて実施されており、そのうちの1つが「長時間労働者への産業医による面接指導制度」です。しかし、制度があることを知らなかったり、産業医面談後の取り組みが適切ではなかったりした場合は法律違反となることも。
そこで、長時間労働者への産業医による面接指導制度の概要と、面談を実施したあとに企業がすべきことを解説します。制度の内容を把握し、法律に沿った社内体制を整えたい方は、ご一読ください。
■従業員への健康管理が、人事の長時間労働の原因になっていませんか?
時間労働の把握ならば勤怠システムで実現できると思われるかもしれませんが、給与計算などの用途で扱う所定労働時間の計算と、健康管理のための法定労働時間の計算式は異なります。勤怠とは別にエクセルで再集計を行ったり、過重労働者へ産業医面談の予約、従業員の健康データを準備するといったアナログ業務は、人事担当者が長時間労働になる原因ともいえます。
長時間労働はもちろん、健康診断・ストレスチェックなどの健康データを一元管理することで従業員・組織全体の健康を正しく把握することができます。詳しくは以下よりお問い合わせください。
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長時間労働者への産業医による面接指導制度とは?
長時間労働の基準は知っているものの「実際に基準を超える従業員がいた場合に、どう対応すればよいかわからない」といったことも。そこで覚えておきたいのが「長時間労働者への産業医による面接指導制度」です。
ここでは、制度を詳しく知らない方に向けて、以下3つのポイントを解説します。
- 長時間労働者への産業医による面接指導制度の概要
- 産業医面談が必要になる長時間労働者の基準
- 長時間労働者へ産業医面談を実施する流れ
それぞれ見ていきましょう。
長時間労働者への産業医による面接指導制度の概要
企業は、長時間の時間外・休日労働をする従業員に対し、医師による面接指導(産業医面談)を実施するよう労働安全衛生法(第66条 8項)で義務づけられています。長時間労働が続くと、従業員が脳・心疾患を発症して働けなくなるリスクがあったり、取締りを厳しくしている労基署からの指導対象になったりすることも。
そのため、リスクの高い従業員の健康状態を把握し、適切な指導を講じなくてはなりません。
脳・心疾患などの重い病気を予防する観点から、産業医との連携を強化し、面談を行うことが重要です。では、産業医面談が必要になる長時間労働者の基準を見てみましょう。
産業医面談が必要になる長時間労働者の基準
産業医面談が必要になる長時間労働者の基準は、働き方によって3つの区分に分けられています。
- 労働者
- 研究開発業務従事者
- 高度プロフェッショナル制度適用者
従業員がどれに当てはまるのかによって基準は異なります。詳細は以下の表をご覧ください。
区分 | 義務 | 努力義務 |
---|---|---|
労働者 ※裁量労働制、管理監督者含む | ・月80時間超の時間外・休日労働。疲労蓄積があり、面談を申し出た者 | ・企業が自主的に定めた基準に該当する者 |
研究開発業務従事者 | ・月100時間超の時間外・休日労働 ・月80時間超の時間外・休日労働。疲労蓄積があり、面談を申し出た者 | ・企業が自主的に定めた基準に該当する者 |
高度プロフェッショナル制度適用者 | ・1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた時間について月100時間超行った者 | ・左記の対象者以外で面談を申し出た者 |
面接指導の対象は「過労死ライン」と言われる、
- 脳・心疾患発症前1ヶ月間におおむね100時間
- または2~6ヶ月間に渡って1ヶ月あたりおおむね80時間の時間外労働
が基準として採用されています。
しかし、過労死ラインを超えていないからといって、従業員への面接指導を怠ってはいけません。労働時間が基準に満たしていない場合でも、従業員の業務負荷や健康診断の結果などにより、産業医の判断が必要になることがあるからです。
適切に健康状態を把握するために、45~60時間の時間外労働をする従業員を対象に、産業医面談を実施する企業も多くあります。法律で定められている時間だけではなく、企業独自で基準を定め、産業医面談をする体制を強化していくことが重要です。
続いて、産業医面談を実施する流れについても見ていきましょう。
長時間労働者へ産業医面談を実施する流れ
長時間労働者への 医師による面接指導制度について – 厚生労働省(PDF)
長時間労働者へ産業医面談を実施する流れの中で、企業が担当する部分をピックアップしました。
- 疲労蓄積度チェックリストの実施を従業員に依頼する
- 生活状況の把握のためのチェックリストの実施を従業員に依頼する
- 労働時間や労働環境、チェックリストの結果などの情報を産業医に提供する
- 基準となる労働時間を超えていることを従業員に通知する(労働安全衛生規則第五十二条の二)
- 申し出のあった従業員に対し、産業医面談を通知、実施する
産業医面談を実施するまでに、従業員の健康状態が分かる資料の準備が必要です。特に労働時間や労働環境だけではわかりにくい、疲労蓄積度チェックリストや生活状況の把握のためのチェックリストの実施も必要となります。
疲労蓄積度チェックリストを活用した過重労働の対策は、小規模事業者~大企業によって対応の流れがやや異なります。具体的な対応手順については、以下をご一読ください!
