健康診断の効率化
2022年12月26日 更新 / 2019年7月31日 公開

なぜ、定期健康診断業務は人事労務を苦しめるのか?効率化するポイントを紹介します。

なぜ、定期健康診断は人事を苦しめるのか?

企業は労働安全衛生法の規定により1年以内ごとに1回、定期健康診断を実施しなければなりません。

従業員の視点から見ると「クリニックに行って健診を受けるだけ」なので理解されにくいこともありますが、人事労務担当にとっては非常に煩雑で難しい業務です。定期健康診断の手配業務が圧倒的に非効率で時間がかかると言われている理由に迫ります。

人事労務の健康診断業務はこんなに大変!

健康診断の準備から、実施後の措置までの業務をまとめると、以下の図のようになります。青い矢印が人事労務の仕事です。

健保組合、従業員、クリニックとの間で、複雑な調整が必要になります。
そして、クリニックによって、費用や受診できる健診項目、予約方法、健診結果の書き出し方などがクリニックによって全く異なることが調整を難しくしています。

健康診断業務に登場する主体

健康診断の登場する人や機関は主に以下の6者です。

  • 経営者
  • 健保組合
  • 従業員
  • クリニック
  • 産業医
  • 所轄の労働基準監督署

その中でも特に問題が起きているのが「健保組合」「従業員」「クリニック」とのやり取りです。今回はこの3者とのやり取りで、具体的に起きる問題とその対応策をみていきます。

健康保険組合とのやり取りで起きる問題

【1】健診のコースが複雑でよくわからない

健診のコースは、健保組合によって異なります。

協会けんぽの場合、年度末の年齢が35歳以上の従業員に補助が出て、「一般健診」というコースを受診可能です。34歳未満の方は、補助が出ないため法定健診(法律で実施が義務付けられている最低限の受診項目)を受けることになります。また、20歳〜38歳の女性で偶数年齢の方には子宮頸がん検診の補助も出ます。

東京実業健保では、A1、B、B1、C1、D1、E1というコースに分かれています。

関東ITソフトウェア健保では、基本健診、健保指定ドック、1日人間ドック、2日人間ドックというコースに分かれています。

それぞれ、対象者の年齢・性別などの条件が異なるため、人事労務が健保に問い合わせて確認する必要があります。

参考

【2】補助申請に手間がかかる

補助申請の方法も、健保組合によって異なります。

例えば、協会けんぽの東京支部では、申請用紙に余白が10cm以上ないと受理されないなど、健保ごとに細かなルールもあります。東京実業健保の場合は、一部の人間ドックコースの場合に1人1人の申請書を作成する必要があります。対象者が多いと、申請書を作るだけで莫大な時間がかかります。

関東ITソフトウェア健保のように、特に補助申請の作業は必要ない健保もあります。1年に1回までであれば、事前にクリニックを予約する際に関東ITソフトウェア健保の保険記号を伝えることで補助が出た価格での受診が可能です。

協会けんぽの場合は、上記のフォーマットに、補助対象者の名前、健診コース、クリニック、日時、保険証番号などを記入したリストを対象の支部に郵送します。

健保への事前ヒアリングの徹底が成功の鍵

このように、健保によって細かいルールが全く異なります。

必ず健康診断を開始する前に、健康保険組合に問い合わせて、コース内容や補助申請の方法について確認しましょう。特に、補助申請の方法や期限については確実に把握して、期限内に提出できるようにします。

従業員とのやり取りで起きる問題

【1】コース・日程の希望を回収できない

第一に、従業員がコースや日程の希望アンケートなどに回答してくれないという問題があります。

1つの事業場しかない場合は、直接本人に声をかけることができますが、複数支社があるとそうもいきません。拠点数が多いと、最初に従業員の希望を集めるだけでも一苦労することになります。

【2】情報の整理がうまくできない

数十名程度であれば、手作業で管理することもできますが、数百名、数千名規模になると手作業では管理できません。Excelの関数やフィルター機能を使い、情報の整理を正確にしていきます。

健診を予約するには、以下の情報を整理しておく必要があります。

  • 名前
  • ふりがな
  • 生年月日
  • 保険証番号
  • 受診希望クリニック
  • 希望のコース
  • 希望のオプション(胃カメラ、婦人科、その他の検査)
  • 希望の受診日時
  • 住所(事前送付物や健診結果を自宅等に郵送する場合)

【3】日程変更・無断キャンセル

従業員からコースや日程の希望を回収できても、日程変更を申し出る人がどうしても出てきてしまいます。

クリニックで予約を確定した後に、日程やコースの変更を希望すると伝えられた場合、クリニックに連絡してキャンセル・再予約する必要があります。数十名、数百名単位でこのような個別対応をするのは非常に大変です。

