休職・復職にムリなく対応
2022年9月21日 更新 / 2020年7月3日 公開

休職期間はどうやって決める?延長を判断する2つのポイント

就業規則で定める休職期間は、中小企業では6か月程度、大企業では1〜2年程度が多いです。休職は法律で定められておらず、企業の任意規定のため企業によってルールが異なります。そもそも休業制度がない企業や、期間やルールの詳細を決めていない企業もあります。

そのため休職は、きちんとルール化がされていないと不公平感や労使間のトラブルが生まれてしまいます。疾病の種類や個人の状況ごとに、延長や復職のタイミングを規定しておきましょう。

ここでは多くの企業は休職期間をどのように決めているのか、延長を認めるときの注意点、そして復職のタイミングを見分ける方法をお伝えします。

また復職後の休復職者への対応も確認しておくと、よりスムーズに復職への業務が行えるのでおすすめです。

一般的な企業の休職期間

日本企業の約9割が、病気休業制度(通常の年次有給休暇以外で、連続して 1か月以上、従業員が私傷病時に利用できる休暇・休職・休業する制度)をもっています。*1

病気休職制度の休職期間の上限は、「6か月超から1年未満まで」が22.3%、「1年超から1年6か月まで」が17.2%、「1年6か月以上」が26.1%と言われています。また、「上限なし」としている企業も4.5%あります。*1

多くの企業が、休職期間をメンタルヘルスとケガなどの一般疾病で同じ扱いにしています(88.9%)。*1

*1 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2013)メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査

メンタルヘルス対策は、「精神科の産業医やカウンセラーでなければ対策できない健康管理”」というわけではありません。テレワーク等により目の届かない場所で働く従業員に対して、「人事だからこそできるメンタルヘルス対策」ついて保健師が解説しています。ぜひご確認ください。

医学的に妥当な休職可能期間の設定

近年の長期休職に至る病気の多くは、「腰痛」と「メンタルヘルス」です。この2つで療養する場合、最低3か月、長くて1年6か月の休職期間が妥当だと考えられます。個人差はありますが、多くの人がこの期間内に療養できると言われています。

実際に、就業規則で休職可能期間を中小企業では6か月程度、大企業では1〜2年程度としている場合が多いです。中小企業と大企業では1人の休職が企業に与える影響が異なるため、休職期間も変わってきます。

戦後まもなくは「結核」が長期休職の原因でした。結核の治療は当時数年かかるのが一般的だったので、休職可能期間を3年に設定する大企業が多くありました。 その名残りは、公的機関での休職期間に残っています。時代の病気の特性に合わせた休職期間を考える必要があります。

傷病手当金を参考にした休職可能期間の設定

傷病手当金を受け取れる最大期間である1年6か月を、休職可能期間に設定する企業もあります。休職中、企業が社会保険料を支払う必要があるように、休職者本人も社会保険料の一部を支払う必要があります。これ念頭に休職可能な期間を設定します。

中には休職期間内において傷病手当金で標準月額報酬の3分の2に上乗せして給与の一部を支払う企業や、就労不能保険(GLTD等)を組み合わせて休職期間の従業員の経済的なサポートもしている企業もあります。企業規模や方針に合わせて、休職制度をどの程度手厚くするのか検討しましょう。

企業ごとの異なるルール

休職可能な期間を勤続年数によって変える企業もあれば、勤続年数に関わらず休職期間は一定としている企業もあります。勤続年数により期間が区分されている企業は休職制度がある企業の約半分、49.1%と言われています。*1

企業規模や業態、平均勤続年数は企業によってさまざまです。実際に施行しやすい制度を設けるようにしましょう。

休職開始時に休職期間をどう設定するか

休職を始めるときに決める休職期間は、原則就業規則に則ります。例えば、「休職期間は2か月、最大で6か月まで延長可能」という就業規則の場合は、2か月間を最初の休職期間にします。その後、延長するかどうかを産業医の意見を参考に判断していきます。

休職期間を初めから長く設定してしまうと、休職者本人への不利益になる可能性があります。休職期間が長すぎると、従業員の経済的リスクが高くなってしまうからです。従業員は生活のために仕事をしているので、単に休めばいいという判断はできません。

原則、最低限の長さを最初に用意して、あとは個別に対応していきましょう。

休職期間延長の判断2つのポイント

休職中の従業員が休職期間の延長を申し出てきたとき、許可するか判断するのに必要な観点をまとめます。「休職者の病状回復度」と「企業の負担度」という2つのポイントから考える必要があります。