長時間労働者の産業医面談後に企業が対応すべき4つのこと
長時間労働者に産業医面談を実施したあと、企業が対応すべきことは以下の4つです。
- 長時間労働者と産業医との面談内容を記録する
- 産業医の意見を元に、適切な事後措置を行う
- 衛生委員会で従業員の健康被害を防止する策を調査・審議する
- 事業者全体として長時間労働の対策をする
1つずつ、解説していきます。
1.長時間労働者と産業医との面談内容を記録する
面談の内容を産業医から聞き、記録・保管するのは企業の義務です。
面談後、おおむね1ヶ月以内を目安に、従業員が抱える疲労の蓄積度合いや勤務場所・時間の変更有無などを産業医からヒアリングします。ヒアリングした内容は、労働安全衛生法66条8項の3、および労働安全衛生規則52条6項により5年間の保存が義務です。
しかし、紙やWord、Excelなどの方法を使って、ただ保存しておけば良いわけではありません。実務で使うことを考慮して、探しやすさも考慮して保存することが大切です。
たとえば、産業医から「過去に面談をした有無を確認したい」「すでに書いてある内容を事前に把握したい」と記録の閲覧を依頼されたときに、該当従業員のものがすぐに見つからないと探す作業に時間がかかってしまいます。
さらに産業医面談の際に、健康診断やストレスチェックの結果、労働時間の記録などの情報も提供しなくてはならず、それぞれを別の場所から探し出すのは手間がかかります。
健康管理システム「Carely」は、以下で従業員・組織の健康を創り、人事担当と伴走します。
- 産業医面談記録や従業員の健康管理に必要な情報を一元管理
- 長時間労働者だけでなく、ストレスチェックによる高ストレス者や健康診断による有所見者から、ハイリスク者を自動抽出し、リスクが高い順に面談候補者としてピックアップ
- 面談実施後の産業医へのヒアリングに負担がかかっている
⇒産業医と人事担当者で面談記録を共有できる。伝達や記録ミスなどの抜け漏れが起こりにくい - 産業医面談に必要となる情報がバラバラに保管されていて、探し出すのに時間がかかる
⇒健康診断・ストレスチェックの結果、残業時間などの情報をシステム上で一元管理。従業員ごとに情報をまとめて保存できる
Carelyなら、産業医面談の記録作成や共有、必要な情報の保管などがシステム上でまとめてできるようになります。
\産業医面談の記録・保管を効率化/
2.産業医の意見を元に、適切な事後措置を行う
産業医面談の内容をヒアリングした結果を元に、長時間労働の対策を実施します。
▼長時間労働の対策例
- 就業場所の変更
- 労働時間の短縮
- 所属部署の転換
- 業務内容の見直し など
人事担当者が勝手に判断するのではなく、産業医の意見を聞いた上で適切な対策が必要です。
また、メンタルヘルスの不調が見られる場合は、精神科医などと連携した対応が求められます。たとえば、うつによる過労自殺を防ぐための継続的なケアや、気軽に相談できる窓口の設置などの取り組みが有効です。
3.衛生委員会で従業員の健康被害を防止する策を調査・審議する
長時間労働者に産業医面談をしたあと個別の事後措置を実施しても、企業全体として根本的な問題解決には至らないのではないでしょうか。そのまま問題を放置しておくと、長時間労働が原因で他の従業員にも心身の不調が起こる可能性も。
そこで、職場での健康被害の拡大を防止するために、衛生委員会などで内容を調査・審議が必要です。衛生委員会での審議事項は以下をご覧ください。
