会社の義務である3種類の健康診断。人事が最低限受けさせるべき検査項目とは

労働者の健康を守るために、会社で実施の義務があるのが健康診断です。けれども、その健康診断には複数の種類があることをご存知でしょうか?勤務時間としては同じ正社員であっても、業務内容によって健康診断の種類が異なってくるのです。
今回は、事業者が労働者に対して実施すべき健康診断と、受けさせるべき検査項目について解説します。人間ドックとの違いと健康診断の実施義務についても触れますので、人事労務に関わる担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
人事が最低限知っておくべき健康診断は主に3つ
従業員の健康管理について定められている労働安全衛生法では、以下5種類の一般健康診断が事業者に義務付けられています。
健康診断の種類 | 実施時期 | 対象となる労働者 | 労働安全衛生規則 |
---|---|---|---|
雇入時の健康診断 | 雇入れ時 | 常時使用する労働者 | 第43条 |
定期健康診断 | 1年以内ごとに1回 | 常時使用する労働者(特定業務従事者を除く) | 第44条 |
特定業務従事者の健康診断 | 右記業務への配置替え時、6月以内ごとに1回 | 労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者 | 第45条 |
海外派遣労働者の健康診断 | 海外に6月以上派遣時、帰国後国内業務への就業時 | 海外に6月以上派遣する労働者 | 第45条の2 |
給食従業員の検便 | 雇入れ時、配置替え時 | 事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者 | 第47条 |
この中でも一般的なオフィス勤務の会社において、人事が知っておくべき健康診断は、「定期健康診断」「雇用時の健康診断」「特定業務従事者の健康診断(深夜業等)」の3つです。まずは、3つの健康診断の特徴と検査項目について、詳細を見ていきましょう。
1.定期健康診断
常時使用する労働者に対して、事業者は1年以内に1回の健康診断を実施する義務があります。この一般的な健康診断のことを「定期健康診断」と呼びます。
定期健康診断で検査する項目は、以下の通りです。
労働安全衛生規則第44条
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査及び喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- GOT、GPT、γ-GTP検査(肝機能検査)
- LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライドの量の検査(血中脂質検査)
- 血糖検査
- 尿中の糖及び蛋たん白の有無の検査(尿検査)
- 心電図検査
上記の3、4、6~9、11に関しては、医師が必要でないと認める場合に検査を省略することが可能です。しかし、実務上は管理の煩雑さからあえて検査項目の省略をすることはありません。厚生労働省でも「定期健康診断の項目の省略基準」が示されていますが、その基準に沿って機械的に省略する項目を決定するわけではなく、その人の症状や既往歴によって総合的に判断すべきと案内されています。
2.雇用時の健康診断
「雇用時の健康診断」とは、新規で常時使用する労働者を雇い入れるときに実施が義務付けられている健康診断のことです。
雇用時には、以下の項目について検査を行います。
労働安全衛生規則第43条
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 血色素量及び赤血球数の検査(貧血検査)
- GOT、GPT、γ-GTP検査(肝機能検査)
- LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライドの量の検査(血中脂質検査)
- 血糖検査
- 尿中の糖及び蛋たん白の有無の検査(尿検査)
- 心電図検査
上記の健康診断は雇用時に行われるもので、新規雇用者が働き始める直前か、直後に行います。ちなみに、採用が決定していない段階で受けさせる必要はありません。また、3か月以内に医師による健康診断を受けた者を雇用する場合、書面で健康診断の結果を証明できれば、雇用時の健康診断を省略することができます。
3.特定業務従事者の健康診断(深夜業等)
深夜に働く人や危険な業務に携わる人は「特定業務従事者」に該当します。この場合、一般的な定期健康診断ではなく、「特定業務従事者の健康診断」を受けさせる必要があることに注意が必要です。
特定業務として分類されるのは、以下の業務となります。
労働安全衛生規則第13条第1項第3号
- 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- さく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激な業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 坑内における業務
- 深夜業を含む業務
- 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
- 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
- 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
- その他厚生労働大臣が定める業務
この場合、前述した一般の定期健康診断と同じ項目について検査を行いますが、健康診断のタイミングは配置換えのタイミングおよび6か月以内に1回となります(労働安全衛生規則第45条)。
ここまで3つの健康診断の特徴と検査項目の詳細について解説しました。
健康診断と人間ドックの違いは?