1.休職者の疾病回復度

がんなど身体の不調とメンタルヘルス不調では、療養期間も復職基準も大きく違います。身体の不調の場合は、加療後病状が回復して日常生活に支障がなくなれば、復職できることが多いです。しかしメンタルヘルス不調の場合は、日常生活が送れるようになった後、就業が可能な状態かを見極め必要があります。

メンタルヘルス不調の場合、生活リズムを見て復職可能かどうかを判断します。復職可能か同かを判断するくわしい方法は記事後半にまとめています。

特に睡眠の状況が良いために起床時間が一定であることや、起床時の疲労が取れているのかを基準にします。疲れが取れている状態を0、全く疲れが取れなくて起き上がれないのを10にした場合、0〜1が望ましいです。疲労度が5以上はまず復職は厳しいといえるでしょう。

休職者は、働きたいという気持ちや経済面の理由から、早く復職したいと訴えるケースがあります。しかし病状回復が不十分なのに復職に同意してしまうと、仕事に身体や気持ちがついていかず、再休職のリスクとなります。従前の職務を行える健康状態なのかを見極め、休職期間を設けることが必要です。

とはいえメンタルヘルス不調者への対応は難しく、多くの企業ではメンタルヘルス対策を1番の課題としてあげていることがわかっています。

2.企業の負担だけが上がる休職期間の設定はしない

休職制度は、体調に不安がある従業員のセーフティネットであり、安心感に繋がります。また、復職のできる社内環境を作ることで、本人だけでなく周囲の従業員にとっても安心感が生まれます。

一方で、休職期間が長過ぎることでの弊害も多く存在します。

  • 従業員のキャリア形成への影響
  • 就業意欲性の欠如
  • 組織内の不平等感による不満発生
  • 企業側の経済的負担

特に長期間の休職は、従業員の就業意欲の欠如を引き起こします。長期化したり繰り返す休職復職の場合は、本人のキャリアそのものへの影響も強く発生してしまいます。

また、明確なルールや規定のない状況の中で、休職期間をある特定の従業員だけに適応した場合、なぜ自分の場合はこの期間であの人の場合は長いのだといった不平等感にもつながります。

だからこそバランスのとれた最適な休職期間が必要なのです。なお、休職についてより知識を深めたい場合は、労働政策研究・研修機構の「労働問題Q&A」が参考になります。

休職期間の延長は認めるべきか?

復職の条件として、「従前の職務を通常通りに行える健康状態に回復していること」が挙げられます。体調が回復しないまま休職期限を迎えると、就業規定に規定されていれば、基本的には自然退職(もしくは解雇)になります。

休職者の中には、もう少しで回復できそうだからといった理由で、休職期間満了後に、休職期間の延長を求める人もいるのではないでしょうか。また「就業規程に特別な事項に該当する場合(もしくは会社が必要と判断した場合)は休職延長を検討すると定められているが、自分も延長できるのではないか」と、休職延長を申し出る人もいるかもしれません。

このような場合、どのように対応するべきでしょう。

原則、休職期間の延長は認めなくていい

休職は法律で明確な決まりはなく、会社ごとに社内規程で定めて運用されています。休職期間は、就業規程で定められた日数で対応するのが原則です。申し出をされたからといって、休職期間の延長を認める必要はありません。

申し出を受理する義務はありませんが、例外として延長を認めるのは会社の自由です。しかし休職期間が長引くと、復職が難しくなります。また、一度例外を認めてしまうと、「○○さんの時は、延長してもらえていた」という不満の原因になり得ます。

後々公平な対応ができなくなることを避けるためにも、むやみな期間延長は避けましょう。

期間延長を認めないほうがいいケース

「現時点では回復見込みが判断できないため、もう少し様子を見たい」という理由での期間延長は絶対に避けましょう。

「○○さんの時は、延長してもらえていた」と言われたり、一度延長してしまった休職者に再度延長を申し入れられた場合に、なぜあのとき期間延長を施行したのか、と言われた時に明確に答えることができず、トラブルを引き起こしてしまう可能性があるからです。

期間延長を認めてもいいケース

フィジカル疾患の場合、治療方針によっては回復にかかるおおよその期間がわかり、期間延長を認めやすいケースもあります。一方でメンタルヘルス疾患の場合は、あとどれくらいで回復するのかが判断しづらいため、期間延長を決断するにはリスクが高いです。

