健康経営の実務
2022年7月7日 更新 / 2022年7月3日 公開

効果が見えない健康経営、次の課題は「従業員の巻き込み」。健康経営の認知度調査

経営戦略・人材戦略の一環として、年々実践企業が増えてきている「健康経営」。一方で、健康経営をはじめてみたものの2〜3年で取組をやめてしまう企業も現れている。

そこで今回は、健康経営を実践している・していないに関わらず、企業における推進担当部署への認知度調査を実施した。特に「認知度」「取り組み施策」「推進するうえでの課題」という3つの観点において、実践企業の実りになるヒントを発見していきたい。

「健康経営の認知度調査」の内容

以下の条件にあてはまる企業とビジネスパーソンにインターネット調査を実施。健康経営に対する認知度・取組施策・推進に向けた課題について、全412名から回答を得た。

対象企業・一次産業を除く全業種のうち
・従業員数100名以上の企業
対象者・対象企業に勤務する
・人事労務・総務の担当者層:206名
・人事・経営管理部門の管理職層(部長職以上):206名
調査時期2022年4月
設問数選択式12問、記述式1問
調査機関株式会社マクロミルによるインターネット調査

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結果と考察:「健康経営」の認知度

「健康経営」という言葉への認知度についての質問では、興味深いことに職位別では「人事・経営管理に関わる部長層以上」の管理職のほうが認知度が高い結果となった。管理職層が79.6%に対して、担当者層が47.6%であり、この違いをどのように捉えるべきかは、従業員規模を考慮する必要がある。

今回の認知度調査では、健康経営優良法人における大規模法人部門が対象となる従業員数100人以上の企業を対象としている。このうち、500名を超える中・大規模企業法人においては業務のサイロ化が進んでおり、人事労務・総務においても全員が従業員の健康管理に携わるわけではない。一方で部長層以上では人事戦略におけるトレンドワードとして認知が広がっていることが予想される。

参考として、新聞・雑誌等の紙媒体における「健康経営」のメディア露出数では2017年度からは一年を通して安定的に取り上げられている。

デジタル媒体としてGoogle検索においても同様の推移を示している。部長層以上では8割近い認知度であることから、今後は担当者層、そして従業員層への認知が広がっていくことが予想される。

結果と考察:健康経営における重要な取り組み施策

健康経営における取り組み施策(調査の選択肢一覧)

身体的な健康の側面精神的な健康の側面働きやすさの側面体制整備の側面
定期健康診断の受診勧奨ストレスチェックの実施育児・介護・治療と仕事を両立するための環境整備ヘルスリテラシー向上のための管理職研修
運動に関する教育・指導メンタルヘルスに関する教育・指導職場内コミュニケーションの促進健康保険組合との協議・連携
保健指導の実施専門家によるカウンセリング・相談窓口の設置自社の取組についての情報発信
感染症予防に関する取組残業・業務時間過多への注意喚起
受動喫煙対策に向けた取組休暇取得の奨励

健康経営を認知している企業を対象に、健康経営における代表的な取り組み施策のうち重要だと思うTOP3を複数選択してもらった。

大規模事業者は人材確保を、中規模事業者は働き方改革が目的に

まずは従業員数3,000名以上の大規模事業者に注目すると、「メンタルヘルスに関する教育・指導」「ストレスチェックの実施」「残業・業務時間過多への注意喚起」が約7割の回答を得ている。長時間労働はメンタルヘルス不調の主要因であるため、いずれもメンタヘルスに関する早期発見と予防を目的とした取り組みである。

また3,000名以下の中規模事業者と比較した際に、「育児・介護・治療と仕事を両立するための環境整備」(いわゆる両立支援)を選択した割合は大規模事業者の方が1.5倍多かった。メンタルヘルスと両立支援を重要視していることから、大規模事業者における健康経営の目的は、人材確保であることがうかがえる結果だ。

他方、3,000名以下の中規模事業者は「定期健康診断の受診勧奨」「ストレスチェックの実施」「休暇取得の奨励」といった法令対応業務が上位に挙げられた。健康経営をきっかけに、健康管理・働き方改革をより厳格に推進する目的だと捉えられる。

管理職と担当者では、健康経営への目的が異なっている

つぎに職位別の違いについて注目したい。人事・経営管理における部長以上の管理職層では、健康経営における重要な取り組みとして「メンタルヘルスに関する教育・指導」が約7割の回答を得ている一方で、人事労務・総務の担当者層では「残業・業務時間過多への注意喚起」「休暇取得の奨励」が約7割の回答を得ている。

つまり、管理職層では人材に関する事業リスクを気にしており、担当者層では法令対応への課題解決が健康経営では重要だと認識していると捉えられる。これは前述の企業規模における目的の差異と同じ傾向を示している。

結果と考察:健康経営を推進する上での課題

健康経営を推進する上での課題(調査の選択肢一覧)

