ストレスチェック後に高ストレス者面談を実施する上でのリスクとは?

ストレスチェックにより「高ストレス者」となった場合、従業員は産業医面談が勧められます。しかし「面談を受けることで上司や同僚に知られないか」「面談を受けることによる意味はあるのか」などの理由で、受けたがらない従業員もいます。
では、事業者はストレスチェックを受けない人がいた場合、放置しても良いのでしょうか?
結論から言うと、ストレスチェックは事業者の義務であることから、放置してはいけません。本記事では、人事労務担当者の視点でストレスチェック後に面談を実施する効果や、面談を実施する上でのリスクを紹介します。
ストレスチェック後に面談を実施する意味と効果
ストレスチェック制度は、「従業員のメンタルヘルス不調の予防」に力を入れるために、平成26年制定の「労働安全衛生法の一部を改正する法律」に盛り込まれました。
高ストレス者に向けた産業医面談は、会社としてハイリスク者の対処法を決める重要な役割を担っています。産業医による意見が、休職や時短勤務などの「就業上の措置」が必要かどうかの判断材料になるからです。
「就業上の措置」について、厚生労働省は以下のように示しています。

また、会社は産業医に職場環境の改善点についてもアドバイスをもらうことが可能です。
前提:申し出があった場合、面談の実施は義務
前提として、高ストレス者への産業医面談は従業員が望む場合のみ実施可能です。逆に言えば、既に心身に不定愁訴があっても本人が「面談の申し出」をしないうちは設定できません。
申し出があれば、企業は早急に面談を実施する義務があります。厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度について」では、「『遅滞なく』 = 概ね1月以内」に面談を実施すべきとしています。
面談をスムーズに実施するためには、実施場所などを考慮して従業員ができるだけ医師と話しやすい環境を整えることが大切です。
しかしながら、何かと理由をつけて面談を拒否する従業員もいます。その場合、企業側の法的な義務事項についても伝えましょう。企業は、高ストレス者に対して面談の実施をしなければならないからです。
労働安全衛生法「第六十六条の八」には、以下の規則があります。
事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。
e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
つまり、高ストレス者が申し出をしないと面談はできませんが、「産業医面談が必要」と判断された場合、面談の実施は企業の義務事項です。
面談を拒否する従業員への具体的な対処法が知りたい方は、下記の記事をご参考ください。
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【効果1】従業員がストレス状態を客観視する機会を提供できる
産業医面談は、従業員自身にストレスやメンタル不調を認識させ、セルフケアを促す効果が期待できます。ストレスチェックの結果をもとに専門家である産業医が個別に対応するため、その人に合ったセルフケアを提案できるからです。
高ストレス者がセルフケアを行う流れは以下の通りです。
- ストレス反応が出ていることを自覚する
- 同僚や上司へ相談する
- 適切なセルフケアを実施する
高ストレス者は面談で自身の精神状態を把握し、業務環境を熟知している上司や同僚に対処法について相談します。
このとき注意すべきは「相談がしにくい立場」の高ストレス者です。例えば管理職や40代以降の従業員は、職務に対する責任感が強く「自分は大丈夫」と思い込みがちで、気づいたら出勤できない状態まで悪化しかねません。
セルフケアの具体的な方法は以下の通りです。
- 腹式呼吸で体の緊張を解く
- ストレッチと適度な運動をする
- 親しい人と交流したり、趣味を持ったりする
- 仕事量をコントロールする
- 暴飲暴食(深酒)を避ける
- 十分な睡眠をとる
ただし、既に不眠や倦怠感などの不定愁訴が強く出ている人に対して、産業医が運動や睡眠などの基本的なセルフケアを助言することはまずありません。一方で、暴飲暴食や深酒など「してはいけないこと」は伝えられます。
しかしながら、高ストレス者自身がセルフケアで回復を目指すのは難易度が高いため、引き続き産業医と連携して注意深く経過観察を行う必要があります。
【効果2】適切な就業上の措置を実施しやすくなる
高ストレス者に対して「適切な対応」をとれることは、産業医面談の大きな効果です。具体的には、産業医が高ストレス者のメンタル不調についてヒアリングし、就業上の措置が必要であるか意見書を提出します。
そして産業医の意見書を参考に、会社側は「就業上の措置」をすべきか検討します。このように面談が実施されれば、産業医と会社側が連携してそれぞれの役割を果たしやすくなるのです。
【効果3】業務・部署の中に潜む健康リスクを発見する
産業医面談は、健康リスクを発見して職場環境の改善にも役立ちます。複数人を検査するストレスチェックは高ストレス者が多い部署や業務の傾向がつかみやすく、面談では直接話を聞くことでストレスの原因を探りやすいです。
その結果、職場に潜む健康リスクを発見することが可能です。ただし、この過程をスムーズに行うには産業医が面談記録を分類して作成し、データを保管できるしくみを構築することが重要です。
例えば、高ストレス者からヒアリングした内容のうち、人事労務担当者に共有すべき情報と医師だけにとどめておく情報は異なり、内容を分けて管理しなければなりません。
また、面談担当の産業医が交代することもあるため、いつでも記録を引き継げるように保管することも大切です。
しかし実際のところ、ストレスチェック結果および高ストレス者とのやりとり、面談記録などそれぞれの情報を効率的に管理するのは容易ではありません。そこで、多くの企業が面談内容の体系的な管理もできる「健康管理システム」を導入しています。