例えば、加療中であり、あと1、2か月で復帰できることが主治医より明確に伝えられており、休職期間が満了のタイミングだと復職は難しいが、少しの延長で復職が可能なケースは、会社側が復職を検討してもいいと言えます。

このようなケースが、いわゆる「特別な事項に該当する場合」です。会社として承認する理由が明確な場合のみ、期間延長を検討するようにしましょう。

人事から休職期間を延長してもらうケース

本人の回復状況や希望で期間延長するのではなく、人事から期間の延長をさせることはできるのでしょうか。

結論から言うと、ポストがないなど会社都合の理由で休職を延長することはできません。

休職は休職事由がある際に施行され、休職期間は解雇猶予期間としての意味を持ちます。休職期間が満了する前に病状が回復すれば休職事由は消滅するため、休職期間が満了していなくても、その時点で復職させなければなりません。

病気が回復しているにも関わらず復職させないことや、会社の都合で勝手に延長することは、労働者の「労働する権利」を奪うことになってしまうため、休職事由が消滅したら復職できるよう体制を整える必要があるのです。

しかし会社の都合により、休職期間を延長するケースもあります。例えば以下のようなケースです。

業規則で一般的に記載のある「特別条項」の適応: 会社にとってどうしても残って欲しいスキルの高い社員の場合、延長することがあります。

業務が原因で休職に入った場合への配慮: 業務起因性がある場合は、休職期間満了で退職とはならず、ある程度の配慮が必要とされています。どのくらいか、明確な基準はありません。

疾病性が明らかに改善傾向にあるものの休職期間が満了に近づいている場合:「期間延長を認めてもいいケース」で述べたこの場合も、配慮するように過去の裁判の判例では言われており、会社都合の延長として扱うことがあります。

休職復職の対応は個別の対応で大きな工数がかかり、センシティブな対応が求められます。人事経験が豊富な方でも毎回対応に悩んでいるのではないでしょうか。

休職期間の延長をする際は文書を残す

期間延長を申し入れる場合、文書になぜ特例として認めるのかを残すようにしましょう。口頭でのやり取りのみだと事実関係が曖昧になりやすく、後々なぜ期間を延長したのか、どのような約束になっていたのかを確認できないためです。

以下を休職者と確認して文書に残しましょう。

  • 休職期間延長の期間
  • 復職するための条件
  • 延長後、復職できなかった場合の対応(退職になるか否か)
  • 期間延長中の給与の有無

これらの事項を延長前に、休職者と確認して同意を得るようにしましょう。延長しても回復の兆しがない場合や、復職するための条件を満たすことができない場合は、延長期間が終了したら自然退職(もしくは解雇)になる旨を確実に説明することも必要です。

生活リズム回復の見極め

休職中は、「からだをしっかりと休める期間」と「復職に向けて準備をする期間」の2つがあります。からだを休めて体調を回復させた後に、働けるように生活リズムを整えていきます。今休職者がどの段階にいるのかを見極め、休職を延長するか、復職させるかを判断しましょう。

からだをしっかりと休める期間

睡眠が取れ、食事が食べられるといった日常生活を送れるようにすることを1つ目の目標に過ごします。好きな時に眠り、好きな時に食べる生活を送っていい期間です。

復職に向けて準備をする期間

復職に向けて生活リズムを整えることを目標に過ごす期間です。規則正しい睡眠パターンを作り、3食規則正しく食事を取ることを目指していきます。

仕事をするためには通勤ができることや、1日の疲れを次の日の朝までに取ることも必須です。復職後、これらをできるようにするために、ケースによっては、通勤訓練(※1)や、リワーク施設(※2)に通うことを推奨することで、復職できるようサポートすることもあります。

生活リズムが確立し、通勤訓練やリワーク施設での訓練が順調に進んだら、人事や産業衛生スタッフは、復職の手続きに向けて動き出す必要があります。

※1(通勤訓練):会社の就業時間に合わせて、自宅から職場の近くまで通勤経路で移動し、就業時間の間、図書館やカフェで過ごすことで、就業している時と同じ生活スタイルを行う。体力や精神的な気持ちがついていくかを見極めることで、従業員自身が不安を和らげながら、復職準備を行える。

※2(リワーク施設):継続的に通うことで、復職に必要な生活リズムを身に付けるとともに、プログラムに沿って軽作業を行うことで、復帰に向けたウォーミングアップを図ることができる施設のこと。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。