Plan(計画)Do(実行)Check(検証)リソース(資源)
健康経営の目的が不明確自社に最適な施策が分からない効果が見えづらい予算の確保
経営層のコミットメントが足りない従業員の参加意欲が低いPDCAを回すための指標がない対応する社内人員の確保
施策を実施するノウハウがない相談できる社外の専門家がいない
健康リテラシー教育のためのツールがない

「効果が見えづらい」が健康経営における最大の課題に

従業員規模・職位を問わず、5割近い回答が「効果が見えづらい」に集中した。同様の調査が実施された2018年の東京商工会議所による調査と比較すると、この3年間のうちに健康経営は進化していることが分かる。2018年次店の調査では「効果やメリットが分からない」は22.9%であり、「どのようなことをしたらよいか分からない」「ノウハウがない」といった具体的な取り組み施策に関する課題の方が上位であった。

2022年の本調査では「効果が見えづらい」ことが健康経営を推進する最大のハードルであり、一方で実行面に関しては「従業員の参加意欲が低い」という、健康経営を継続している企業ならではの課題が上位となった。

なお、「効果が見えづらい」という課題には2つの意味がある。ひとつは効果検証のための指標(KPI)に何を設定すればよいのか分からないという意味。もうひとつはKPIを設定したとしても計測が難しいために有効ではないという意味だ。

その他の課題については職位によって意識する点が異なっている。人事・経営管理部門における部長職以上の管理職層では「PDCAを回すための指標がない」という課題認識が、担当者層と比べて有意に高い。一方で、担当者層は「経営層のコミットメントが足りない」という課題認識が有意に高い。

大規模事業者は従業員の巻き込み、中規模事業者は人員不足が課題

従業員規模別に健康経営の推進における課題を比べると、その体制の違いも明確になった。従業員3,000名超の企業では「従業員の参加意欲が低い」が、従業員3,000名未満の企業では「対応する社内人員の確保」が課題であるという違いが表れた。

大規模事業者の場合、健康経営以外にも働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の専門部署があるため、人材戦略として組織を活性化させるための体制が整っていることがうかがえる。そのため、中規模事業者に比べて推進担当者のリソースを確保しやすいのである。

本調査からの提言

実は今回の健康経営の認知度調査は、「健康経営の認知度はまだキャズムを超えてない」という仮説からはじまった。キャズムとは、あるサービスやカテゴリが普及するかどうかの分水嶺になる割合を深い溝(=キャズム)というマーケティング用語である。ちなみに一般的にキャズムは16%とされている。

「健康経営」という言葉がメディアに露出しはじめて約8年になるが、それでもまだまだ一部の人事担当者が知っているだけであり、ましてや部長職以上の管理職層ではキャズムを超えるほどの認知はされていないだろう。というのが当初の仮説であった。

しかし、実際には管理職層での認知度はほぼ8割(79.6%)にのぼり、担当者層(47.6%)よりも高い認知度となった。本調査ではインターネット調査での回答者を募るため、事前に勤務先の従業員規模や職位についてのスクリーニングが実施されているので、この数字を額面通りに受け取ることはできない。しかし、担当者層よりも管理職層の方が認知度が高いことには変わらないため、「健康経営」が企業の人材戦略として浸透していることが明確になった。

次のクリアすべき課題は「従業員の巻き込み」

そのうえで、これから健康経営を推進する課題として2番目に多く選ばれた「従業員の参加意欲が低い」に注目したい。フリーテキストでも同様の質問を投げたところ、次のような回答があった。

  • 会社の本気度と、社員1⼈1⼈が取り組もうとする気持ちがあるかどうか
  • 経営陣と従業員の意識に温度差があること
  • 従業員個⼈個⼈が⾃分のためと思って取り組むこと

ここで健康経営を推進する管理職・担当者として振り返っていただきたいことは、その取り組みが「健康の押し付けになっていないか?」である。企業としては人材戦略としてメリットがあるため健康経営を推進する理由があるだろう。しかし、従業員視点では「なんでわざわざ会社からプライベートな健康(食事や運動)まで制限されないといけないのか」「健康になれ、ということは体調が理由で休むなということか」といった反発が生まれてしまいかねない。

健康とはすべての人が関心をもっているものではあるが、個々人によって受け取り方が違う価値観でもある。

「健康経営」について企業側の認知度はキャズムを超えたといえる。しかし、従業員側にはまだまだ健康経営の真意が伝わっていない。健康経営とは企業視点で見れば「持続的事業成長のための人材への投資」であり、ひるがえって従業員視点で見れば「この会社で働くことが好きになるための環境整備」である。そのために社内外を問わず情報発信を続けることが重要な取り組み施策になる。

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執筆・監修

  • 小川 剛史
    この記事を書いた人
    小川 剛史
    1986年広島県生まれ。
    大学在学時から幅広い業種のデジタルマーケティングを手がける。(小売・食品・金融・医療etc)
    現職では、企業の健康管理・健康経営についての情報発信を続けており、オンライン記事では月間12万人、ダウンロード資料は延べ2万社が閲覧している。