例えば健康管理システム「Carely」なら、検査結果や面談記録を産業医や人事労務担当者それぞれの権限で確認し、業務に活かすことが可能です。残業時間や健康診断の結果などを従業員ごとに管理できます。
また、面談に必要な書類もすべてシステムで管理されることで、人事労務担当者の準備負担も軽減可能です。
ストレスチェック後の面談を実施する上でのリスク
ストレスチェック後の面談は企業と従業員双方のために役立ちますが、人事労務担当者が押さえておくべきリスクもあります。
ここでは面談を実施するリスクについて解説します。
- 【リスク1】ストレスチェックの結果を不用意に共有してしまう
- 【リスク2】労働者への配慮が足りずに面談の申し出が減ってしまう
- 【リスク3】面談への勧奨を実施せずに安全配慮義務違反とみなされる
- 【リスク4】資料の準備が間に合わず適切な面談ができない
高ストレス者の面談をスムーズに実施するために、ぜひ参考にしてください。
【リスク1】ストレスチェックの結果を不用意に共有してしまう
高ストレス者は、ストレスチェックの結果や面談で話した内容を関係各所に共有されるのではないかと心配し、面談そのものを受けたがらないことがあります。しかしこれは従業員側の誤解です。産業医には、面談で聞いた内容に対して「守秘義務」があるからです。
産業医は、面談で知り得た情報を本人の同意なしに会社に共有することはありません。従業員の健康管理業務に携わる人事労務担当者に関しても同様です。この点を対象者に周知して面談の実施につなげましょう。
従業員に安心してもらうためにも、情報の扱いには細心の注意が必要です。従業員の個人情報を扱う立場として、高ストレス者の個人情報を関係各所に安易に漏らすことがあってはなりません。
【リスク2】労働者への配慮が足りずに面談の申し出が減ってしまう
高ストレス者の中には面談の実施を上司や同僚に知られてしまい、自身の「評価や業務に影響が出るのでは?」と心配して面談を拒否する人もいます。しかし、面談の結果による不利益な取扱いは禁止されています。
不利益な取り扱いは以下の通りです。
- 解雇すること(退職を勧めることもNG)
- 契約の更新をしないこと(期間雇用者の場合)
- 不当な部署異動や役職の転換
- その他、労働関係法に違反する行為
参考:厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度について」
産業医面談は、従業員のメンタル不調を未然に防ぎ、就業環境を整えるために実施されます。そのため人事労務担当者だけでなく職場の上司や同僚も含めて、他の社員が高ストレス者の面談内容を知ることがないように、情報管理を徹底しなければなりません。
高ストレス者に配慮して、心配なく面談に臨めることを周知することが大切です。
【リスク3】面談への勧奨を実施せずに安全配慮義務違反とみなされる
企業は従業員に対して面談を強制できませんが、面談が推奨されているのに実施されないことは「安全配慮義務違反」とみなされるリスクがあります。高ストレス者を放置してしまうからです。
「安全配慮義務」とは、使用者(事業者)が労働者の安全に配慮する責任があることです。労働契約法の第五条には、以下のように明記されています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
「労働契約法」e-GOV検索
面談の実施は従業員に選択権がありますが、企業には社員が健全に業務を遂行するために環境整備の義務があります。従業員に対して面談実施を躊躇させる要因を一つずつ解決し、面談に関する誤解を解消しましょう。
【リスク4】資料の準備が間に合わず適切な面談ができない
産業医面談にはストレスチェックの結果以外にも揃える資料が多く、準備が間に合わなくなるリスクがあります。これは、人事労務担当者の負担になっています。
面談に必要な情報や書類は、以下の通りです。
- 前回と今回のストレスチェック結果:書類
- ある人のみ、過去の面談記録と指導内容:書類
- 社員情報と業務環境を示すもの:口頭やメールなど
- 過去の健康診断の結果:書類
面談対象者が多くなるほど、準備にかかる業務負担が増加します。そこで、面談の準備段階から徹底した管理体制の構築が重要です。バラバラになりがちな各種健康管理関連の書類を電子化して従業員ごとにまとめておけば、必要な時に情報の引き出しがスムーズになります。
口頭やメールなどで共有された個別の情報も従業員別に保存できると便利です。とはいえ、従業員別に保存するだけでは管理しきれないこともあるでしょう。
そこで、健康管理システムがあります。ストレスチェックに限らず、社員の健康管理を広くカバーしているので、システムに記録するだけで管理が可能です。
健康管理システム「Carely」の場合、以下の3点を効率化して面談をフォローします。
- 面談の事前準備
- 面談記録の保管、実施
- 面談での指導内容と意見書の確認
産業医と人事労務担当者それぞれが連携して面談を実施することが可能です。
まとめ:ストレスチェック後の面談をスムーズに進める準備が重要
高ストレス者面談をスムーズに実施するには、従業員によくある産業医面談に関する思い込みをなくすことが大切です。高ストレス者を理由に職場から不当な扱いを受けたり、プライバシーが侵害されたりすることもありません。
また人事労務担当者は、面談を実施するリスクを知り、できるだけ面談の実施につなげられるように尽力しましょう。面談の申し出があった場合は、準備段階で遅延がないように日頃から従業員の健康管理を徹底することをおすすめします。
煩雑で手のかかる健康管理に課題がある方におすすめなのが、ストレスチェック後の面談にも対応した健康管理システムです。この機会に検討してみてはいかがでしょうか。