時間労働者への 医師による面接指導制度について – 厚生労働省(PDF)
衛生委員会で決まった対策は、企業内で実施していきましょう。なお、衛生委員会は月1回以上の開催が労働安全衛生法により定められています。
4.事業者全体として長時間労働の対策をする
長時間労働を削減していくために、企業全体で対策していくことが重要です。企業がすべき、長時間労働の対策として以下の7つを挙げてみました。
- 勤怠管理システムを入れて、労働時間を正確に把握する
- 所定労働時間と総労働時間の両方を計算し、長時間労働を把握する
- 就業制限がかかっている従業員を事前に把握する
- 長時間労働の状況を衛生委員会で報告・共有する
- 毎月の労働時間を、産業医が常に確認できるようにする
- 長時間労働が理由の産業医面談のルールを規定する
- 長時間労働者に疲労蓄積度チェックリストを実施する
長時間労働に関する対策は多岐に渡ります。労働時間を正確に把握するところから始まり、就業制限が必要な従業員のチェックや産業医面談のルール策定なども大切です。
具体的な内容については以下の記事にて解説しています。企業全体として長時間労働の対策を強化していきたい方は、ご一読ください。
ここまで、長時間労働者の産業医面談後に企業がやるべきことを4つ解説しました。産業医面談をして終わりではなく、それを踏まえた記録・保管作成や事後措置の実施などが重要です。
さらに、企業には産業医とのスムーズな連携が求められます。しかし、企業に産業医が常駐しているわけではないため、面談内容のヒアリングを依頼できる時間が限られることも。
従業員300人規模の企業の場合、健康リスクの高まる長時間労働(時間外労働45時間超)の従業員は10名ほど発生します。しかし、産業医の稼働時間は月2時間程度。そのため、すべての対象者に産業医面談を実施できないケースもあるのが実情です。
そこで、産業医の稼働時間内で対応しきれない場合は、外部のサポートを利用する方法を検討してみてはいかがでしょうか。
「面談が必要な従業員がいるけれど、すぐ産業医に依頼できない」といったときは、外部の健康相談窓口の利用がおすすめ。健康管理システム「Carely」には、リモート保健師に相談できる機能が搭載されています。

Carelyのリモート保健師は、保健師や臨床心理士などの専門家で構成。リモート保健師は、長時間労働、ストレスチェック・健康診断のデータを総合的に見て、ハイリスク者を抽出、能動的にアプローチ・サポートすることが特徴です。また人事担当者の健康管理サポートにも対応しています。
経験豊富な保健師が、どう対応すべきか頭を悩ませている人事担当者へ適切なアドバイスをしています。詳しくは以下をご確認ください。
ここまで読んで「健康管理に関する業務が初めてで、長時間労働による産業医面談のことはよくわからない」といった悩みを持つ方もいるのではないでしょうか。以下で、よくある質問と回答をまとめたので参考にしてみてください。
長時間労働による産業医面談に関してよくある3つの質問と回答
ここでは、長時間労働による産業医面談に関する、よくある質問を3つ挙げてみました。
- 従業員が長時間労働による産業医面談を拒否した場合は?
- 産業医面談の記録内容の保管期間はどれくらい?
- そもそも長時間労働によって起きる問題とは?
それぞれの質問に対する回答を見ていきましょう。
【質問1】従業員が長時間労働による産業医面談を拒否した場合は?