大病の中には初期段階で自覚症状が現れず、隠れて進行するものもあります。そのため病気を早期発見するために、会社の健康診断の代わりに人間ドックの受診を希望する従業員もいます。そんなとき、健康診断の担当者としては法的に正しい対応をご紹介します。
健康診断は労働者に対して毎年行われる検査ですが、人間ドックは任意の検査です。かかる費用は一般的な健康診断よりも高額となり、健康保険も適用されません。検査項目の数や種類は、医療機関によって異なります。日帰りで終わるものから数日間入院するものまで、検査にかかる日数も様々です。
法律で決められている健康診断の場合、おおまかな健康状態を把握できるものの、人間ドックほどの詳しい検査は行われません。検査結果は書類で送付されますが、健康診断の結果だけでは病気を見逃してしまうケースもあります。人間ドックであれば、基本的な測定で終わらず全身を隅々まで検査できるため、健康診断よりも隠れた疾患を見つけやすくなるでしょう。また、医師から直接、検査結果について説明を受けられるのもメリットです。
人間ドックを定期健康診断の代用とする
人間ドックは年に一度実施する定期健康診断の代わりに使用することができます。
労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
労働安全衛生法第66条第5項
つまり、人間ドックに健康診断で必要とされる検査がすべて含まれていて、その結果を証明できる書面を用意できるなら、健康診断の代用としても問題ないことが分かります。
ただし、法定項目以外の健康診断結果の取扱には注意が必要です。人間ドックの結果は要配慮個人情報であるため、人事や産業医が人間ドックの結果を取りまとめたり利用する際には、健康情報取扱規定に基づく必要があります。
また、人間ドックは健康診断よりも費用が高額となるため、どの範囲まで事業者側が負担するかを事前にルール化する必要があります。健康診断の範囲を超える検査項目については労働者の自己負担とするか、人間ドックの検査項目に対して補助金を出すか、事業者によって対応は様々です。
健康診断は企業の義務。労働者は受けなくても良い?
健康診断の実施は事業主側の義務ですが(労働安全衛生法第66条第1項)、従業員にも「自己保健義務」があります。会社が行う健康管理への措置や配慮に対して協力することが求められるのです(労働安全衛生法第66条第5項)。
さらに、会社で実施される健康診断には「従業員がその職務に従事できる」ことを証明する役割もあります。このため、休暇中であるなど特別な事情がない限り、従業員は全員健康診断を受診しなくてはなりません。
もし健康診断を拒否する従業員がいる場合、事業者側は職務上の命令として健康診断の受診を命じることが可能です。そして、就業規則にその旨を記載している場合には、健康診断を拒否する従業員に対して懲戒処分を行えます。そのため、会社の健康診断の受診は任意ではなく、一般的にどの従業員も健康診断を受けることになります。
まとめ
一口に健康診断といっても、いくつもの種類があります。一般的なオフィス勤務な会社の人事が最低限しっておくべき3種類の健康診断について、検査項目や受診させるべき頻度を確認しておきましょう。深夜業など配置転換のタイミングで健康診断の種類が変更となるケースもあるので見逃さないよう業務マニュアルに記載するなど注意が必要です。
近年増えている人間ドックの受信希望については、検査項目などの条件を満たせば定期健康診断の代用が可能です。ただし個人情報保護の観点や料金補助などいくつか社内ルールの違いも発生するため、従業員からの要望が出る前に適切な準備を進めておきましょう。