また、受診日が確定していたにも関わらず、当日受診しない従業員がいる可能性もあります。
定期的にクリニックや本人に受診したかどうかを確認。未受診の場合、日程を再調整してクリニックに予約を依頼します。

社内周知の徹底とツール活用が効率化の鍵

健康診断の受診は、労働者の義務でもあります。

円滑に健康診断業務を進められるように、社内周知を徹底して、所属長などからも会社の方針や注意点を伝えてもらうようにしましょう。特に、日程変更や無断キャンセルをしないように注意喚起をします。Excelやスプレッドシートの機能をフル活用して、情報管理を徹底することが効率化の鍵になります。1人1人の従業員の情報を慎重に管理していきましょう。

クリニックとのやり取りで起きる問題

【1】クリニックによって何もかも異なる

同じ健保の対象クリニックでも、受診可能な曜日・時間や、選択可能なオプションは異なります。予約方法も、FAX、電話や、クリニック独自のWEB予約システムなど様々です。

拠点数が多い企業の場合、拠点ごとに健保が対応しているクリニックをリストアップして、コース内容、受診可能な日時、予約方法、請求方法などについてヒアリングする必要があります。例えば、20ヶ所のクリニックを利用する場合、電話で情報収拾をするだけでも20クリニック×15分=300分なので、まる一日はかかるでしょう。

【2】予約の枠がなかなか取れない

胃カメラや婦人科健診など、クリニックによっては予約枠が取りにくい健診項目があります。その場合、年度のはじめに予めクリニックに依頼して、必要な人数分の予約枠を確保しておくこともクリニックによっては対応してもらえます。

また、性別や、午前と午後で受診できるコースが違うことも多いので気をつけます。

【3】予約のFAXや電話に時間がかかる

健康診断の予約方法はFAXが主流です。

FAX送付のために、予約する従業員のリストや宛先をまとめた原稿をクリニックごとに作成する必要があります。原稿の作成にもかなりの時間を要することを見込んでおきましょう。

FAXの送信方法は、FAX機能のあるプリンターや、PDFファイルをFAX送付できるWEBサービスなどを活用して効率化します。

少ないクリニックで、毎年同じ場所を使うのが鍵

利用するクリニックの数をなるべく少なくすることと、毎年同じクリニックを利用することが効率化の鍵です。

ヒアリングの手間が省けるだけでなく、予約の際に昨年度の実績がクリニックのデータベースに登録されているためスムーズに予約できます。

健診業務は、アウトソーシング(外部委託)が可能です

定期健康診断は、
健康保険組合、従業員、クリニックという3者間の調整が何度も発生します。

クリニックごとに予約方法やコースごとの空き状況が異なるため、非常に複雑な管理が必要です。また、クリニックごとの対応方法が異なるため、担当者の経験則に依存しがちで業務内容がブラックボックス化しやすいという問題もあります。

担当者が変更になった際に、業務を可視化・仕組み化されていないため、引き継ぎがうまくいかずに後任者が苦労するケースも少なくありません。

社内で仕組み化して実施するのが難しい場合や、担当者が他の業務で忙しい場合は、健診業務を全てアウトソースするという選択肢もあります。様々な健保・クリニックを知り尽くした外部機関に任せることで、人事労務として本来やるべき業務に集中することが可能になります。

健康管理システムCarely (ケアリィ)で健康診断結果を一元管理することも可能です。健康診断にお困りの際は、ぜひiCAREの健診代行サービスにお問い合わせください。

※各種健保組合のサービス内容は2018年度時点の情報です。年度によってサービス内容は異なるため、最新の情報をHPまたはお電話にてお調べください。

執筆・監修

  • 小川 剛史
    この記事を書いた人
    小川 剛史
    1986年広島県生まれ。
    大学在学時から幅広い業種のデジタルマーケティングを手がける。(小売・食品・金融・医療etc)
    現職では、企業の健康管理・健康経営についての情報発信を続けており、オンライン記事では月間12万人、ダウンロード資料は延べ2万社が閲覧している。
  • 山田 洋太
    監修者
    山田 洋太
    金沢大学医学部卒業後、2008年久米島で離島医療に従事。
    2010年慶應義塾大学MBA入学。2011年株式会社iCAREを設立。2012年経営企画室室長として病院再建に携わり、病院の黒字化に成功。
    2017年厚生労働省の検討会にて産業医の立場から提言。2018年より同省委員として従事。