残業時間が長時間労働の基準に到達していて、産業医面談の対象になっているにもかかわらず、従業員自身が面談拒否をすることも。
その場合は、企業側から産業医面談を強制することはできません。従業員本人から面談希望の申し出があった上で、実施するようにしましょう。
ただしすでに長時間労働をしている状態ですので、健康障害のリスクが高まっている可能性もあります。面談を拒否されたからと言って、そのままにするのではなく、法律によって義務付けられていることを伝えた上で受けたくない理由を聞いたり、産業医面談で得られるメリットを伝えたりすることも大切です。
【質問2】産業医面談の記録内容の保管期間はどれくらい?
産業医面談の記録内容を保管するのは、5年間と定められています。これは労働安全衛生規則52条6項により義務づけられている期間です。企業は産業医面談や指導などの記録をしっかり作成し、保管していかなくてはなりません。
また、記録の内容は従業員のセンシティブな情報です。簡単に担当者以外が閲覧することのないように厳重な保管体制を整えましょう。
【質問3】そもそも長時間労働によって起きる問題とは?
従業員が長時間労働を続けると、企業にとってどのような影響があるのでしょうか。長時間労働が常態化すると、従業員の健康障害リスクが高くなるだけではなく、次のような悪影響も懸念されます。
- 労働基準法違反による指導・罰則を受ける可能性がある
- 長時間労働による疲労で従業員の集中力が落ち、生産性が低下する
- 長時間労働に不満を感じた従業員が離職しやすく、採用コストが増加する
- 長時間労働によりメンタル不調に陥る従業員が休職や離職になるリスクがある
- 長時間労働により従業員が過労死し、企業価値やイメージダウンにつながる
たとえば労働基準法違反による罰則があったり、万が一、従業員が過労死したりすると、社会的な信用を失い、そのあとの信頼回復に莫大な時間がかかる恐れも。社内だけではなく、取引先や顧客などにも影響する可能性があるため、長時間労働への対策を継続して実施していくことが重要です。
お伝えした問題の具体的な内容については、以下の記事にて解説しています。企業に起こり得る問題を事前に把握し、社内の対策に盛り込みたい方は、ご一読ください。
まとめ:産業医面談を実施して長時間労働者に適切な事後措置を
長時間労働者への産業医による面接指導制度の概要、および産業医面談の実施後に企業が対応すべきことを解説しました。全体のまとめは以下の通りです。
- 長時間労働が続くと脳・心疾患を発症させるリスクが高まるため、医師による面接指導を実施するよう労働安全衛生法で義務づけられている
- 申し出のあった長時間労働者と産業医面談を実施した後、企業は内容を記録、保管をしなくてはならない
- 産業医の意見を元に、就業場所の変更や労働時間の短縮など、適切な事後措置を行う
- 長時間労働に関する調査・審議を衛生委員会で行うことや、企業全体で対策を実施することも重要
企業は申し出のあった長時間労働者に産業医面談を実施し、作成した記録は5年間保管する義務があります。さらに、産業医の意見をもとに適切な事後措置が求められます。
とは言うものの、法律に則ってするべきことはわかっていても、実際の業務となると担当者に大きな負荷がかかることも。そこで、長時間労働者への産業医面談の実施に必要な作業を効率化するには、健康管理システム「Carely」がおすすめです。
Carelyなら、以下のことが1つのシステム内ですべて完結します。
- 長時間労働の基準を超える従業員の把握
- 産業医面談の設定
- 産業医面談後の記録の作成、強固なセキュリティで保管
- 産業医面談に必要な健康診断やストレスチェックの結果などを、従業員ごとにまとめて管理
- 産業医で対応しきれないときの外部サポート(リモート保健師)機能も
Carelyがあれば、煩雑になりがちな産業医面談にかかる作業をまとめて行えるため、業務の効率化が期待できます。「長時間労働者のチェックにかかる手間を削減したい」「産業医面談前後で負担となる業務を効率化したい」とお考えの方は、以下からお問い合わせください。
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